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警察に通報されました
それ、ヒメツルソバですよ
しおりを挟むいい天気だな。
会社の外の渡り廊下を歩きながら、中原は昼の光に目を瞬いた。
ふと、昨日の帰り際のことを思い出す。
当然のように二人仲良く帰っていくのどかと貴弘を寂しそうに綾太が見ていた。
中原は思う。
仕事の時は常に強気な社長のあのような顔を見ていると、なにかして差し上げられないかという気持ちになるのだが。
まあ、社長はあのマヌケな幼なじみより、親族の決めた相手を選んだようだから、余計なことなんだろうな。
……まあ、そのわりに、成瀬社長のところの社員寮に入りたいとか、未練がましいことを言っているようなんだが、とつい、思ったあとで。
いやいや、社長ともあろう人が未練がましいとか。
なにか深い訳があるに違いない、と綾太を崇拝する中原は頭に浮かんでしまった、綾太に対する否定的な言葉を修正する。
だが、まあ、せめて教えてあげるべきだったか、とは思っていた。
二人で帰っていくのどかたちを寂しく見送る綾太に、
「いや、あれ、三人居ますからね」
と。
綾太には、のどかと貴弘がラブラブな感じで、二人の部屋に帰っていったように見えていただろうが。
実際は、猫耳神主も一緒に横を歩いていて。
単に、三人で仮住まいに帰っていっただけなのだが――。
だが、すっぱり、あの女のことは諦めてもらった方がいいから、教えまい、と中原が思い直したとき、視界に可愛らしいピンクの丸い花が入った。
渡り廊下の白いコンクリートの脇に、ひょこっと生えている。
春先くらいから、あちこちで見かける雑草だが、見かけるたび、もしかして、これは、わざわざ植えてあるのだろうかと思ってしまう。
地面を覆うくらい大繁殖しているうえに、花がピンクの毛糸のポンポンみたいで可愛らしいのだ。
思わず立ち止まり、花を眺めていた中原の耳に、ふと、やわらかな声が蘇る。
『ヒメツルソバですよ』
そうだ。
いつか、胡桃沢がそう言ってたな。
……そういえば、なんか胡桃沢みたいだな、この雑草、と思う。
最初はちんまり現れて。
なんか可愛らしい感じにちょこんとしてるから。
まあ、放っとくか、と思っていたら、大繁殖していて、視界に入らざるを得なくなる。
雑草なのに広がりすぎて大迷惑なところまでそっくりだ、と思いながら、中原はそのヒメツルソバを見つめた。
雑草カフェか。
まあ、店ができたら、行ってみるか。
ちょっと様子を見に。
……もちろん、社長のために。
心の中で、そう付け足すと、昼の日差しに温まって、ぽかぽかしているコンクリートの上を歩き出す。
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