【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
23 / 98

23 孤児院(ハミルトン視点)

しおりを挟む
 馬車が進むに連れて街並みがどんどん様変わりしてくる。

 時々お忍びで街歩きをしたりはするが、流石にこの辺りまでは来た事がなかった。

 僕は馬車を孤児院の前に停めさせると一人で敷地内へ足を踏み入れた。

 外で遊んでいる子供の一人が目ざとく僕の姿を見つけて、建物の中へと走っていった。

 おそらく誰かしら大人を呼びに行ったのだろう。

 僕もその建物の入り口に向かって足を進めると、入って行った子供と一緒に年老いた女性が杖をつきながらヨロヨロと歩いてきた。

「失礼ですが、どちら様ですか?」

 少し警戒するような口調で問いかけられるが、無理もない。

 先触れも無しに突然訪れたのだから、こんなふうに警戒されるのは当然だろう。

「突然の訪問をご容赦ください。僕はハミルトン・アシェトンと申します。こちらでお世話になったというジェシカについてお話を聞きたくて参りました」

 ジェシカの名前を出すと老婦人は少しだけ警戒を解いてくれたようだ。

「まあ、ジェシカの? こんな所で立ち話もなんですから、どうぞお入りください」

 老婦人に勧められて僕は建物の中へと入っていくと、建物のどこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

「うるさくしてごめんなさいね。ここでは働きに出る母親から子供を預かったりしているの。中にはそのまま行方をくらませる母親もいますけどね」

 老婦人は何でもない事のように話すが、つまりはここに子供を捨てに来る親がいるという事だ。

 老婦人は院長室に僕を通すとソファーを勧めてくれた。

 腰を下ろすと老婦人が自らお茶を入れて僕の前に差し出してくれた。

「ご挨拶が遅れました。私はここの院長をしておりますエアリーと申します」

 院長に頭を下げられて、僕もペコリと頭を下げ返す。

「それで、ジェシカの事だったかしら? あの子は両親を一度に亡くして八歳の頃にここに引き取られて来ました。ここに来た当初は目の前で両親を殺されたせいか、酷く怯えていました。食事もろくに喉を通らないようで、随分と心配しておりました」

 僕の父親とジェシカの母親であるケイティが王都に向かう途中で強盗に殺されたという話は聞いていた。

 強盗も流石に子供の命を奪う事まではしなかったのか、それとも子供がいる事に気付かなかったのかはわからない。

 だが、ジェシカは両親が何処に向かう途中だったのか何も知らなかったので、この孤児院へと送られてきた。

 もし、そこで我が家に迎えられていたら、ここで苦労する事もなかったはずだ。

「それでもフェリシアと言う仲の良い友達も出来て、随分と元気になりました。それなのに二人でここを出て独立したばっかりなのに命を落としてしまうなんてね。まだ若い子が私よりも先に天国に行ってしまうなんて…」

 …は?

 今、この院長は何と言った?

 ジェシカが死んだ?

 それじゃ、今家にいるジェシカは一体誰なんだ?

「…あの、ジェシカは亡くなったんですか? 一体いつの事ですか?」

 院長を驚かせないように、僕は極力声を押し殺して院長に問いただした。

 院長は少し考えるように首を傾けていたが、はっと思い出したようにこちらを向いた。

「あれは半月ぐらい前かしら。フェリシアが突然訪ねてきて『ジェシカが死んだ』って泣き出したの。フェリシア一人じゃどうしていいかわからないみたいで孤児院でお葬式をしたの。ここにはジェシカにお世話をしてもらった子供達も大勢いたから、みんなジェシカの死を悲しんでいたわ。特にフェリシアは自分にそっくりのジェシカが亡くなって相当気落ちしていたわね」

 …フェリシアという子がジェシカとそっくり…

 その院長の話で僕は確信した。

 今、ジェシカと名乗って僕の家にいるのがフェリシアだと…。

 だが、彼女がもしジェシカでないならば、なんの為にジェシカを名乗っているのだろう?

 もしかして金目当てか?

 それならば、さっさと金目の物を持って逃げればいい話だ。

 わざわざお祖父様の為に車椅子を作ったりする必要はないはずだ。

 騙されていたという事実よりも、僕は彼女が血の繋がった妹ではなかった事に安堵していた。

 もうしばらく様子を見ていよう。

 屋敷から逃げ出すにもおいそれとは出来ないようになっている。

 僕は院長に礼を告げて孤児院を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

山猿の皇妃

夏菜しの
恋愛
 ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。  祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。  嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。  子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。  一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……  それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。  帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。  行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。 ※恋愛成分は低め、内容はややダークです

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

処理中です...