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56 母上の不在(ハミルトン視点)
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フェリシアを乗せた馬車がゆっくりと走り出す。
少し不安そうな表情を浮かべたフェリシアの顔が馬車の窓から見える。
そんな顔をしたフェリシアが心配で馬車の横を付いて歩くが、すぐに馬車はスピードを上げて走り去って行った。
玄関のアプローチの端で小さくなっていく馬車を見送っていると、コホンと後ろで咳払いが聞こえた。
振り返るとモーガンがニコリと笑いかけてくる。
「さあ、ハミルトン様。それではお仕事を始めましょうか」
侍従が左右から僕の腕を取り、抗う間もなく僕は母上の執務室に連れて行かれた。
母上は既に書類に目を通していたが、僕が入ってきたのに気付いて顔を上げた。
「そこにお座りなさい」
母上の執務机の横に新しく席が設けてあったが、どうやらそこが僕の席のようだ。
渋々と席に着くとモーガンがドサッと書類の束を僕の目の前に積み上げる。
「先ずはこちらから目を通してください。ここ数年の公爵家の収支決算が書かれております」
公爵家の収支決算?
いきなりそんな事を言われてもどう返していいのかわからない。
助けを求めるように母上を見やると、心外だと言わんばかりに眉を寄せられた。
「あなたは次期当主でしょう。フェリシアに結婚を申し込むのならば、次期当主としての仕事ができるようにならないと」
母上はそれ以上は言わなかったが、暗に父上の事を指しているのだと悟った。
父上は公爵家の事を母上に押し付けて他の女性と駆け落ちをしてしまった。
おまけにお金がなくなるとこの家に無心に来ようとして盗賊に襲われて死んだんだからな。
僕はそんな父上みたいにはならないぞ。
書類に目を通しているといつの間にか没頭してしまったようだ。
「ハミルトン様」と声をかけられて顔を上げると、モーガンが目の前に立っていた。
「何だ?」
「ハミルトン様、お食事の時間です。食堂に参りましょう」
ふと時計に目をやれば、確かに昼食の時間になっていた。
横にいたはずの母上の姿も既になかった。
僕は書類を置いて立ち上がると、食堂に向かった。
フェリシアがいないと食事も美味しく感じられないんだろうな。
食堂には既にお祖父様の姿があったが、何故か母上の姿はそこにはなかった。
「あれ? 母上はどうされたんですか?」
「ああ、パトリシアは王宮に呼ばれたので先に食事を済ませて出かけたよ」
「え? 王宮ですか? どうして…」
そこで僕はユージーンが来た時に、一緒にいた侍従が書簡を母上に手渡していたのを思い出した。
あれはきっと呼び出し状だったに違いない。
フェリシアの事で何か母上に用があるから呼び出したんだろう。
母上だけがフェリシアに会いに行くなんてズルい!
今から追いかければ母上に追いつけるかも…。
そう思って椅子から立ち上がろうとした僕をお祖父様が一喝した。
「ハミルトン、何処へ行く! お前は呼ばれておらんぞ! それに午後からはパトリシアの代わりに仕事をする事になっておる。 フェリシアに仕事の出来ない男だと思われたいのか?」
フェリシアの名前を出されて僕はピタリと動きを止めた。
「大体、ほんの数時間前に別れたばかりではないか。そんなにこらえ性のない男だとフェリシアに認識させたいのか?」
お祖父様の言葉がグサグサと僕の心に突き刺さる。
フェリシアに会いたいけれど、フェリシアが幻滅するような男にはなりたくない。
僕はハァッとため息を吐くと椅子に座り直した。
僕が座り直したのを見て、ようやく料理が僕とお祖父様の前に並べられる。
お祖父様と二人きりの食事は何とも味気ないものだった。
早くフェリシアを僕の花嫁としてこの公爵家に迎え入れたい。
そのためにはやはり次期当主としての仕事が出来るようにならないと…。
食事を終えた僕はそう決意をして立ち上がった。
フェリシア、僕は頑張るからね。
待っていておくれよ。
少し不安そうな表情を浮かべたフェリシアの顔が馬車の窓から見える。
そんな顔をしたフェリシアが心配で馬車の横を付いて歩くが、すぐに馬車はスピードを上げて走り去って行った。
玄関のアプローチの端で小さくなっていく馬車を見送っていると、コホンと後ろで咳払いが聞こえた。
振り返るとモーガンがニコリと笑いかけてくる。
「さあ、ハミルトン様。それではお仕事を始めましょうか」
侍従が左右から僕の腕を取り、抗う間もなく僕は母上の執務室に連れて行かれた。
母上は既に書類に目を通していたが、僕が入ってきたのに気付いて顔を上げた。
「そこにお座りなさい」
母上の執務机の横に新しく席が設けてあったが、どうやらそこが僕の席のようだ。
渋々と席に着くとモーガンがドサッと書類の束を僕の目の前に積み上げる。
「先ずはこちらから目を通してください。ここ数年の公爵家の収支決算が書かれております」
公爵家の収支決算?
