あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ

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おまけ

ギシギシのおひたしありますよ

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 帰り、レジで、ちょっとへべれけ気味な風子が言ってくる。

「いやあ、のどか。
 いい店だねえ~」

 ありがとう。
 酔っ払いの戯言ざれごとでも嬉しいよ、と思いながら、おつりを返していると、
「あと、いろいろなんとかペイとかも使えるといいなー」
と言ってくる。

「うっ、そうだよね……」

 まだまだ改善の余地はたくさんありそうだな、と思っていると、風子が窓の外を見ながら言ってきた。

「ひとりで来てさー。
 ぼんやり外のテントの灯りとかを見ながら食べてるときはね。

 こう、ラーメン屋とか図書館とかみたいな仕切りがあるといいなーって思ってたんだよ。
 ほら、一人きりになれるみたいな」

 ああ、と言うと、
「でもさー。
 さっきみたいにおじさんたちと楽しく呑んだりすると、仕切りなくてもいいかなーって思ったりもする」
と言う。

「そうだねー。
 どっちもあるといいかもね。

 オープンな感じでひとりで食べられるところと。
 仕切られてるところと。

 ……ところで、ひとりで帰れる?」

 ちょっと足許が怪しい気が……と思ったとき、ペルシャ猫のビーを抱いた中原が店の入り口から入ってきた。

「胡桃沢。
 猫が遠出して迷子になってたぞ」

 俺を見て走ってきた、と言う。

 ビーは今まで家の中から出たことがなかったから。

 ……というか、綾太の屋敷は出る必要がないくらい広かったから。

 外の世界が珍しくて、つい遠出してしまったのだろう。

 オスは行動範囲が広いしな~と思っていると、風子が中原を指差し、
「あっ、傷ついたイケメンッ」
と言って、ケラケラ笑い出した。

 貴女が傷ついたまま放って逃げたイケメンですよ。
 新たなイケメンを見つけて……とのどかは苦笑する。

 だが中原は、のどかに猫を渡しながら、風子を見て、
「そんなに酔って大丈夫ですか。
 帰れるんですか」
と教師が叱るように言い出した。

「やだー、もう中原さんったら。
 その途端に冷たく突き放すような口調になるところが素敵ーっ」

 ……酔っ払いは無敵だな、とのどかは思う。

 社内では、やり手の社長秘書である中原に対しては、さすがの風子もちょっと遠慮がある風な感じだったのに。

「中原さん、風子の家、近いので、ちょっと送ってやってくださいませんか?
 晩ご飯、今日はおごりますから」
とのどかが言うと、中原はちょっと眉をひそめた。

 風子が好きとか嫌いとかではなく、この手のかかりそうな酔っ払いを?
と思ったようだった。

「今日の日替わり晩ごはん。

 ギシギシのおひたしありますよ。
 中原さんの好きな」

 よくその辺に生えているギシギシだが。

 ぬめりがあり、ジュンサイに似た味わいなので、オカジュンサイとも呼ばれ、かつおぶしなどと混ぜて食べると美味しい。

「用意しときますから」
と言うと、中原は、

「……わかった。
 すぐ戻る」
と言って風子を送って出て行った。

「なんだお前、今のは」
とテント女子に捕まって、なかなか戻って来られなかった泰親が戻ってきて言う。

「中原さんのお好きなもの用意して待ってますって。
 お前、中原をメロメロにするつもりか」

「ほんとですよ。
 成瀬社長に報告しますよ~」
と何故か、泰親とスパイ星野は結託して言ってくる。

 ……いや、どっこもメロメロになってなかったじゃないですか、中原さん、
と相変わらずの無表情だった中原を思い出しながら、のどかは思っていた。


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