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幼少期
1 裏切り
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「何だ、まだ来ていないのか…」
屋上に出る扉の前で足を止めた僕は、ドアノブに付いている鍵のツマミが横になったままなのを見て呟いた。
「…呼び出しておきながら遅れてくるなんて…。…まったく…」
ブツブツ文句を言いながらドアノブのツマミを回して解錠すると、扉を開けて屋上へと出た。
外へと一歩足を踏み出した途端、強い風が僕の髪をなびかせる。
目にかかった髪を片手で払いのけるとコンクリートの床の上をぶらぶらと歩き出した。
屋上には貯水タンクや空調の室外機などが並んでいるが、それ以外は何も無い。
ここに来るには最上階でエレベーターを降りた後、階段を使わなければ上がってこれないからだ。
直接屋上に上がれないので、ここに点検に来る業者にはそれが不満らしい。
ここは僕達の親父が所有しているビルのうちの一つだ。
弟の和也から『誰にも内緒で話がある』と連絡があり、指定されたのがこのビルの屋上だった。
弟といっても双子だから歳は一緒だ。
僕が達也で弟が和也。
そう、あの有名な野球漫画の主人公と同じ名前だ。
ご多分に漏れず、僕達の親父もあの漫画のファンで、お腹の中にいる時から既に名前は決められていたらしい。
大きくなってその漫画を読んだ時に(双子の片割れが早々に死んじゃうなんて縁起悪くない?)と思ったものだが、漫画とは違って二十歳を迎えるまでに成長出来たのだから良しとしよう。
それにしても…。
わざわざこんな所に呼び出すなんて和也はどうしたんだろう?
最近、妙に元気が無さそうなのと何か関係があるのだろうか?
屋上に張り巡らされた柵に向かおうとして、ふと足音が聞こえて振り返ろうとした時だった。
ガンッ!
「うっ…」
僕は頭に衝撃を受けてその場に倒れ込んだ…。
どのくらい時間が経ったのだろうか?
僕は頭の痛みに呻いて目を開けて仰天した。
「え!?」
目の前、というか眼下には地上にある駐車場が広がっていたからだ。
目で見ているものがにわかには信じられずに頭がパニックを起こす。
「な、何で…?」
「おっと! 下手に動くと落ちるよ」
身動きをしようとした僕に聞き慣れた声が飛び込んでくる。
そこで僕はようやく自分の状況を知る事になった。
僕はビルの屋上の柵の外側に吊り下げられている状態だった。
唯一僕の身体を繋ぎ止めているのは、脇の下に回された一本のロープだった。
このロープに身体を引っ掛けられるようにしてぶら下がっているのだ。
おそらくこのロープは後ろの柵に繋がれているのだろう。
だが、どうやって僕の身体を柵の外側に吊り下げる事が出来たのだろうか?
自分で柵を越えるにしても、こんな高所では難しいのに、どうやって僕の身体を柵の向こう側に吊り下げられたのだろうか?
僕は落ちないように両手でロープをぎゅっと握りしめるとゆっくりと後ろを振り返った。
柵の向こう側に僕と同じ顔をした和也が僕を見下ろしている。
助けに来てくれた、という思いはその手に握られたナイフによって一気に霧散する。
まさか、僕をこんな状態にしたのは和也か?
「おい! 和也! 何をふざけた事をしているんだ! お願いだから早く僕をそっちに引き上げてくれ!」
必死に頼み込むも和也は冷ややかな視線を僕に向けたまま冷たく答える。
「残念だけどそれは出来ないな。今日、ここで和也は死ぬんだから…」
「…え?」
今、和也と言ったか?
だったら、どうして僕がこんな状況になっているんだ?
「おい! 和也はお前だろ? 何を言っているんだ!?」
「だからー。今日から僕が達也で、お前が和也なんだよ。漫画だって和也の方が死んじゃうだろ? だから、僕達も漫画の通りにしなくちゃ」
こいつは何を言っているんだ?
漫画と同じにするために僕を殺すつもりなのか?
