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26 母上の死(ユージーン視点)
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その知らせが入ってきたのは、午後の執務を終えて母上の部屋に向かおうと準備している時だった。
「ユージーン様! 大変です! 王妃様が…!」
侍従の慌てた様子から、その先に何を言おうとしていたのかは容易に察せられた。
僕は準備もそこそこに急いで執務室を飛び出して母上の部屋に向かった。
…こういう時に無駄に広い王宮が嫌になるな…
それでなくても母上は今、別邸に部屋を移している。
本邸から別邸に続く渡り廊下を走るように突き進んでようやく母上の部屋に到着した。
部屋の奥に鎮座しているベッドに近付くと、青白い顔をして目を瞑った母上が静かに横たわっていた。
その姿だけで既に母上が息をしていないのは明白だった。
母上のベッドの足元にはずっと母上の世話をしていた侍女のミランダが俯いたまま佇んでいた。
…父上はまだ来ていないのか…
それよりもどうして容態が急変した事をすぐに告げなかったのかが気になって僕はミランダを問い詰めた。
「ミランダ、どうしてこうなる前に僕を呼ばなかったのだ?」
なるべく柔らかい口調を心がけたが、それでも言葉にはトゲがあったようでミランダはピクリと身体を震わせた。
「…申し訳ございません…」
俯いたままのミランダが頭を下げて、そのままの姿勢で固まる。
「責めているつもりはない。それよりも母の最期を聞かせてくれ」
ミランダは一旦顔を上げて僕を見たが、またすぐに視線を下に下げた。
「…王妃様が私を呼ばれたのでお側に行くと、手を差し出されました。その手を握って差し上げたら私に『…ありがとう』と告げられて、そのまま…」
俯いたままのミランダの足元にポトポトと水滴が落ちる。
ミランダにも予想外の母上の急変では、誰を呼ぶ事も叶わなかったのだろう。
僕はミランダから視線を母上に戻した。
長年の病床生活で更に身体は細くなってしまっていた。
だが、母上の亡骸を前にしても僕に悲しいという感情は湧いて来なかった。
僕にとって母上は単なる生みの親でしかなかったからだ。
母上は息子の僕よりも父上に執着していた。
だから子供の頃から母上に遊んでもらった記憶などほとんど皆無だった。
最低限の親子の交流しかしてこなかったから、僕自身も母上に対してどういう態度を取っていいのかわからなかった。
母上が病に倒れてからは、朝夕の面会だけが唯一の交流だった。
それもただ顔を見て挨拶を交わすだけで、それ以上の会話などしたことがなかった。
大きくなるにつれて、王宮で交わされる噂話によって、母上が父上と恋仲だった他の女性を王宮から追い出した事を知った。
(あの母上ならばやりかねないな…)
それが噂話を聞いた僕の率直な感想だ。
だからこそ、亡くなった事で父上への執着から開放されて良かったとしか思えない。
母上の死に顔を見つめていると、数人の人物が入って来る気配がして後ろを振り返ると、父上と宰相の姿が目に入った。
僕は身体を横にずらすと父上と宰相に場所を譲った。
父上は何の感情も浮かばない目で母上を見つめている。
「…長かったな。ブライアン、すぐにアイリスを探し出せ! もう邪魔をする奴はいなくなったからな。それと葬儀の手配は頼むぞ」
宰相が頭を下げるのを見届けると、父上は用は済んだとばかりに部屋を出て行った。
一分一秒でもこの部屋には居たくないらしい。
妻の亡骸の前で他の女性の捜索を依頼する父上もどうかとは思うが、それだけ母上には辟易させられていたんだろう。
宰相は葬儀の手配の前に親族に使いを出すように命じていた。
その中にはアシェトン公爵家も含まれている。
母上とは直接の血の繋がりはないが、現当主が父上の叔父であるから呼ばないわけにはいかないだろう。
そういえば、父上の従兄弟に当たるダグラスを捜していると言っていたが、どうなったのだろうか?
