あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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警察に通報されました

そんな社員寮、どうなんだ?

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 いや、むしろ、よく今までクビにならなかったな、と思ったのだが。

 おそらく、貴弘は彼の存在自体、忘れていたのだろう。

 なにせ、その上司から話があっただけで、一度も出社してきていないわけだから。

「まだ仕事もしてないのに、なにを理由にクビにするんだ。
 よく考えたら、手続き終わってないから、給料も払ってないし。

 まず、出社しろ。
 そして、失敗してクビになれ」
と貴弘は言い出す。

 いや、なに言ってんだ、この社長、と思ったが、青田は、少しホッとした顔をしていた。

 気負って出社しなくてもいいと気づいたからだろう。

 クビになっても自分のことだし。
 失敗しても自分のことだ、と思って、気が楽になったのかもしれない。

 ……でも、失敗はまずいですよ、とのどかは、おのれや周りの人の仕事のミスを思い出し、青くなる。

 会議で吊るし上げられますよ。
 うっかりミスで二、三百万とか飛んだら。

 ときには、人のミスも私のミスにされたりしますよ。

 私のミスじゃないのに、職場が数日、針のむしろになったりしますよ。

 そこまで考えたのどかは綾太を振り向き、

「会社辞めさせてください」
と言っていた。

「いや、お前がかっ。
 っていうか、お前はもう、半月前にクビにしてるだろうがっ」

「そうでしたね……」

「理由はなんなんですか?
 半月前に、この方をクビにした理由」
と何故か、青田が突っ込んで訊いてくる。

 ぐっと綾太は詰まったが、この青年のために真摯に答えねばならないと思ったのか、
「……俺がこいつの顔を見たくないと思ったからだよ」
と素直にみんなの前で白状した。

「それでクビとかっ」
と警官が驚き、

「横暴だな、さすがは社長」
と八神が呟き、

「あー、僕、公務員でよかったですっ」
とまた警官が呟き、笑う。

 綾太が、
「待て、おまわりっ。
 なんでお前、今、二回も俺を責めたっ」
と八つ当たりを始めた。

 ええっ? 二度めは責めてませんっ、
と怯える警官の前で、青田がさらに綾太を追求する。

「なんで、この方の顔も見たくなくなったんですか?」

 うっ、と綾太は黙ったが。

 今までハッキリ言わなかったことを此処で口にする。

「……いよいよ、政略結婚の相手が決まりそうになったからだ。
 今、のどかの顔を見たら、会社のために結婚すると決めたのに、気持ちが揺らぎそうだったから」

 八神が、
「やっぱりなー」
と言い、貴弘が、

「顔見たくないんなら、のどかに会いに来るなよ。
 そして、うちの社員寮に住むなよ」
と文句をつけ始める。

「……社員寮なのに、よその方が住んでるんですか?」
と不思議そうに訊く青田に、八神が、

「俺も住むぞ。
 そして、お前んとこの社長も住むぞ。

 そして、朝っぱらから、雑草がゆを食べさせられるぞ」
と教えていた。

「嫌なんですかっ、八神さんっ、雑草がゆっ」
と言ったあとで、のどかは、ふと、思いつく。

「そうだ。
 うちに住んだらいいじゃないですか、青田さん」

 ええっ? という顔を貴弘がしていた。

「社員寮の中にも仕事できるスペースとか作ったら、わざわざ出社しなくてもいいし。
 仕事や他の社員の人たちに、寮の中で慣れてきてから、出社すればいいじゃないですか」

 のどかがそう言うと、貴弘は少し考える風な顔をしたあとで言ってきた。

「……できるなら、誰も入居させたくなかったんだが」

「どんな社員寮だ」
と八神が言う。

「確かに、青田がそれでいいのなら、悪くない案かもしれない。

 俺も世話になった人から頼まれた手前、一度も仕事させずにクビという事態になったら、胸が痛むしな」

 そう言う貴弘に、中原が真面目な顔で言っていた。

「しかし、それで慣れて出社する気になっても。
 イケメンのこの方は呪いにより、出社途中で社員寮に引き戻される可能性もありますよね」

 永遠に出社できない社員寮とかどうなんだ……。

 などとのどかが思っているうちに、八神のおかげもあって、イケメン連れ込まれ事件はなんとなく、うやむやになり、それぞれが帰ることになった。



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