御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅

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学院編

67 健康診断

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 閉じた扉に背を向けて、僕は軽く息を吐くと正面を向いた。

 そこには椅子に座った医者が机の上に置かれた書類に目を通していた。

 前世でも見たような診察室の光景だけど、医者の対面に座るはずの患者の椅子がない。

 椅子が置かれるはずのその場所には、人一人が入れるほどの大きさの魔法陣が書かれていた。

 その魔法陣に目を取られていると、書類を見ていた医者が僕の方に顔を向けた。

 その医者の顔には見覚えがあった。

 三年前、義母様が具合が悪くなった時に診察に来てくれた医者だった。

 男性とも女性ともつかないような顔立ちだけれど、どっちなんだろう。

 医者も僕の事を覚えてくれていたようで、僕を見て「ああ」と小さく呟いた。

「エルガー家のエドアルド君ですね。そういえばセレナ様は無事にご出産されたそうですね。おめでとうございます」

 義母様の最初の診察はこの医者がしてくれたけれど、妊婦だとわかってからは別の医者にかかっていた。

 この世界でも『産婦人科』というものがあるようだ。

「ありがとうございます。その節はお世話になりました」

 僕がお礼を言うと医者は目を丸くしていたが、すぐにフッと笑みを漏らした。

「お礼には及びませんよ。それにしても随分と大人びた対応をされますね」

 あれ?

 十歳の子供が言うような事じゃなかったかな?

 ここは笑って誤魔化しておこう。

「エヘヘ」と照れたような笑ってみせると、医者は思い出したかのように目の前の魔法陣を指差した。

「ああ、学院に入るための健康診断でしたね。そこの魔法陣の中に立ってみてください。立ったら動かずにじっとしていてくださいね」

 医者が指差している魔法陣に目をやると、魔法陣の一部がキラリと光ったように見えた。

 この上に乗っても大丈夫なんだろうか?

 乗った途端、何処かに転送されたりしないよね?

 まさか、悪魔が呼び出されて僕を食べたりする?

 ラノベやファンタジー小説に出てくるようなシーンが頭に浮かんだけれど、そんな事はないと浮かんだ考えを振り払う。

 ここは病院なんだから、そんな展開になるはずなんてない。

 僕はそっとその魔法陣に近づくと、ゆっくりと魔法陣の円の中に足を踏み入れた。

 僕が両足を揃えて魔法陣の中央に立つと、魔法陣全体が光りだした。

 思わず後ずさりしそうになったが、医者に言われた事を思い出し、じっと立っていた。

 魔法陣の光はそのままゆっくりと僕の身体を通り抜けるように上昇していく。

 特に痛みも何も感じないけれど、魔法陣の文字や線が僕の身体を通過しているなんて不思議な感覚だった。

 魔法陣はどんどん僕の身体を上昇していき、やがて顔の部分に到達した。

 これって目を開けていても大丈夫なんだろうか?

 医者からは特に「目を瞑れ」とは言われていないし、何より目を通過する時どうなるのか、という好奇心の方がまさった。

 そのまま魔法陣の光を見ていたが、特に眩しさを感じる事なく通り過ぎていった。

 そのまま魔法陣の光を目で追っていたが、僕の頭を通り過ぎるとフッと消えてしまった。

 今の魔法陣で僕の健康診断は終わったのだろうか?

 気を取り直して足元に視線を落とすと、魔法陣は消えていてそこには何も無くなっていた。

 今の魔法陣は使い切りなんだろうか?

「どうぞ、座ってください」

 医者にそう言われて僕のすぐ後ろに椅子がある事に気づいた。

 腰を下ろして医者の方を向くと、何もないはずの空間からヒラヒラと一枚の紙が落ちてきた。
 
 僕はびっくりし過ぎて声も出せない。

 ここまで魔法が溢れているなんて、今まで感じた事はなかった。
 
 ポカンと口を開けていると医者はその紙を見ながら僕に告げた。

「特に異常は見られないですね。健康そのものです。入学には何の問題もありません」

 改めて医者にそう注げられて僕はホッと胸を撫で下ろす。

 自分で気づかない程度の病気にかかっているのではないかと不安だったが、これで払拭された。

「エドアルド君自身で、何か気になる事はありますか?」

 医者に問われて僕は告げようかどうしようか一瞬迷った。

 だが、平和な学院生活を送るためには必要かもしれない。

 僕は意を決して医者に告げた。


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