御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅

文字の大きさ
115 / 242
学院編

115 クリフトン

しおりを挟む
 目を開けたクリフトンは自分が地面に倒れている事に気付いて慌てて起き上がった。

 すかさず僕はクリフトンに声をかける。

「あの、大丈夫ですか?」

「え? 僕は一体ここで何を?」
 
 体に付いた土を払いながらクリフトンは僕を見て怪訝そうな顔で尋ねてきた。

 どうやら自分が僕をここに連れてきた事を覚えていないようだ。

「あなたが向こうから歩いてきて急に倒れたと思ったら、なかなか立ち上がられないので誰か助けを呼ぼうかと思っていたんですが…。気が付かれて良かったです」

 僕の説明にクリフトンはますます不可解そうな顔をしてみせる。

「倒れた? 僕が?」

「はい」 

 クリフトンは頭に手を当てて必死で記憶を探っているようだ。

 オーウェンが何処まで記憶を改ざんしたのかわからないので、下手に口を挟めない。

「…あれ? …なんだっけ? 昨日、エドワード王子やブライアンと話をしていたのは覚えているが、その後の事は記憶にないな…」

 いきなりクリフトンの口から「エドワード王子」という言葉が出てきて僕はドキリとする。

 恐らくその時にジェイコブの魂がクリフトンの中に入り込み、僕の事を話題にしてエドワード王子達と対立をしたのだろう。

 とりあえず、僕の事は覚えていないようだからサッサとこの場からトンズラする事にしよう。

 アーサーも待たせているからね。

 まさか、もう馬車が出発したって事はないよね。

「それじゃ、僕は…」

「君は、誰?」 

 いとまを告げて立ち去ろうとする僕と、クリフトンの声が重なった。

 無視して悪印象を持たれるよりは、自己紹介をしてサッサとこの場を立ち去る方が賢明だろう。

「僕は一年のエドアルド・エルガーです」

「エドアルド・エルガー? …ああ、エルガー男爵家の養子の子だね。僕はクリフトン・ダウナー。同じく一年生だよ」

「あ、ども」

 わざわざ僕相手に名乗ってくれるとは思っていなかったので、簡潔な返事しか返せない。

 そもそも、貴族の中では底辺の男爵家の人間だ。

 高位貴族とのやり取りなんて皆無に等しい。

 それにしても、僕の事を認識していたなんて、そっちの方が驚きだ。

「あの、僕をご存じなんですか?」

「うん、まあね。エドワード王子の側近を目指す身としては、国内の貴族の事は把握しておかないとね」

 クリフトンの言葉に感心すると同時に脱帽した。

 まだ十歳なのに既に将来を見据えた行動をしているのだと思うと、とても同い年には思えなかった。

「あの、馬車の時間があるのでこれで失礼します」

「え? ああ、そうか。そんな時間なんだね。引き留めて悪かったね」

 僕は勢いよくクリフトンに頭を下げた。

 …が。

 勢いが良すぎたのか、奪い返した時の眼鏡のかけ方が不完全だったのか、顔を上げた時には眼鏡がずり落ちていた。

 僕の顔を見てクリフトンが驚愕の表情になる。

「き、君? その顔は?」

 ヤバい!

 僕は慌ててずり落ちた眼鏡を元に戻すと「失礼します」と言い残して走り出した。

「おい! 君!」

 背中からクリフトンの声が追いかけてくるが、僕は振り返らずに全力疾走で馬車乗り場に向かった。

 幸いクリフトンが追いかけて来る事はなかったが、僕は足を緩めずに走り続けた。

 馬車乗り場に辿り着くと、走ってきた僕を見てアーサーが目を丸くした。

「あれ? エド、何処に行ってたの? 姿が見えないから何処に消えたのか探しに行こうとしてたんだよ」

 僕はゼイゼイと荒ぶる息を整えた。

「ごめんごめん。忘れ物を思い出して取りに戻っていたんだ」

「何だ。それでそんなに慌てて走ってきたのか。一言言ってくれれば良かったのに…」

 アーサーが不満そうに口を尖らせる。

「唐突に思い出したから、声をかけそびれちゃったんだ。教室に戻る途中で言い忘れた事を思いだしたんだけど…」

 そう口籠るとアーサーはプッと吹き出した。

「エドって案外と抜けてる所があるよね」

 アーサーに笑われて僕は返す言葉もなかった。

 何しろ、たった今やらかしてしまったばかりだ。

 また一人、顔を合わせてはいけない人物が増えてしまった。

 僕は肩を落としながらアーサーと共に馬車を待つのだった。



しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

処理中です...