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幼少期
3 フィリップ王の苦悩
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フィリップが国王の座に就いたのはわずか二十歳の時だった。
その数カ月前に婚約者であったリリベットと結婚して、王太子夫妻として国政に関わりだしたばかりの頃だった。
あの日…。
フィリップがいつものように自分の執務室で仕事をしていると、バタバタと廊下を走る音が聞こえたと同時に扉が開かれた。
「フィリップ様! 大変です! 陛下がお倒れになりました!」
「何だと!」
突然の報せにフィリップの周りにいた文官達も驚きの声をあげる。
フィリップが慌てて駆け付けた時には、父王は既にベッドに寝かされていて意識不明の状態だった。
「一体何があった!?」
傍にいた宰相に問うと、宰相は困惑の表情で首を振る。
「わかりません。いつもの通りに書類に目を通されていたのですが、突然その場に突っ伏されて…」
父王を診察していた宮廷医はフィリップに向かって静かに首を振る。
「フィリップ様。誠に申し上げにくいのですが、陛下のご病気は私の手には負えません」
「何!?」
「おそらく心臓発作を起こされたのだと思いますが、私の治癒魔法ではどうする事も出来ないのです」
その言葉を聞いた途端、フィリップは宮廷医の胸ぐらを掴んでいた。
「まだ父上は五十歳にもなっていないのだぞ! それなのにどうする事も出来ないとは!」
「フィリップ様! おやめください!」
宰相が宮廷医からフィリップを引き剥がすと、フィリップは我に返ったように椅子に座り込む。
「…すまない」
「いえ」
宮廷医はそれ以上は口にせず、乱れた白衣を正した。
部屋の中に重苦しい空気が漂う。
そんな空気を振り払うように扉が開いて、母親である王妃が入ってきた。
その後を追うようにリリベットが続けて入ってくる。
「陛下!」
ベッド脇に座っているフィリップを押し退けるようにして王妃は国王の顔を覗き込む。
「陛下! しっかりしてくださいませ! わたくしの声が聞こえますか!?」
王妃が呼びかけても国王は何の反応も見せなかった。
王妃が救いを求めるように宮廷医を振り返るが、宮廷医は静かに首を振るだけだった。
やがてかすかに繰り返されていた国王の呼吸が止まった。
慌てて宮廷医が蘇生を試みるが、国王が息を吹き返す事はなかった。
「ご臨終です」
宮廷医が国王の死を告げると、王妃の泣き叫ぶ声が部屋に響いた。
リリベットもフィリップの肩にもたれるようにしてそっと涙を流す。
宰相はフィリップに向かって深々と頭を下げた。
「新国王陛下。おめでとうございます」
フィリップはその言葉を困惑のまま聞いていた。
それからは怒涛の日々が続いた。
父王の葬儀。
新王の戴冠式。
慣れない国政。
宰相や他の大臣達がいるとはいえ、気の抜けない日々が続いた。
何年もかけて徐々に引き継いでいくはずだったものが一気に押し寄せてきたのだ。
それはフィリップだけでなく、リリベットも一緒だった。
王太子妃としての経験が浅いまま、今度は王妃としての対応を迫られる。
フィリップもリリベットも肉体的にも精神的にもクタクタになり、泥のように眠る日々が続いた。
そんな環境のせいかどうかはわからないが、なかなか子宝に恵まれなかった。
結婚して五年が過ぎても子供が産まれない事に業を煮やした大臣達が、「側室をもうけてはどうか」と進言してき
た。
その声をあげる大半の貴族には年頃の娘がいた。
あわよくば娘にフィリップの子供を産んでもらい、王家に取り入ろうというつもりだろう。
そんな声に刺激されたのか、側室候補が絞り込まれた頃、ようやくリリベットが懐妊したのだった。
この報せには国中が喜びで沸き上がった。