どうせ病気療養中の現当主ではなくてハミルトンが代理で来るだろうから話を聞いてみよう。
僕は部屋を出る前にもう一度母上の顔を見て一礼をすると、足取りも軽く扉へと向かう。
もうこの部屋に通う必要も無くなった事に喜びを感じていた。
「ユージーン様! 大変です! 王妃様が…!」
侍従の慌てた様子から、その先に何を言おうとしていたのかは容易に察せられた。
僕は準備もそこそこに急いで執務室を飛び出して母上の部屋に向かった。
…こういう時に無駄に広い王宮が嫌になるな…
それでなくても母上は今、別邸に部屋を移している。
本邸から別邸に続く渡り廊下を走るように突き進んでようやく母上の部屋に到着した。
部屋の奥に鎮座しているベッドに近付くと、青白い顔をして目を瞑った母上が静かに横たわっていた。
その姿だけで既に母上が息をしていないのは明白だった。
母上のベッドの足元にはずっと母上の世話をしていた侍女のミランダが俯いたまま佇んでいた。
…父上はまだ来ていないのか…
それよりもどうして容態が急変した事をすぐに告げなかったのかが気になって僕はミランダを問い詰めた。
「ミランダ、どうしてこうなる前に僕を呼ばなかったのだ?」
なるべく柔らかい口調を心がけたが、それでも言葉にはトゲがあったようでミランダはピクリと身体を震わせた。
「…申し訳ございません…」
俯いたままのミランダが頭を下げて、そのままの姿勢で固まる。
「責めているつもりはない。それよりも母の最期を聞かせてくれ」
ミランダは一旦顔を上げて僕を見たが、またすぐに視線を下に下げた。
「…王妃様が私を呼ばれたのでお側に行くと、手を差し出されました。その手を握って差し上げたら私に『…ありがとう』と告げられて、そのまま…」
俯いたままのミランダの足元にポトポトと水滴が落ちる。
ミランダにも予想外の母上の急変では、誰を呼ぶ事も叶わなかったのだろう。
僕はミランダから視線を母上に戻した。
長年の病床生活で更に身体は細くなってしまっていた。
だが、母上の亡骸を前にしても僕に悲しいという感情は湧いて来なかった。
僕にとって母上は単なる生みの親でしかなかったからだ。
母上は息子の僕よりも父上に執着していた。
だから子供の頃から母上に遊んでもらった記憶などほとんど皆無だった。
最低限の親子の交流しかしてこなかったから、僕自身も母上に対してどういう態度を取っていいのかわからなかった。
母上が病に倒れてからは、朝夕の面会だけが唯一の交流だった。
それもただ顔を見て挨拶を交わすだけで、それ以上の会話などしたことがなかった。
大きくなるにつれて、王宮で交わされる噂話によって、母上が父上と恋仲だった他の女性を王宮から追い出した事を知った。
(あの母上ならばやりかねないな…)
それが噂話を聞いた僕の率直な感想だ。
だからこそ、亡くなった事で父上への執着から開放されて良かったとしか思えない。
母上の死に顔を見つめていると、数人の人物が入って来る気配がして後ろを振り返ると、父上と宰相の姿が目に入った。
僕は身体を横にずらすと父上と宰相に場所を譲った。
父上は何の感情も浮かばない目で母上を見つめている。
「…長かったな。ブライアン、すぐにアイリスを探し出せ! もう邪魔をする奴はいなくなったからな。それと葬儀の手配は頼むぞ」
宰相が頭を下げるのを見届けると、父上は用は済んだとばかりに部屋を出て行った。
一分一秒でもこの部屋には居たくないらしい。
妻の亡骸の前で他の女性の捜索を依頼する父上もどうかとは思うが、それだけ母上には辟易させられていたんだろう。
宰相は葬儀の手配の前に親族に使いを出すように命じていた。
その中にはアシェトン公爵家も含まれている。
母上とは直接の血の繋がりはないが、現当主が父上の叔父であるから呼ばないわけにはいかないだろう。
そういえば、父上の従兄弟に当たるダグラスを捜していると言っていたが、どうなったのだろうか?
どうせ病気療養中の現当主ではなくてハミルトンが代理で来るだろうから話を聞いてみよう。
僕は部屋を出る前にもう一度母上の顔を見て一礼をすると、足取りも軽く扉へと向かう。
もうこの部屋に通う必要も無くなった事に喜びを感じていた。
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