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おまけ
猫まみれなカフェ
しおりを挟むカフェをオープンして二週間。
のどかは悩んでいた。
いや、カフェはそれなり順調なのだが。
別の悩みがあった。
まだやっていない結婚式のことだ。
貴弘は、
「結婚式の主役は花嫁だからな。
お前の好きに決めたらいい。
お前がいいなら、俺はなんでもいい。
というか、お前が側に居てくれたら、式なんてやらなくても別にいい」
と言ってくれたのだが。
これを言ったのが、閉店後、カフェで夕食を食べているときだったので、貴弘は、またみんなに、ケッと言われていた。
中原が、
「胡桃沢。
情熱的に迫ってくる男は、きっと情熱的に浮気するぞ」
と言ってくる。
即行、貴弘に、
「……中原。
余計なことを吹き込むのなら、帰れ」
と言われていたが。
いや、社長は浮気できるほど器用な人ではない気がするんですけどね……と思いながら、のどかは猫まみれになっていた。
開店前の窓際の席に座っていたのだが。
右から左から頭の上から猫がやってくるのだ。
猫に乗られたまま、すっかり夏の雑草まみれになった庭を見て、のどかが溜息をつくと、
「なんだ。
まだ迷ってるのか? のどか」
と後ろから声がした。
ふわふわのホコリ取りを持った泰親が立っている。
最近は占いをするとき以外は、Tシャツなどのラフな格好がほとんどだ。
猫耳、もう生えてこないのかな、と泰親の、身長に対してずいぶん小さな頭を見ながら、のどかは言った。
「いやあ、ギリシャのサントリーニ島にあるみたいな、真っ青な海の前の、目の覚めるような白い教会とかで式を挙げたかったんですけどね。
でも、やっぱり、此処がいいかなあと思って」
と飯塚のおかげで、素敵な古民家となったあばら屋敷を眺める。
「……でも、此処でドレスはおかしいですよね」
とのどかは呟いたが、泰親は、
「着たいものを着たらいいじゃないか。
おかしければ、みんな、笑うだけだ」
と言う。
いやいやいや、泰親さんっ、と思ったが。
やりたいようにやればいいと思ってくれているのは伝わってきた。
「でも、やっぱり、泰親さんに式挙げてもらいたいかなって思うんです。
ただ、それだと、和装で神前式になりますよね?」
「のどか……、ありがとう。
その気持ちだけで嬉しいぞ」
と手を握ってきた泰親は、
「いや、待てよ、そうだ!
今から、お前のために牧師になってこようっ」
と言い出した。
「いやいや、泰親さん、そこまでは……」
とのどかは苦笑いして言ったが、泰親は、
「大丈夫だ、のどかっ。
どうせ、もう祝詞はかなり忘れてる!」
と笑顔で言ってくる。
……いや、貴方、どうやって呪いを封じ込めるつもりだったんですか、とのどかが思ったとき、隣の座敷との境辺りから声が聞こえてきた。
「もしもしー、成瀬社長ですか?
泰親さんがのどかさんの手を握ってますよー」
貴弘がこの店のバイトとして雇った例の呪いのイケメン高校生、星野だ。
休みの日と放課後、バイトに入ってくれているのだが――。
「あいつの本業は、貴弘のスパイか?」
と泰親が言う。
どうも、のどかに近づく男を見張るのが本業で、店の仕事はオプションのようだった。
しかしまあ、猫が膝に乗り、手に飛びつこうとし、頭によじ登ってくる中では、あまり長くは悩めない。
のどかは膝に居たペルシャを抱っこしながら、
「まあ、別に日程決まってるわけじゃないし。
ゆっくり悩みます」
と言って、立ち上がった。
この猫たちが来た日のことを思い出しながら――。
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