「何をバカな事を!」
「バカな事じゃないさ。今までだって僕達が入れ替わったって誰も気付かなかったじゃないか。だから今度も入れ替わったって誰にもバレやしないさ」
「和也! どうしてこんな事を! それにどうやって僕の身体をこんな状態に出来たんだ? お願いだから教えてくれ!」
僕を殺そうとする理由もだが、どうやって僕をこんな状態に出来たのかが知りたかった。
この場には僕と和也しかいないようで、共犯者はいないみたいだ。
それに柵の隙間も人が通り抜けられるほどの幅はない。
「結構大変だったんだぜ。柵の鉄格子を切って幅を広げておいたんだよ。そのままにしておくと誰かに見つかるから、切った事が分からないようにまた粘土で引っ付けてさ」
よく見れば和也の腰にはハーネスが付けられている。
僕を吊り下げる時、誤って落ちないように自分の身体を柵に繋げていたんだろう。
そんな手間をかけてまで僕を亡き者にしたいのか。
「どうして僕を殺すんだ!」
「どうして? 理由が聞きたい?」
「頼む! 教えてくれ!」
和也はもったいぶったようにナイフをもてあそびながら僕を見下ろしている。
「まずは親父の財産を僕が独り占めしたいって事かな」
その言葉に僕は衝撃を受ける。
まさか和也が親父の財産にそこまで執着しているとは思っていなかったからだ。
親父は常々、『二人で会社を継いでくれ』と言っていたからだ。
だからこそ、僕達は大学の経済学部に通っている。
卒業したら系列会社に就職して経験を積んだ後で親父の仕事を手伝う予定だったのだ。
けれど…。
和也がそんなに親父の財産に執着しているなら、この際全部くれてやる!
生きていれば何とでもなるはずだ。
「財産は全部お前にやるから、命だけは助けてくれ!」
必死に懇願するも和也は一向に動こうとしない。
それどころか、和也の後ろに誰かがたたずんでいるのに気がついた。
「それでもお前に生きていられちゃ困るんだよ。夏姫と付き合っているのは達也だからね」
そう言いながら和也は後ろの人物に手を差し出した。
そこには僕の恋人である夏姫の姿があった。
「…夏姫…」
僕が呟くと夏姫は和也の腕に自分の腕を絡めて寄り添った。
「ごめんなさい、和也さん。あなたの気持ちは嬉しいけれど、私は達也さんが好きなの」
その言葉と黒い微笑みに僕は嫌でも理解した。
夏姫は僕達のうち、どちらでも良かったのだと…。
そして片方を排除するのに何の躊躇いも持っていないという事を…。
「残念だったね。お前がトロトロしてるから夏姫は俺が頂いたよ」
和也の暴露に僕はギリッと唇を噛み締める。
確かに僕は夏姫とキスしかしてこなかった。
その事に夏姫が不満そうな表情を浮かべていたのに気付かないふりをしていた。
だけど、まさかこんなふうに裏切られるなんて…。
和也は僕の耳元に顔を近づけて聞きたくもない言葉を口にした。
「夏姫の身体は最高だったよ」
その一言が余計に僕の心を逆なでる。
「最近の僕は元気がなかっただろ? 夏姫にフラれたショックでこのビルから飛び降り自殺するんだ」
…そうか。
元気がないのも策略の一つだったのか。
そんな事も気付けずに心配していたなんて、バカみたいだ。
僕は必死にビルの壁に足をかけてよじ登ろうとしたが、既に靴は脱がされていて靴下を履いた足はツルツルと滑るだけだった。
きっと屋上に靴を揃えて遺書と一緒に置いてあるんだろう。
その遺書も筆跡がわからないようにワープロで打ってあったりするんだろう。
身体の向きを変えようにも、ロープは僕の身体をビルにピタリと引っ付けるように張られて身動きも出来ない。
ジタバタと藻掻く僕を見て和也は「クックッ」と笑いを漏らす。
「じゃあな、和也」
「ま、…」
プツッ!
