【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
60 / 98

60 レッスン

しおりを挟む
 私がお茶を飲み終えてカップをソーサーに戻すと、それを待っていたかのようにアガサが近寄ってきた。

「フェリシア様。まもなくオルコット侯爵夫人がお見えになります。あちらへ参りましょう」

 お父様の従姉妹と言うからこちらのプライベートゾーンまで来られるのかと思っていたが、そうではないようだ。

「わかったわ」 

 私は椅子から立ち上がるとアガサの後をついて食堂を出た。

 昨日と同じようにプライベートゾーンから出て、公的なゾーンへと進んで行く。

 アガサが私を連れて行ったのは、昨日と同じ応接室だった。

 ソファーに座って待っていると、しばらくしてノックと共にアガサの声が聞こえた。

「フェリシア様、オルコット侯爵夫人がお見えになりました」

 扉が開いてアガサと共に入って来たのはお父様と同じくらいの年齢の女性たった。

「はじめまして、フェリシア様。キャロライン・オルコットと申します」

 彼女は私の前まで歩み寄って来ると、深々とお辞儀をした。

「フェリシアです。オルコット侯爵夫人、よろしくお願いします」

 私も立ち上がって軽くお辞儀をすると、顔を上げた侯爵夫人が「まあ!」と声を上げた。

「話には聞いていましたが、本当に陛下にそっくりだわ。ユージーン様もソフィア様ではなく陛下に似ていたら良かったのに…」

 お兄様がお父様に似ていたら何が良かったというのかしら?

「それは一体どういう意味ですか?」

 私が尋ねると侯爵夫人は少し悲しそうな顔をした。

「そのままの意味ですわ。ソフィア様が陛下に並々ならぬ想いを抱いていた事はご存知かしら?」

 私が軽く頷くと、侯爵夫人は更に話を続ける。

「産まれてきたのが男の子だったのは良かったのだけれど、ソフィア様にそっくりだったから酷くがっかりなさってたのよ。あれが陛下にそっくりな男の子だったらユージーン様もあそこまで邪険には扱われなかったでしょうに…」

 つまりお兄様はソフィア様にそっくりだったから、放置されてしまったという事なのかしら。

「ソフィア様も、あそこまで陛下にベッタリでなければそれなりに愛情を受けられたでしょうに。もっともソフィア様はそれなりにでは満足されなかったでしょうけれどね」

 少ししんみりした口調の侯爵夫人だったが、重くなった空気を払拭するように明るい声を張り上げた。

「まあ、私とした事が、こんな話をするために来たんじゃなかったわね。フェリシア様、早速レッスンを始めてもよろしいかしら?」

「はい、よろしくお願いします」

 それから、私は立ち居振る舞いやお辞儀の仕方などを教わった。

 ひと通り教わったところで、侯爵夫人が不思議そうに呟く。

「不思議だわ。平民の間で育ったと聞いたから、さぞかし立ち居振る舞いがなっていないと思っていたのに、フェリシア様はまるで貴族に育てられたかのようだわ」

 それはきっと私に前世の記憶があって、子供の頃から食事のマナーや立ち居振る舞いを気を付けていたからだと思うんだけれど、流石にそんな事は口には出せないわ。

「きっとジェシカの行動を見てきたからだと思います」

「ジェシカ? もしかしてダグラスの娘だと言う子の事かしら?」

 ジェシカを引き合いに出したが、これはあながち間違いではない。

 ジェシカは孤児院に入って来た時から立ち居振る舞いや食事のマナーは完璧だった。

 今から思えば父親であるダグラスが貴族だったから、自然と幼い頃から身に着けさせられたのだろう。

 当時はジェシカの父親が貴族だとは思ってもみなかったので、随分としつけが厳しい家庭だったんだな、と思っていたものだ。

 何度かレッスンを繰り返した後に、侯爵夫人がレッスンの終了を告げる。

「本日はここまでにいたしましょう。それでは失礼いたします」

「侯爵夫人、ありがとうございました」

 退室する侯爵夫人を見送ると私はソファーに腰を下ろした。

 間もなく昼食の時間だけれど、きっと昨日のようにお父様達と昼食を取るようになるんでしょうね。

  

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

Mimi
恋愛
 若様がお戻りになる……  イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。  王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。  リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。  次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。  婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。  再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……   * 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました  そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

山猿の皇妃

夏菜しの
恋愛
 ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。  祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。  嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。  子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。  一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……  それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。  帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。  行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。 ※恋愛成分は低め、内容はややダークです

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

処理中です...