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いっしょに住めと言われました……
ショップカードとかも発注しないとな
しおりを挟むのどかたちはそのルーフバルコニーで夕食をとることになった。
一階の三つ星の店で修行してきたというシェフの店から料理を運んでもらって。
「家で食べるか」
と貴弘が言ったのは、どうやら、泰親のためのようだった。
外に小屋を作ってやるからそこに住めとか言ってたのに、やさしいな、とのどかは三人分の料理が並べられたテーブルを見る。
そうだよな。
基本、やさしいよな、この人。
仕事中は、綾太といっしょで逆らったら、斬り殺すっ、みたいな雰囲気を醸《かも》し出してるけど。
こんなよくわからない嫁の面倒もよく見てくれているし。
……なんかどんどん申し訳なくなってきたな、と思っていると、バルコニーに幾つか置かれたランプに明かりを灯していた貴弘が、
「どうした。
テンション低いな」
と言ってくる。
「いえ、なんだか、なにもかもが立派すぎて、申し訳ないなと思っていたところです」
と言うと、
「申し訳ないって。
お前は俺の妻だろうが。
金に困ってるなら、通帳の一、二冊はやると言っただろ」
と言い出す。
「そんなこと言ってると、悪い女に騙されますよ」
とのどかが言うと、泰親が、
「こいつは悪い女には言わないさ。
通帳も金も受け取りそうにないお前だから言ってるんだ。
人を見る目はありそうだから」
と笑う。
たぶん、貴弘の人を見る目を褒めて言ったのだろうが。
貴弘は、どうせ、受け取るわけないと思って言っている、というところが気になったらしい。
「いや、俺は本当に渡す気あるぞ。
今すぐ渡す」
とムキになる。
家の中に取りに入ろうとするので、まあまあまあ、とのどかが宥めた。
「冷めますよ、料理。
それに、私なんかにそんなもの渡しちゃ駄目ですよ」
「そうだぞ。
のどかは入ってきたら、入ってきた分だけ、気持ちよく全部使う女だぞ。
給料と退職金が出ても、きっとなにも残らないぞ」
と横から泰親が余計なことを言ってくる。
だが、まあ、その通りだ……と思っている間に、貴弘が席に着いた。
ランプの灯りと街の灯りが、泡仕立てのソースがかかったつぶ貝のソテーをほんのり照らし出している。
飲み物もワインから、お店の人が持ってきてくれた、ちょっと野性味のある味わいのモヒートに変わっていた。
料理を食べ、酒を呑んだのどかはいい気持ちになりながらも、申し訳ないな、という思いを強くする。
「社長ー。
明日、給料出るから、払いますね、食事代」
「払えないんじゃないか?
いろいろ支払いもあるだろう。
店の備品もそろえないといけないし」
うっ、正論。
「た、退職金が出たら……」
「ショップカードとかも発注しないとな。
メニューも洒落たやつを作ってもらった方がいいぞ。
飯塚はそんなに外は手を加えないと言っていたから、あの店、たぶん、素敵な古民家とあばら屋の中間くらいになるぞ。
いい店だと思わせるかどうかは、内装や小物次第だろ。
ショップカードとメニューは飯塚がいいデザイナーを知ってると言ってたから、頼め。
懇意にしている、モデルハウスにインテリア入れてる店の店主も居るそうだぞ」
うっ、また金かっ。
「じゃあ、此処の支払いは、失業手当が出たら……」
と言いかけたが、貴弘は、しつこいぞ、という顔をしたあとで、
「……じゃあ、年金にしろ」
と言ってきた。
「は?」
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