あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

文字の大きさ
103 / 114
エピローグ

エピローグ

しおりを挟む
 

「此処なの~、友だちがやってるカフェ」

 のどかがテーブルを拭いていると、そんな風子の声が聞こえてきた。

「のどかー」
と言う風子のいつもと違う口調に、さては、イケメンと来たな、と思って出ると、やはりそうだった。

 のどかと一緒に、にゃあにゃあ出迎える猫たちを見た風子は一瞬、後退し、
「どうしたのっ?
 今日は猫カフェ!?」
といつもの声に戻って言ってくる。

 いや……今日、猫カフェで明日、猫カフェじゃないということもないだろうよ、とのどかは思っていた。

 猫は今日居るなら、明日も居る。

 泰親が居なくなって……

 いや、本人はそこでテーブル拭いているんだが、

 泰親猫が居なくなって寂しがっていたのどかの許に、綾太が一番のどかに懐いていてる自分ちのペルシャを連れてきて。

 八神が白黒の野良猫を拾ってきて。

 中原がミヌエットを買ってきて。

 青田が実家から、雑種の真っ白な猫を連れてきて。

 此処は猫屋敷になってしまったが、貴弘だけがなにも連れて来なかった。

「いやいや。
 お前が俺より猫を可愛がったら困るし。

 その猫がイケメンになったら困るし。

 お前は少し寂しがってるくらいでちょうどいい。
 俺がたっぷり慰めてやれるから」
と言って、みんなに、ケッと言われていた。

「猫なんぞ増やさなくとも、ちゃんと今まで通り、抱っこされたり、寝ているお前の上に乗ってやったりするのにのう」
と泰親は言う。

 長髪を後ろで束ね、Tシャツなど着た泰親は、色は白いが、海の家にでも居そうな今風のイケメンになっていた。

 機嫌よく風子が言ってくる。

「じゃあ、のどか。
 なんか適当にお茶とケーキね。

 ……イカリソウ、入れてくれていいわよ」

 入れません……と思いながら、イケメンと腕を組み、庭のテーブルに向かう風子を見送る。

「あっ、此処、此処」
と女の子たちの声が外でした。

「此処よ、犬も居る猫カフェ!」

 いや、その犬は脱走してきた犬です……。

「あのー、イケメンの陰陽師が居る占いの館って此処ですか?
 お茶もできるって聞いたんですけどー」

 ……お茶のついでに占いもできるカフェです。

 そして、あの人は神主です。

 などと次々押し寄せる女性客に思っていると、どすん、と奥の方から音がした。

 なんだ? なんだ?
と泰親と物見高い風子と一緒に走っていくと、例の呪いの部屋に、また見たこともないイケメンが降ってきていた。

 スーツ姿のその若いイケメンはキョロキョロしながら周囲を見回している。

「……泰親さん。
 全然、呪い解けてないじゃないですか」

「そのようだな」

 そこに外回りのついでに寄ったらしい貴弘と北村が駆けつけてきた。

 貴弘がすっきりとしたそのイケメンを見て叫ぶ。

「のどかっ、そのイケメン、返してこいっ!」

「いや、何処にですか……」

 苦笑いしたのどかは、まだ呆然としている、少し減ったカリカリの袋の上のイケメンに、ショップカードを渡しながら言った。

「あやかし雑草カフェ社員寮へようこそっ!
 この呪いの部屋からなら、三百六十五日二十四時間、いつでも入れますよっ」

「それイケメンに限るだろ……」

「二度目は使えませんよね」
と言う貴弘と北村の言葉を背に受けながらも、のどかはめげずに言った。

「美味しい

 ……かもしれない、

 なにか効能がある

 ……かもしれない雑草を用意して。

 今日も皆様のお越しをお待ち申し上げておりますっ!

 あやかし雑草犬猫カフェ占いの館社員寮をどうぞよろしくお願い申し上げますっ」





                         完


 (ちょっぴり、おまけのお話があります。)

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 盗聴器が出てきました……。 「そこらで勘弁してください」のその後のお話です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。  ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。  意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。 「あ、ありがとうございます」 と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。  あれは夢……?  それとも、現実?  毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...