「どちらが生まれるか」という賭けをする者まで出てくるほどだった。
フィリップも日に日に大きくなるリリベットのお腹を撫でては、生まれる日を心待ちにしていたのだった。
そして、いよいよリリベットのお産が始まった。
朝から陣痛が始まったのに、なかなか生まれてくる気配がなかった。
フィリップはやきもきしながら執務をこなしていたが、夕方になっても「生まれた」という報せは来なかった。
夕食と湯浴みを終えた頃、ようやく報せが届きフィリップは分娩室に向かった。
しかし…。
そこで目にしたのは生まれたばかりの二人の男の子だった。
「リリベットが産んだのが双子とはどういう事だ!」
フィリップは外に漏れないように押し殺した声で宮廷医に詰め寄った。
確かにお腹が大きいとは思っていたが、まさか双子がそのお腹の中にいるとは思ってもみなかった。
この国では男の子の双子は忌み嫌われるものだった。
その昔、王家に男の子の双子が生まれた事があった。
どちらも同じ顔をしていて、同じくらい優秀だった。
だが、いざ王位を継がせる時になって、どちらにするかで揉めた。
本来ならば、先に生まれた兄王子が継ぐべきなのだが、弟王子も同じくらいの能力を持っていたため、弟王子を推
す貴族が現れたのだ。
それはまさに国を二分するほどの勢いだった。
内乱が起き、各地で小競り合いが続いた。
結局、弟王子の方が勝利し、兄王子とそれを支援していた貴族達は処刑された。
その際、弟王子は兄王子として歴史が書き換えられた。
それ以来、双子が生まれた場合は先に生まれた方が弟、後から生まれた方を兄とするようになった。
そして、今後王家に双子が生まれた場合はどちらかを手放すようにと言い伝えられてきた。
あれからおよそ二百年余り。
王家に双子が生まれる事もなく、王位継承も問題なく行われていた。
それなのに…。
(そんな双子がよりによって自分の子供に生まれるとは…)
パニックになったフィリップは咄嗟にタオルを顔に押し当てて殺そうとした。
宮廷医が止めなければ、間違いなく殺してしまっていただろう。
仕方なくサラに命じて孤児院に置いて来るように伝えたが、どこまで連れて行ったのだろうか?
言い伝えを無視して双子が生まれたと公表した方が良かったのだろうか?
ぼんやりとそんな事を考えていると、リリベットがエドワードを連れてやって来た。
「陛下、見てください。エドワードに歯が生えてきましたわ」
リリベットがエドワードの唇をそっと引っ張ると、下顎に小さな白い歯がちょこんと顔を出していた。
「ああ、確かに可愛い歯が生えてきたな」
フィリップが笑いかけるとエドワードもニコリと笑って小さな歯をのぞかせる。
(あの子の事は忘れよう。私の子供はこのエドワードだけだ)
フィリップはふるりと頭を振ってエドアルドの記憶を振り払った。
その数カ月前に婚約者であったリリベットと結婚して、王太子夫妻として国政に関わりだしたばかりの頃だった。
あの日…。
フィリップがいつものように自分の執務室で仕事をしていると、バタバタと廊下を走る音が聞こえたと同時に扉が開かれた。
「フィリップ様! 大変です! 陛下がお倒れになりました!」
「何だと!」
突然の報せにフィリップの周りにいた文官達も驚きの声をあげる。
フィリップが慌てて駆け付けた時には、父王は既にベッドに寝かされていて意識不明の状態だった。
「一体何があった!?」
傍にいた宰相に問うと、宰相は困惑の表情で首を振る。
「わかりません。いつもの通りに書類に目を通されていたのですが、突然その場に突っ伏されて…」
父王を診察していた宮廷医はフィリップに向かって静かに首を振る。
「フィリップ様。誠に申し上げにくいのですが、陛下のご病気は私の手には負えません」
「何!?」
「おそらく心臓発作を起こされたのだと思いますが、私の治癒魔法ではどうする事も出来ないのです」
