あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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警察に通報されました

広いおうちにあなたが居ません

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 寂しいな~、広い家に社長が居ないの。

 のどかは貴弘の居ないリビングの中央に、ぽつん、と立っていた。

 泰親は昼の日差しをいっぱいに浴びて、窓際のローボードの上に置いてもらったクッションですやすやと眠っている。

 いや、どのみち、社長、昼間は仕事なんだけど。

 今日は、夜も帰ってこないとわかっているせいか、このしんとした空間がなんだか寂しいな、と思いながら、のどかはルーフバルコニーに出てみた。

 ガラス戸を締め切っているときは気にならなかったが、外に出ると、意外に地上の音がよく聞こえてくる。

 だが、のどかは、その騒がしさにホッとしていた。

 いつも身近にある音がようやく聞こえてきたからだろう。

 よし、街を眺めながら、お茶でも飲むかな、と思って準備する。

「泰親さ……」

 一緒に飲みますか?
と訊こうとしたが、泰親はまだ寝ていた。

 初夏の日差しに程よく温まった泰親のふさふさの毛を見ながら、寝るときだけ猫になるって、気持ち良さそうでいいな、と思って笑う。

 のどかはひとり、白いソファに座り、お茶をしてみた。

 今は風もあまり強くない。

 背後にある大きな観葉植物の枝葉がさわさわと揺れる音を聞きながら、のどかは空を眺めてみた。

 向かいの高層ビルのてっぺんに照準を合わせて見ていると、意外に速く雲が流れているのがよくわかる。

 こういうゆったりとした時間を楽しめるようなカフェを作りたいなーって思ってたんだけど。

 今はこの、ひとりでゆったりな時間が、何故だか楽しめない。

 ……よしっ。
 今日から工事始めるって言ってたし。

 差し入れ持っていこうっ、とのどかは思い立ち、大きなガラス戸を開け、部屋に戻った。

 声をかけずに出て行っても悪いかと思い、そっと泰親に呼びかける。

「泰親さん、工事、見に行きますか?

 それとも寝てます?

 出かけるのなら、キャリーケースに入るか、人間になって歩いてくださいー」

 泰親はまだ、ぼんやりした顔で、こちらを見上げ、にゃ? と言ってきた。

 中身が泰親だとわっていても可愛く、のどかは思わず、しゃがみ込み、寝ぼけた泰親を間近に見つめる。

 泰親は一瞬起きたが、また目を閉じると、ふかふかのクッションの上でくるんと身体を丸めてしまった。

 ああっ、可愛いっ。
 このままいつまでも眺めていたいっ。

 貴弘は、綾太と中原を気にしていたが。

 実は、貴弘が居ない今、のどかが一番心を奪われているのは、猫の泰親だった。





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