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好きだと言ってから考えよう
おしゃれな古民家カフェじゃなかったのか
しおりを挟む昼休み、貴弘はちょっと困っていた。
意外にも雑草カフェ社員寮の方は、サクサクいろんなことが決まっていっているのだが。
自分とのどかのことは、なにも決まっていない。
なんだかわからないが、怒涛の展開で物事が動いていくので、のどかが好きかどうか落ち着いて考えられないのだ。
やはり、此処はひとまず好きだと言って。
他所に行かないよう、手を打っておいてから考えるか、と仕事のように冷静に対処しようと思ったところに、また、たこ焼きを持って、のどかが現れた。
「いやあ、今日もいい天気ですね~」
と緊迫感のない声で言っている。
すっかり社員たちとも打ち解けているのどかは、自分に持って来るより先に、たこ焼きをあちこちに配っていた。
「ありがとうございます、のどかさん」
「のどかさん、カフェ出来たら、言ってくださいよ。
オープン祝いになにか持っていきますから」
と若い男性社員たちが好意的にのどかに話しかけるのを聞きながら、
もっとオッサンばかりを雇えばよかった……と思っていた。
「はい、社長」
とのどかは最後に自分のところにたこ焼きのパックをひとつ持ってきた。
「ああ、ありがとう」
「お茶でも淹れましょうか」
「いや、飲みかけのがあるからいい。
お前、自分の分は、そこ行って淹れてこい」
とコーヒーサーバーを指差すと、はーい、とのどかは軽い足取りでそちらに行った。
ソースとかつおぶしと青のりのいい匂いがするので、仕事の手を止め、貴弘はたこ焼きを食べることにした。
「ほら」
とのどかに爪楊枝をひとつやると、
「社長、それ一パック食べられるでしょう?」
とのどかは遠慮して言ってくる。
「いや、そんなにはいい。
それに……」
それに? とのどかがこちらを見た。
それに、ひとつのものを分け合うのは夫婦っぽくていいなと思うんだが。
……思うんだが、口には出せなかった。
のどかが遠慮しないよう、ひとつ食べると、
「あ、では」
とのどかもひとつ食べる。
「やっぱり、あつあつのは美味しいですね~。
これもう、しっとりしちゃってますけど。
たこ焼きとかお好み焼きとか、熱い状態で、かつおぶしが踊ってるのとか見ると、より美味しい感じがしますよね~。
うちも出したいですね、お好み焼き。
雑草入れて」
「雑草、入れても味わからなくないか?
ソースの味が濃すぎて。
っていうか、おしゃれな古民家カフェじゃなかったのか。
ソースの匂いに満ち満ちていいのか」
と問題提起しながら、貴弘は頭の中では違うことを考えていた。
……とりあえず、好きと言ってから考えようと思ったのに。
そのとりあえずが、何故か言えない。
こいつのまるっとして、なにも考えてなさそうな顔を見ていると、上手く言葉が出せなくなるな。
仕事のときみたいに、とりあえず、抑えておいてから、あとで考える、みたいな感じにして安心したかったのだが。
そんな自分の前で、のどかは真剣にたこ焼きを眺めながら、考えている。
「でも、飯塚さんが言ってたみたいに、なにかうちの店にしかない特徴を打ち出さないとですよね」
今はカフェのことしか考えられないらしいのどかは、こちらがいろいろと思い巡らせていることには気づいていないようだった。
「え? 特徴もうよくないですか?」
と近くで他の社員とたこ焼きをつついていた北村が苦笑いして言ってくる。
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