ロープが切られ僕の身体はそのまま真っ逆さまに落ちていった。
屋上に出る扉の前で足を止めた僕は、ドアノブに付いている鍵のツマミが横になったままなのを見て呟いた。
「…呼び出しておきながら遅れてくるなんて…。…まったく…」
ブツブツ文句を言いながらドアノブのツマミを回して解錠すると、扉を開けて屋上へと出た。
外へと一歩足を踏み出した途端、強い風が僕の髪をなびかせる。
目にかかった髪を片手で払いのけるとコンクリートの床の上をぶらぶらと歩き出した。
屋上には貯水タンクや空調の室外機などが並んでいるが、それ以外は何も無い。
ここに来るには最上階でエレベーターを降りた後、階段を使わなければ上がってこれないからだ。
直接屋上に上がれないので、ここに点検に来る業者にはそれが不満らしい。
ここは僕達の親父が所有しているビルのうちの一つだ。
弟の和也から『誰にも内緒で話がある』と連絡があり、指定されたのがこのビルの屋上だった。
弟といっても双子だから歳は一緒だ。
僕が達也で弟が和也。
そう、あの有名な野球漫画の主人公と同じ名前だ。
ご多分に漏れず、僕達の親父もあの漫画のファンで、お腹の中にいる時から既に名前は決められていたらしい。
大きくなってその漫画を読んだ時に(双子の片割れが早々に死んじゃうなんて縁起悪くない?)と思ったものだが、漫画とは違って二十歳を迎えるまでに成長出来たのだから良しとしよう。
それにしても…。
わざわざこんな所に呼び出すなんて和也はどうしたんだろう?
最近、妙に元気が無さそうなのと何か関係があるのだろうか?
屋上に張り巡らされた柵に向かおうとして、ふと足音が聞こえて振り返ろうとした時だった。
ガンッ!
「うっ…」
僕は頭に衝撃を受けてその場に倒れ込んだ…。
どのくらい時間が経ったのだろうか?
僕は頭の痛みに呻いて目を開けて仰天した。
「え!?」
目の前、というか眼下には地上にある駐車場が広がっていたからだ。
目で見ているものがにわかには信じられずに頭がパニックを起こす。
「な、何で…?」
「おっと! 下手に動くと落ちるよ」
身動きをしようとした僕に聞き慣れた声が飛び込んでくる。
そこで僕はようやく自分の状況を知る事になった。
僕はビルの屋上の柵の外側に吊り下げられている状態だった。
唯一僕の身体を繋ぎ止めているのは、脇の下に回された一本のロープだった。
このロープに身体を引っ掛けられるようにしてぶら下がっているのだ。
おそらくこのロープは後ろの柵に繋がれているのだろう。
だが、どうやって僕の身体を柵の外側に吊り下げる事が出来たのだろうか?
自分で柵を越えるにしても、こんな高所では難しいのに、どうやって僕の身体を柵の向こう側に吊り下げられたのだろうか?
僕は落ちないように両手でロープをぎゅっと握りしめるとゆっくりと後ろを振り返った。
柵の向こう側に僕と同じ顔をした和也が僕を見下ろしている。
助けに来てくれた、という思いはその手に握られたナイフによって一気に霧散する。
まさか、僕をこんな状態にしたのは和也か?
「おい! 和也! 何をふざけた事をしているんだ! お願いだから早く僕をそっちに引き上げてくれ!」
必死に頼み込むも和也は冷ややかな視線を僕に向けたまま冷たく答える。
「残念だけどそれは出来ないな。今日、ここで和也は死ぬんだから…」
「…え?」
今、和也と言ったか?
だったら、どうして僕がこんな状況になっているんだ?
「おい! 和也はお前だろ? 何を言っているんだ!?」
「だからー。今日から僕が達也で、お前が和也なんだよ。漫画だって和也の方が死んじゃうだろ? だから、僕達も漫画の通りにしなくちゃ」
こいつは何を言っているんだ?
