あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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おまけ

好きとか嫌いとか言いながら、花をむしるやつよ

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「花占いで決めたらいいんじゃない?」

 夜、ひとりでご飯を食べにやってきた風子がそんなことを言ってきた。

「花占い?」
と水の入ったピッチャーを手にのどかは訊き返す。

 風子は窓辺のカウンター席に居た。

 灯りが点々と灯る庭を眺めながら食べられるからだろう。

 青田もそうだったが、おひとりさまのお客様は、やっぱり、この庭を向いて食べる席が好きみたいだな、とのどかが思ったとき、風子が言った。

「好き、嫌い、とかって、思いを込めて花をむしるやつよ。
 あれで、此処でやるか、海の見える教会でやるか決めたらいいんじゃない
?」

「うーん。
 そうだねー。

 でも、花占いって、やる前から、結果わかっちゃってるしなー」

 つい、自分がいいと思う方が出るようにやってしまいそうだ、とのどかは思う。

 まあ、今回に限っては、どっちがいいというのはないのだが……。

「そうなの?」
と訊いてくる風子にのどかは言う。

「だって、奇数の花びらの花でやったら、最初に言った方。
 偶数のでやったら、あとから言った方になっちゃうじゃん」

「ああ、そうか。
 花を選んだ時点で、決まっちゃってるわけね」

「たまに違うこともあるらしいけど。

 コスモスは偶数。
 マーガレットは奇数なんだって」

「他の花でも、枚数少ないのがほとんどだから、見た瞬間、奇数か偶数かわかっちゃうよね。

 そうだ。
 庭に出て、目を閉じてつかんだ雑草の花を目を閉じたまま、むしりなさいよ」

 それなら結果わかんないじゃないと言われる。

 それはそれで難しいようなな……と苦笑いしながら、
「でも、どうしたの、急に。
 花占いとか乙女みたいなこと言って」
とのどかは思わず言って、

「……私の何処が乙女じゃないのよ」
と言われてしまう。

「ああ、何歳以上は乙女じゃないとか言うのはナシよ」
と言ったあとで、風子は語り出した。

「そういえば、この間、『今日は女子会ーっ』って職場で言ってたらさー。
 お前ら、いつまで女子のつもりなんだって言われたんだけど。

 いやいやいや。
 女なら、いつまでも女子でしょう? って思うのよ。

 だって、女子トイレには年齢制限ないじゃない」

 はは。
 そりゃまあそうだなーと思いながら、他の客から注文もなかったので、のどかはそのまま、風子が語るのを聞いていた。

「女だけじゃないわよ~。
 じゃあ、オッサンは男子トイレには入れないのかっての」

 風子の話を聞いていたらしい後ろの席のおじさんたちが笑い出す。

「そうだよねー、おねえちゃん。
 おじさんもトイレ行きたいよ。

 っていうか、わしらは心が少年だから入れるけどねー」

 あんた面白いから酒あげよう、と言われ、風子はおじさんたちにビールをおごられていた。

 おじさんたちの方に向きを変えた風子は、パンツなので両脚を広げて座り、風呂上がりのオッサンのように一気呑みして、ぷはーっ、とやっていた。

「いやあ、のどか。
 いい店ねえー」

 ……今、自ら、乙女を投げ捨てた気がするんだが。
 まあ、楽しそうだからいいか、
とのどかは思う。

「風子。
 この店と寮をリフォームしてくれたおじさんたちなの」
とのどかはそのおじさんたちを紹介する。

「最初はさ、あまりのお金のなさに自分でDIYとかしようかなと思ってたんだけど」
と言うのどかに、いや、不器用なあんたじゃ無理だ……とあばら屋敷の原型を知るみんなの顔に書いてあった。

 のどかは立派なはりの覗く天井を見上げ、
「やっぱり、餅は餅屋に――
 じゃなくて、素晴らしい餅屋さんに任せたら、最高ですねっ」
と言った。

 大工さんたちが拍手をしてくれ、
「お嬢ちゃん、まあ、呑みな」
と言って、ビールを注いでくれようとする。

「あ、ありがとうございます~。
 でも、まだ仕事中なんで」

 美味しそうだ……。
 よく冷えたビール、と思いながらも、のどかが断ると、横から風子が、
「では、私がのどかの代わりに」
と言って呑んでくれた。


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