十年越しの恋心、叶えたのは毒でした。

碓氷雅

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願うは易く、叶うは難し

#12

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「あ…ご、ごめんなさい」

 コマンドではなかったのに、指示されたことができなかっただけで、この世の終わりかというほどのショックだった。弛緩しながら体は冷めていく。喜ぶだろうと思ってしたことだったけれど、その実、高橋自身の欲望がものを言った結果だ。もう、コマンドをくれないのではないだろうか、愛想が尽きてしまうのではないだろうかとえも言われない不安がよぎっては胸を締め付けていく。

 ボトムを脱ぎ捨て、下着も放った入間はその腕で高橋を抱きしめた。

「謝れて偉いね…。苦しくはない? 害があるわけではないけれど…不味いでしょう」
「…」
「でも、」高橋の肩を押し倒し、入間の長髪が頬をくすぐった。「よくできました。嬉しいよ、全部飲んでくれたよね」
「あ…」

 軽く触れるだけのキスは、胸のもやを晴らすには十分だった。「こ、こんどは…ちゃんとできるから、」
「うん」
「できる…から、コマンドく、れ」
「もちろん。じゃあ、ほぐそうか。…Open口開けて

 遠慮がちに開けば、骨ばった指が二本、遠慮なしに入ってきた。舌を弄ばれ、食べ物と勘違いした口腔は唾液であふれた。ゆっくりと、しかし徐々に奥へと指は滑ってくる。

 止めて、と言いたくても指を噛んでしまうから言えない。しかも、今のコマンドはOpen。苦しくて目には涙が浮かぶけれど、何とか耐えた。

「ん、上出来。優斗、自分で膝持てるね?」指を抜いた入間は枕を高橋の腰の下に入れ、膝を抱えろと言う。「Present晒せ

 身体は柔らかい方ではないけれど、膝の裏を持って胸に近づける。カウパーで濡れそぼった股間はひんやりと冷たく感じた。

「ひぁっ、あ…」

 高橋の唾液で濡れた指を、入間はひくつく蕾にあてて撫でまわす。「Look見ろ

「ん…」

 外側、それから縁を丁寧すぎるくらいになぞられ、もどかしい快感がまるで花を咲かせるように身体に広がっていく。

「痛くないかい」
「ん…」痛くはない。痛くはないが…。

 数十分が数時間にも覚える頃、ようやっと二本、三本と中の指を増やされた。その圧迫感さえ気持ちいい。

「わたる…も、いいから」
「ん? いや…もう少しかな」

 入間の額は薄く汗をかいている。ちらっと下を見れば、腹を叩かんばかりに兆したそれが、唾液に濡れてかわいそうにも震えている。決して細くはない入間の指をもはや三本も受け入れられているのになぜ入れないのかと、不思議に思う。はじめてだし、と丁寧に丹念にと言えば聞こえはいいが、要は焦らされているわけでそろそろ我慢の限界だった。

「もういいって! わたる!」

 いきなりの大きな声に入間の肩が跳ねた。「でも…痛いかもしれないだろう。意識して力を抜いて、やっと三本が入るくらいなんだ。自慢ではないけれど、私のは…」
「俺は女じゃない! そんなにやわな体でもない! 痛くてもいいっ」
「優斗…」
「わたるが…欲しいんだよ。ここまでされて、焦らされるのは痛いのよりもつらい…」
「…」うごめいていた指が止まる。もう一方の手で頬を滑る涙を拭った。「そうか、ごめん。…どうして欲しい? Say言って
「あ…う、」

 涙を拭ったその指はそのまま頬を撫で、入間は胸の突起を食んだ。新たに与えられた快感に身をよじり、それでも視線は外さない。

「…て、くれ」
「なんて? もういっかい」静寂がまとわりつくような部屋の中だ。どんなに小さな声で言ったとしても聞こえないことはないだろうに、意地悪にもその八重歯を見せて笑った。「どこに、だれの、なにが欲しいのかな? ん?」

 張り倒してやりたい。余裕綽々な表情が悔しくて、拳を握って呼吸を整えた。「わたるの、を…俺の中にいれて、ほしい。あ、あと…」

「あと?」
「キス…が、欲しい」最初にやってくれたような、深く熱い口づけを。そう懇願すると、みるみるうちに入間の顔は耳まで真っ赤に染まった。

 何が入間の羞恥心を刺激したのかはわからないが、よく熟れたリンゴのように見事に赤い入間は可愛い。何度瞬きしても、大きな両手でその顔を隠す入間が見える。可愛くて、愛おしくて、笑わずにはいられなかった。

「はぁ…我慢、してたんだけどな。傷つけたくないんだ…、そう忍耐力を試すようなことを言わないで。ね? お願いだから」
「でも、『Say』て渉が言ったんじゃないか。俺のせいじゃない」
「ごもっとも」困り眉で肩を落とす入間は、そっと亀頭をあてがった。「…いいんだね?」

 コクコクと頷く。ゆっくりと腰は進んで来、精一杯力を抜いた。咥えた時にもうわかっていたけれど、あてがわれたそれが媚肉を割って入ってくる圧迫感は軽くはなかった。逃げを打ちそうな身体を何とか耐え、呼吸は止めないように浅くとも繰り返す。

