あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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いつもより多めに懐いています

夫婦喧嘩は猫も食わない

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 ほぼ脅しをかけてる口調なんだが……と貴弘の言動を見守るのどかに向かい、貴弘は叫んだ。

「此処は俺の家だっ。
 俺のエリアだっ。

 此処では、俺が王様だっ」

 ……社長、もしや、酔ってますか?

 のどかは貴弘が、ただ夜景を見ているのどかにワインを差し出す、というだけの行動になかなか踏み切れず。

 ひとりキッチンでガブ飲みしてから、此処まで来たことを知らなかった。

「此処に住む人間は、王様の言うことを聞かなきゃ駄目なんだ」
と子どものようなことを貴弘は言い出した。

 じゃあ、出て行きますよ……とのどかが苦笑いして思ったとき、貴弘はのどかの両肩に手を置き、言ってきた。

「なんでこうなったかわからないし。
 お前の何処がいいのか、今もさっぱりわからない。

 でも、今の俺にとって、お前が一番気になる女なんだ。

 俺の人生で、お前が一番俺の心近くに居る気がする。

 お前のする阿呆な話を聞いていると、すべてが莫迦莫迦しくなって、いつも張り詰めて生きてきた俺の人生に隙ができたっていうか。

 穴ができたっていうか」

 いや、それはいいことなのですか……と思っていると、貴弘が言う。

「俺はお前を……

 お前を……

   好き、



    かもしれない」

 かもしれないか~。

「だから、キスしていいはずだ」

 いやいやいや、かもしれない程度の人は駄目ですよね~、と思ったが、その瞬間にはもう口づけられていた。

 軽く触れるだけだった前回のキスとは違ったので、

 どっ、どうしようっ。

 これ、どうしたらっと迷う暇もあった。

 ガラスの向こうで猫から猫耳神主に戻った泰親が、表情で、どうする? と訊いてくる。

 邪魔しようか?

 やめとこうか?
と。

 そ、そうですね。

 ど、どうしましょうね……と思った瞬間、貴弘の手が胸許にかかったので、どうもこうもない、のどかは貴弘を突き飛ばしていた。

「そこまでですっ」

「お前は、警察かっ」

「いやいやいやっ。
 私、まだ社長とは知り合って、間もないですしっ」

「そんなことは関係ないっ。
 俺は出会って三日で結婚した奴を知っているっ」

「……いや、それを言うなら、うちは、知り合って、ではないですが。
 初めて二人で呑んで、その日のうちにですよね?」

「そうだなっ。
 なんだ、俺たち、超ラブラブじゃないかっ」

「違うと思いますっ」
と二人はまた、バルコニーをぐるぐる回り始める。

「私、社長のこと、まだなにも知りませんしっ」

「なにもってことないだろうっ。
 それに、俺はお前のこと、いろいろ知ってるぞっ。

 考えなしで、金遣いが荒くて。
 その癖、こうと決めたら、曲げなくて。

 そして、巨乳の姉が居るっ」

「やっぱり、巨乳、好きなんじゃないですかっ」

「莫迦を言え。
 巨乳好きなら、お前を選んではいないっ」
と高らかに貴弘は宣言する。

 ……選ばれたんですか、私。

 巨乳でない、という理由で?

「巨乳美女なんて、騙されそうだし。
 第一、俺は牛みたいだから、巨乳は、あまり好きじゃない」
と言う貴弘に、

「可愛いじゃないですか、巨乳。
 女でもぽにょぽにょ触りたくなりますよっ」
とのどかは何故か、巨乳でもないのに、巨乳様をかばってしまう。

 そして、かばっておいて、のどかは沈黙した。

「……私、今、何故、巨乳様をかばったんでしょうね。
 常日頃うらやましいと思っている巨乳様をかばったのは、常日頃うらやましいと思っている自分をかばったんですかね?」

「なにややこしいこと言い出した」
と言ったあとで、貴弘が少し真面目な顔になって言う。

「お互いのことを知らないのなら、これから知ればいいじゃないか。

 ……そうだ。
 まず、生年月日を教えろ」

 いや、そこからですか、と思いながら、のどかは言った。

「じゃあ、社長は、血液型を教えてください。
 ちなみに、私の電話番号はですね」

「それは知ってる。
 お前、生年月日言いたくないのか」

「女に年を訊くとか最低の行為ですよ」
と、くだらぬやり取りをしているうちに、血液型占いの話になり、星座の話になり。

 気がついたら、バルコニーの冷たい床の上に座り込み、貴弘がのどかの手相を見ていた。

「お前、頭脳がないぞっ」

「せめて、頭脳線がないと言ってください……。
 短いんですよ、単に。

 ありますよ、ほら」
とくだらぬことをやっていて、ふと窓ガラスの向こうを見ると、泰親はもう猫に戻って寝ていた。

 莫迦莫迦しくなったようだ……。


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