あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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シンデレラはあばら屋をもらいました

妄想がおかしなところに行きそうになった

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「この草、本に、耳たぶみたいな触り心地って書いてありましたけど、ほんとですね~」
とのどかが言ったとき、貴弘は、

 これは俺に自分の耳も触ってみろと誘っているのだろうか、と一瞬、思った。

 だが、のどかがそんなことを思うはずはない。

 それはおそらく、自分の願望だ。

 だが、一度そう思ったら、もう、のとがの柔らかそうな耳を触りたくてたまらなくなる。

 実に気持ちのよさそうな耳だ。

 泰親のふさふさの猫耳よりもある意味。

 ぷっくりしてて。

 うっすらピンクで。

 すべすべな触り心地で、ちょっと湿っ……

 ているのは、猫の鼻か。

 妄想がおかしなところに行きそうになったので、冷静になってみる。

 心を無にするんだ。

 のどかは今、オランダミミナグサの側にしゃがんで、その葉に触っている。

 心を宇宙の深淵まで持っていきながら、葉をつかんだあとで、その近くにあったのどかの可愛らしい耳に触れてみた。

 まるでなにかの実験でもあるかのような顔つきで――。

 心を無にして、淡々とぷにぷにしてみる。

「……なるほど」
と深く頷いて見せた。

 のどかは固まっているようだ。

 平静を装い、
「行くぞ」
と言うと、のどかは間の抜けた声で、

「へ?
 は……、はい」
と返事をしてきた。

 貴弘は、のどかの少し先を歩きながら、

 よし、上手くやれたはずだ、と思う。

 信也がこの場に居て、見聞きしていたら、
「いや、どの辺がだ……」
と言ってきそうだったが――。





 その頃、綾太はとあるチェーン店のファミレスに、そこのオーナーとともに居た。

「はは、ほんとですね」
と笑いながら、オーナーに相槌を打ったとき、笑顔で入ってくるカップルが見えた。

 うっ、のどかと成瀬社長っ。

 結婚したというのは本当だったのかっ。

 家族で来るファミレスに来るくらいだからなっ。
とさすがは幼なじみ、のどかと同じ発想で思う。

「いや、あんた仕事で来てるだろうが」
と貴弘が聞いていたら、突っ込んできそうだったが。

「海崎社長、もうこれでお仕事終わりなんでしょう?
 ビールなんてどうですか」

「あ、ありがとうございます」

「つまみも用意させましょうね。
 実はうちにも高いメニューってあるんです~」
と人のよさそうなオーナーが笑顔で言ってくる。

 はあ、と話を合わせながら、綾太は、チラチラと二人の様子を窺った。

 楽しそうだ、のどか。
 俺と居るときよりも……。

 ……って、お前、なに成瀬社長にクーポン渡してんだ。

 成瀬社長が、クーポンなんて使うわけないだろ。

 あ、使った。

 ファミリーだからか……。

 ファミレスのファミリーは大抵クーポン使うもんな。

「社長?
 海崎社長?」
と呼びかけられて、ハッとする。

「いや、素敵なお店ですよね。
 インテリアも洒落てるし、清潔だし。

 従業員の方もみんな愛想がいいし。
 職場環境がよくて、教育もよくできてるんでしょうね」
と思ってることをなんとなくそのまま言って、

「えっ、ありがとうございますっ」
と喜んだオーナーに、ビール3杯もおごってもらってしまった。





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