 カリのくびれがすべて挿入はいり、一番苦しいところは超えるとやってきたのは暴力的な多幸感だった。少量だと善いものでも過ぎると辛くなってしまう。どうしようもないほど苦しくて、幸せで、辛くて、気持ちいい。頭の中に溶けだす感情は矛盾して流れ、高橋を混乱させた。幼子が拒むように頭を振り、ベッドシーツを握りしめる。

 永遠にも感じた鈍痛が和らぎ、噛み締めた唇に柔らかく温かいものを感じた。慰めるように舐められ、いつの間にか閉じていた瞼を開けるとふっと笑う入間が見えた。熱い吐息はキスで溶け合い、舌を絡める。待ち望んだものが、入間が、腹の中にある。とてつもない満足感で、へその下あたりをなぞった。

 キスは煽情的で、入間の目の奥には劣情に濡れている。密着した粘膜のいたるところからピリピリと快感が走った。無意識に蕾は弛緩と収縮を繰り返し、それがより入間の存在感を掻き立てる。視界に浮かぶ入間は明らかに我慢しているようなのに最奥に亀頭をあてたまま、入間はまったく動こうとしなかった。気を使ってくれているのはわかる。どんなに理性を失いそうになろうとも優しさを忘れないのが入間渉という人間だ。

 けれど、痛みを慰められ、余すところなくすべてを愛され、ついには深いところまでを穿たれた今、もどかしさと切なさで頭がどうにかなってしまいそうだ。疼くところに触れるだけで、突いても擦ってもくれないそれを、恨みを込めて締め付けた。

「ふっ…ん、優斗? どうした、Stop?」
「違う」
「どこか痛かった?」
「…違う」
「どうしたんだ」

 額に脂汗を浮かせ余裕を装うその笑みは、やせ我慢をにじませているのに、さもなんでもないかのように言う。自分に魅力がそんなにないのかという考えが脳裏をよぎるが、自らで叩き落とした。そんなわけがない。

「朝まで動かないつもりか?」
「え…いや、でも馴染むまでは…」
「だから、俺は女じゃない!」

 ぱちんと入間の頬を両手で挟み、その双眸を睨む。びくびくと中で跳ねる屹立を慰めるように腰を上下に動かした。入間の眉間にしわが寄った。

「奥が、もどかしい…切なくて気が狂いそうだ。…そう言えば、Domには暴力的な傾向があると聞いたことがある。まさか…それを気にしているのか?」
「…」
「あのな、柔じゃないってのは男だからじゃない。ちょっとやそっとじゃ壊れない身体をつくってきたからだ」
「それは…警察官としてだろう? それとこれは…」
「それもそうだけど、俺、は…」乾く喉を潤すように唾を嚥下した。「いつか…おま、渉に抱いてもらえたらって…」
「え…」
「ああもうっ! 言うつもり、なかったのに」両手で顔を覆う。耳まで熱を持った。きっと真っ赤に染めあがってしまっているだろう。
「そこまで考えててくれたんだね、いい子だ。嬉しいよ。…顔、見せて」
「…ヤダ」
「優斗。手を挙げて」

 ずるい。そう思いながらも、眼に涙を湛えて腕を頭の上にやり、入間を睨んだ。

「うん、Good boy。気づいてやれなくてごめんね。もう、遠慮はしないから。…覚悟して」
「…っ!」

 ゾクゾクと鳥肌が立つ。もう、何もかもが限界だった。

 大きく腰を引かれ、内臓がすべて飛び出たような感覚がした。

「あぁ———っ! ひっ…ま、て」

 息をつく間もなく再び媚肉を割り進み、自然に前立腺にもあたって覚えのない喜悦に感じ入る。ゆっくりとしたストロークはやがて、激しいものとなり突かれるたびに白濁をまき散らした。

「ああすごい。柔らかいのにいじらしく締め付けてくる…Good、いい子だ」
「んあっ」
「どこが気持ちいい? うん?」

 どこもかしこも気持ちいい。入間が触れているところのすべてから、大きくも小さくもむず痒い快感が生まれては脳天を突き抜ける。

 そう伝えたいのに、うまく言葉にならない。

「ぜ…ぁあっ、ぜん…ぶ」
「そうか。好きなだけイっていいよ。ほら…Cumイけ!」
「ぎ、やぁああああっ!」

 空中に身体が投げ出されたような浮遊感の中、目の前はチカチカとしてまともに入間の顔さえ見えない。腹に手をやれば、べとっとしたものにふれ、イったのかとまるで他人事のように思った。

「…んっ」

 貫かれた奥で、ドクドクと熱いものを感じる。だらしなく唾液の垂れる唇に、入間は高橋を慰めるようにその唇を重ねた。腰のものがずるりと抜ける。

「コマンド、全部できて偉いね。いい子だ」

 頭を抱かれ、ベッドに横になった入間の胸に身体を預ける。自分がどこにいるのか、今何をしていたのかさえ曖昧で、入間が頭を撫でているのだけをひしと感じた。

「ああ、スペースに入ったんだね。…可愛い」
「すぺーす…」
「うん。そのまま眠れるようだったら寝ていいよ。あとは全部やっておくから」そう言った入間はそっと額にキスを落として頬を撫でた。「おやすみ」

 しばらくもしないうちに瞼は重くなり、抵抗することなく深い眠りに落ちていった。
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