いきなりそんな事を言われてもどう返していいのかわからない。
助けを求めるように母上を見やると、心外だと言わんばかりに眉を寄せられた。
「あなたは次期当主でしょう。フェリシアに結婚を申し込むのならば、次期当主としての仕事ができるようにならないと」
母上はそれ以上は言わなかったが、暗に父上の事を指しているのだと悟った。
父上は公爵家の事を母上に押し付けて他の女性と駆け落ちをしてしまった。
おまけにお金がなくなるとこの家に無心に来ようとして盗賊に襲われて死んだんだからな。
僕はそんな父上みたいにはならないぞ。
書類に目を通しているといつの間にか没頭してしまったようだ。
「ハミルトン様」と声をかけられて顔を上げると、モーガンが目の前に立っていた。
「何だ?」
「ハミルトン様、お食事の時間です。食堂に参りましょう」
ふと時計に目をやれば、確かに昼食の時間になっていた。
横にいたはずの母上の姿も既になかった。
僕は書類を置いて立ち上がると、食堂に向かった。
フェリシアがいないと食事も美味しく感じられないんだろうな。
食堂には既にお祖父様の姿があったが、何故か母上の姿はそこにはなかった。
「あれ? 母上はどうされたんですか?」
「ああ、パトリシアは王宮に呼ばれたので先に食事を済ませて出かけたよ」
「え? 王宮ですか? どうして…」
そこで僕はユージーンが来た時に、一緒にいた侍従が書簡を母上に手渡していたのを思い出した。
あれはきっと呼び出し状だったに違いない。
フェリシアの事で何か母上に用があるから呼び出したんだろう。
母上だけがフェリシアに会いに行くなんてズルい!
今から追いかければ母上に追いつけるかも…。
そう思って椅子から立ち上がろうとした僕をお祖父様が一喝した。
「ハミルトン、何処へ行く! お前は呼ばれておらんぞ! それに午後からはパトリシアの代わりに仕事をする事になっておる。 フェリシアに仕事の出来ない男だと思われたいのか?」
フェリシアの名前を出されて僕はピタリと動きを止めた。
「大体、ほんの数時間前に別れたばかりではないか。そんなにこらえ性のない男だとフェリシアに認識させたいのか?」
お祖父様の言葉がグサグサと僕の心に突き刺さる。
フェリシアに会いたいけれど、フェリシアが幻滅するような男にはなりたくない。
僕はハァッとため息を吐くと椅子に座り直した。
僕が座り直したのを見て、ようやく料理が僕とお祖父様の前に並べられる。
お祖父様と二人きりの食事は何とも味気ないものだった。
早くフェリシアを僕の花嫁としてこの公爵家に迎え入れたい。
そのためにはやはり次期当主としての仕事が出来るようにならないと…。
食事を終えた僕はそう決意をして立ち上がった。
フェリシア、僕は頑張るからね。
待っていておくれよ。
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