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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
平凡な天才
しおりを挟む一方、当たりの部屋に慌てて飛び込んだセオドアは、とりあえず息を整えて次のステージを目指すため歩き始めた。
「ゲーム説明がシンプルすぎたけど、なるほど、“どれだけのお姫様を救えるか”っていう勝負だったのか……ハズレを引くと攻撃されるってオチね。いよいよ本気出して動かないとマズイな」
今回は偶然当たりのお姫様を引き当てたが、次はどんな課題が待ち受けているか分からない。残された二人はまだあの部屋で何かをこなさなければ脱出できない雰囲気だったため、自分が一歩リードしているが、油断はできない。
なぜなら、セオドアは自分があくまでも凡人だと信じているからだ。
セオドアからすれば、変化草を体内に飼うフォンゼルや、異国から来たばかりのシャオランがこの国の魔法薬学を概ね理解し対処している事を見ると、二人に比べて自分にはなんの特徴もないと卑下していた。
リヒトにも「お前には自信が足りないようだな。だからこそ努力を怠らないが、少しはルイを見習え」と言われるほどだ。
フルニエ家は、この国で最も信頼の厚い魔法薬の老舗を抱え、魔法薬学のことでは最も発言権のある家元。
三つ子である兄達は、すでに王都の魔法薬店を切り盛りしており、最近では地方の分店も任されるという話が出てきている。
幼少期から秀でた兄が三人もいれば、一人くらいはダメな子供がいても可愛いという両親の斜め上な愛情を受けて育ったセオドア。ジャスパーとの出会いで生まれ変わることができたセオドアは、努力すればするほど、自分がいかに”凡人“かを思い知らされた。
セオドアが費やした時間。ルイであればきっと倍は理解している。
フィンはそれの上をいく圧倒的センスがある。
それなら、俺が出来ることはただ一つ。
「凡人なめんな!」
セオドアがそう言って勇み足で歩き出した。
その様子を映像水晶で見ていた三匹の子豚のリーダー・フォリラは、鼻で笑う。
「ふん。そもそも伯爵家に生まれている時点で凡人なワケがあるか。昔から腹が立つんだよ、恵まれているくせにそれを無駄に消費するだけのデブがな」
それを偶然聞いていたルイが睨みをきかせると、フォリラは「い、いたんですか」と後退りした。
「お前随分とセオドアを気にかけているようだが、お前の心配はなくともアイツは立派に成長したようだぞ」
ルイはそう言って映像水晶を指差しながら続ける。
「努力をした奴にしか、セオの感覚はわからねぇ。上には上がいると思い知らされるほどにな。……驕りが許されるのは、圧倒的強者、つまり自分が最も強く、何者にも脅かされることのないほどの力を持つものだけだ」
ルイはリヒトを思い浮かべる。
自身を卑下することなく、絶対的に強いと確信を持てるほどの肩書きを手にし、そして名前に負けず挙げた実績は数知れない。
リヒト・シュヴァリエに勝てる”魔法使い“はいない。
「ところで、豚になった気分はどうだ?次は何になりたい?」
「っ……し、失礼します」
ルイの冷淡な笑みに、フォリラは観客席を移動して離れていった。
「おまたせルイ君、アイスだよ」
たまたまアイスを買いに行っていたフィンは、笑顔でルイにそれを手渡す。
「おお、悪いな」
「アイス買いながらずっと水晶見てたから、遅くなっちゃった」
「お前が立ち止まりながらなんとかアイスを持ってきたことはわかる」
ルイは溶けかけのアイスを見て苦笑する。
「ご、ごめんね、急いで食べようね」
フィンはアイスをぱくぱくと食べ始めた。
「(フィンがアイスを食べてる……冷えるのに大丈夫だろうか)」
リヒトはそれを遠くから見守っていたが、エリオットは呆れ顔で口を開いた。
「お前、弟子の試合ちゃんと見てる?さっきから見てる方向おかしくない?」
「失礼だな。見てるだろさっきから」
「こっからが最終局面だぞ」
「だからなんだ。応援したところで結局は自分の知識と機転しか頼りにならないだろ」
リヒトの捻くれた回答に、エリオットは顔を顰める。
「お前……本当に性格が悪いな。フィン君を見習え、聞こえるわけがないのに大声で応援してるぞ」
リヒトは複雑な表情を浮かべる。
「フィンの応援は別物だ。後でセオドアからは金を取るか」
「(あ、コイツ本当はアホなんだな)」
エリオットは諦めるように口を閉じ映像水晶をじっと見つめた。
「運も実力のうちか」
たまたま正解を引き当てたセオドアに、リヒトはポツリと呟く。
「まーそうなるね。でも、次のステージはセオドア君にとって相性は悪いかもしれないな」
「土壇場でこそ力は発揮される。俺は命の危険を感じた時に魔法の真髄を見た」
「お前のスケールはでかいんだよ」
エリオットは頭を抱えながら答える。
「そもそも、俺は魔法薬学自体専門外だ。師匠を請け負ったが、セオドアは俺の持ちうる知識はすでに頭に入っていたぞ」
「そんなこたー分かってるよ。俺がお前にさせたかったのはそういうんじゃない」
「あぁ。だからアレを教えた」
「アレ?」
「見てろ。相性が悪いかどうかは、まだ分からないぞ」
リヒトはそう言ってフードを深く被り直し、小さく笑みを浮かべた。
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