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警察に通報されました
プロポーズに大事なことは――
しおりを挟む「今日俺を呼びつけたやつを死刑にしろ」
風の強い新幹線のホームで貴弘は呟く。
社長……、と横で北村が苦笑いしていた。
「こんな仕事をとってきたやつを死刑にしろ」
「社長です」
「……わかってるから、言ってるんだ、莫迦者」
以前、自分がとってきた仕事のせいで、浜松に二泊三日の出張になってしまった。
下手したら、もっと長引くかもしれない。
貴弘は激しく後悔していた。
明日があるから大丈夫なんてことは人生にはない。
「今、と思ったそのときがチャンスなんだな」
と貴弘は自分で自分の言葉に頷く。
「帰ったら、のどかにプロポーズしよう」
何故、のどかと結婚したのか。
のどかの何処がいいのか。
本当に好きなのかとか、いろいろ疑問は残るが。
「やはり、手に入れてからじっくり考えよう」
と呟く貴弘に北村が言う。
「もう結婚してるのにプロポーズもどうかと思うんですが。
社長、今だと思ったそのときって、『今』なんじゃないんですかね?」
ん? と貴弘は振り返る。
「この時代、携帯電話という素晴らしいものがあるんですよ」
そう言われ、貴弘はスマホをポケットから取り出す。
無言で見つめた。
「今です、社長」
「いや、しかし……」
「今です」
そのとき、ベルが鳴り、新幹線が入るというアナウンスが流れた。
貴弘がホッとしたようにスマホをしまい、
「もう新幹線来たな。
またにしよう」
と言うと、北村が笑う。
「社長にもそんな人間らしい一面があったんですね」
と。
……どういう意味だ、と思ったが、北村は笑って言ってくる。
「なんでも即決即断。
会社を起こすときもそうでしたし。
本当に行動力があって、揺らがない人だなって思ってたんですけど。
こんなこと言うと、失礼になりますが。
社長にも可愛らしいところがあったんですね」
なんだ、それ、と思いながらも、ちょっと嬉しかった。
思わぬところで、部下とちょっと近づいた感じがあったからだ。
北村たちが自分を慕ってついてきてくれているのはわかっていたのだが。
やはり、ちょっと距離のようなものを感じていたからだ。
社長たるもの、弱いところは見せられないと思っていたのだが、そういうものでもないのだろうか、と思いながら、二人新幹線に乗り込む。
「でもそうですね。
タイミングも大事ですけど。
ゆっくり考えて、のどかさんにとって、最高のプロポーズにしてあげるようにしたらいいですよ」
と北村は、のどかが自分のプロポーズを受けてくれるものだと思って、話を進めてくる。
……いや、受けるのか? あいつ。
プロポーズを受ける、受けない、という選択肢をのどかに与えることは、弾みで始まったこの怪しい結婚生活をやめる、やめない、という選択肢を与えてしまうのに等しい。
どうする……?
と貴弘は迷う。
下手にそんなことするより、このままの状態を続けて、二人で居るのが自然になったとき、なにか言った方がいいんじゃないのか?
ああ、でも、こうしている間に、のどか好みのイケメンが呪いの部屋に降ってきているかもしれない。
いやまあ、降ってきたところで、今、見つけるのは工事に来ている男たちだけだろうが。
乗車する前に買っていた缶コーヒーを北村と二人飲みながら、車窓を眺める。
が、すぐにトンネルに入り、北村とちょっと困ったような顔をした自分が窓ガラスに映って見えた。
迷うな……。
なんせ、のどかだからな。
反応が読めなくて怖い。
だが、俺たちが帰っていくのを黙って見ていた海崎と中原が、俺が居ない今も、のどかの側に居るというのが、ちょっと怖い、と貴弘は思っていた。
まあ、中原の方は別にのどかが好きで見ていたわけではないのかもしれないが――。
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