漫画と同じにするために僕を殺すつもりなのか?
「何をバカな事を!」
「バカな事じゃないさ。今までだって僕達が入れ替わったって誰も気付かなかったじゃないか。だから今度も入れ替わったって誰にもバレやしないさ」
「和也! どうしてこんな事を! それにどうやって僕の身体をこんな状態に出来たんだ? お願いだから教えてくれ!」
僕を殺そうとする理由もだが、どうやって僕をこんな状態に出来たのかが知りたかった。
この場には僕と和也しかいないようで、共犯者はいないみたいだ。
それに柵の隙間も人が通り抜けられるほどの幅はない。
「結構大変だったんだぜ。柵の鉄格子を切って幅を広げておいたんだよ。そのままにしておくと誰かに見つかるから、切った事が分からないようにまた粘土で引っ付けてさ」
よく見れば和也の腰にはハーネスが付けられている。
僕を吊り下げる時、誤って落ちないように自分の身体を柵に繋げていたんだろう。
そんな手間をかけてまで僕を亡き者にしたいのか。
「どうして僕を殺すんだ!」
「どうして? 理由が聞きたい?」
「頼む! 教えてくれ!」
和也はもったいぶったようにナイフをもてあそびながら僕を見下ろしている。
「まずは親父の財産を僕が独り占めしたいって事かな」
その言葉に僕は衝撃を受ける。
まさか和也が親父の財産にそこまで執着しているとは思っていなかったからだ。
親父は常々、『二人で会社を継いでくれ』と言っていたからだ。
だからこそ、僕達は大学の経済学部に通っている。
卒業したら系列会社に就職して経験を積んだ後で親父の仕事を手伝う予定だったのだ。
けれど…。
和也がそんなに親父の財産に執着しているなら、この際全部くれてやる!
生きていれば何とでもなるはずだ。
「財産は全部お前にやるから、命だけは助けてくれ!」
必死に懇願するも和也は一向に動こうとしない。
それどころか、和也の後ろに誰かがたたずんでいるのに気がついた。
「それでもお前に生きていられちゃ困るんだよ。夏姫と付き合っているのは達也だからね」
そう言いながら和也は後ろの人物に手を差し出した。
そこには僕の恋人である夏姫の姿があった。
「…夏姫…」
僕が呟くと夏姫は和也の腕に自分の腕を絡めて寄り添った。
「ごめんなさい、和也さん。あなたの気持ちは嬉しいけれど、私は達也さんが好きなの」
その言葉と黒い微笑みに僕は嫌でも理解した。
夏姫は僕達のうち、どちらでも良かったのだと…。
そして片方を排除するのに何の躊躇いも持っていないという事を…。
「残念だったね。お前がトロトロしてるから夏姫は俺が頂いたよ」
和也の暴露に僕はギリッと唇を噛み締める。
確かに僕は夏姫とキスしかしてこなかった。
その事に夏姫が不満そうな表情を浮かべていたのに気付かないふりをしていた。
だけど、まさかこんなふうに裏切られるなんて…。
和也は僕の耳元に顔を近づけて聞きたくもない言葉を口にした。
「夏姫の身体は最高だったよ」
その一言が余計に僕の心を逆なでる。
「最近の僕は元気がなかっただろ? 夏姫にフラれたショックでこのビルから飛び降り自殺するんだ」
…そうか。
元気がないのも策略の一つだったのか。
そんな事も気付けずに心配していたなんて、バカみたいだ。
僕は必死にビルの壁に足をかけてよじ登ろうとしたが、既に靴は脱がされていて靴下を履いた足はツルツルと滑るだけだった。
きっと屋上に靴を揃えて遺書と一緒に置いてあるんだろう。
その遺書も筆跡がわからないようにワープロで打ってあったりするんだろう。
身体の向きを変えようにも、ロープは僕の身体をビルにピタリと引っ付けるように張られて身動きも出来ない。
ジタバタと藻掻く僕を見て和也は「クックッ」と笑いを漏らす。
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