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好きだと言ってから考えよう
これ、夢なんですかね?
しおりを挟むそのあと、二人で海の見えるカフェでランチを食べた。
気持ちのいい風が吹いていたので、テラス席だ。
こうして、猫耳神主も居なければ、呪いで人が降ってきたりもしない場所で、この人と向かい合っていると、変な感じだな、とのどかは思っていた。
だって、これではまるで、普通の恋人同士か夫婦ではないか。
「変な感じです」
思ったままをすぐ口にしてしまうのどかは、このときもすぐに言葉に出してしまっていた。
貴弘がこちらを見る。
青空と対岸の工場群と大きな白い船を背にした俳優のようなイケメンの髪が、今、目の前で風になびいている。
「……なんで、私、今、貴方と此処でこうしてるんでしょうね?」
相当トボけたことを言った自覚はあるのだが、貴弘は笑わなかった。
この明るすぎる五月の日差しのせいか。
薄暗い屋敷の中での怪しい出来事の数々がすべて夢まぼろしか、気のせいのように思えて。
いや、家に帰れば、確実に、暇を持て余した猫耳神主が居るんだが……。
「なんだか、あの日、夜のロビーで目を覚ましてから、今まで。
ずっと夢を見ていたような気がします」
で、今、この陽光の中で、苦手な取引先の社長だったはずの貴弘が目の前に座っていることに気づき、思うのだ。
「これ、夢なんですかね?」
「今か」
またか、と貴弘は言う。
「いや、ふいに日常に帰ると、呪いのあばら屋敷に住んでることより、貴方とこうしていることの方が不思議なことのように思えて」
と本音をもらすと、
「ようやく正気に返った感じか」
と貴弘は呟く。
「俺はもうちょっと早くに返ってた」
と言う彼に、
「えっ? じゃあ、早くに、やっぱり離婚しようと思ってました?」
とのどかは身を乗り出し、訊いてみた。
迷惑ばかりかけていた自覚はあるからだ。
だが、
「いや」
と青いボトルから水を注いでくれながら、貴弘は言う。
「俺は早くに正気に返ったうえで、お前と暮らしてみようと思ったんだ」
そう驚くようなことを言ったあとで、貴弘は、
「俺たちは今、吊り橋の上には居ないと思うが。
やっぱり、お前のことが気になる気がするから」
とよくわからないことを言う。
「……いいんですか? 私で」
「なんだかわからないが。
酔っていたとはいえ、俺がお前を選んだんだ。
いいんだろう」
いや、その理屈で言うなら、酔っていたとはいえ、私も貴方を選んだわけですから、いいんだって話ですよね?
「まあ……お前も正気に返ったところで、一からちゃんと付き合ってみよう。
そういえば、これ、デートなんだろ?」
改めて言われて、のどかは赤くなる。
「あ……、えーと。
そうでしたね」
と俯いた。
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