その言葉を聞いた途端、フィリップは宮廷医の胸ぐらを掴んでいた。
「まだ父上は五十歳にもなっていないのだぞ! それなのにどうする事も出来ないとは!」
「フィリップ様! おやめください!」
宰相が宮廷医からフィリップを引き剥がすと、フィリップは我に返ったように椅子に座り込む。
「…すまない」
「いえ」
宮廷医はそれ以上は口にせず、乱れた白衣を正した。
部屋の中に重苦しい空気が漂う。
そんな空気を振り払うように扉が開いて、母親である王妃が入ってきた。
その後を追うようにリリベットが続けて入ってくる。
「陛下!」
ベッド脇に座っているフィリップを押し退けるようにして王妃は国王の顔を覗き込む。
「陛下! しっかりしてくださいませ! わたくしの声が聞こえますか!?」
王妃が呼びかけても国王は何の反応も見せなかった。
王妃が救いを求めるように宮廷医を振り返るが、宮廷医は静かに首を振るだけだった。
やがてかすかに繰り返されていた国王の呼吸が止まった。
慌てて宮廷医が蘇生を試みるが、国王が息を吹き返す事はなかった。
「ご臨終です」
宮廷医が国王の死を告げると、王妃の泣き叫ぶ声が部屋に響いた。
リリベットもフィリップの肩にもたれるようにしてそっと涙を流す。
宰相はフィリップに向かって深々と頭を下げた。
「新国王陛下。おめでとうございます」
フィリップはその言葉を困惑のまま聞いていた。
それからは怒涛の日々が続いた。
父王の葬儀。
新王の戴冠式。
慣れない国政。
宰相や他の大臣達がいるとはいえ、気の抜けない日々が続いた。
何年もかけて徐々に引き継いでいくはずだったものが一気に押し寄せてきたのだ。
それはフィリップだけでなく、リリベットも一緒だった。
王太子妃としての経験が浅いまま、今度は王妃としての対応を迫られる。
フィリップもリリベットも肉体的にも精神的にもクタクタになり、泥のように眠る日々が続いた。
そんな環境のせいかどうかはわからないが、なかなか子宝に恵まれなかった。
結婚して五年が過ぎても子供が産まれない事に業を煮やした大臣達が、「側室をもうけてはどうか」と進言してき
た。
その声をあげる大半の貴族には年頃の娘がいた。
あわよくば娘にフィリップの子供を産んでもらい、王家に取り入ろうというつもりだろう。
そんな声に刺激されたのか、側室候補が絞り込まれた頃、ようやくリリベットが懐妊したのだった。
この報せには国中が喜びで沸き上がった。
「どちらが生まれるか」という賭けをする者まで出てくるほどだった。
フィリップも日に日に大きくなるリリベットのお腹を撫でては、生まれる日を心待ちにしていたのだった。
そして、いよいよリリベットのお産が始まった。
朝から陣痛が始まったのに、なかなか生まれてくる気配がなかった。
フィリップはやきもきしながら執務をこなしていたが、夕方になっても「生まれた」という報せは来なかった。
夕食と湯浴みを終えた頃、ようやく報せが届きフィリップは分娩室に向かった。
しかし…。
そこで目にしたのは生まれたばかりの二人の男の子だった。
「リリベットが産んだのが双子とはどういう事だ!」
フィリップは外に漏れないように押し殺した声で宮廷医に詰め寄った。
確かにお腹が大きいとは思っていたが、まさか双子がそのお腹の中にいるとは思ってもみなかった。
この国では男の子の双子は忌み嫌われるものだった。
その昔、王家に男の子の双子が生まれた事があった。
どちらも同じ顔をしていて、同じくらい優秀だった。
だが、いざ王位を継がせる時になって、どちらにするかで揉めた。
本来ならば、先に生まれた兄王子が継ぐべきなのだが、弟王子も同じくらいの能力を持っていたため、弟王子を推
す貴族が現れたのだ。
それはまさに国を二分するほどの勢いだった。
内乱が起き、各地で小競り合いが続いた。
結局、弟王子の方が勝利し、兄王子とそれを支援していた貴族達は処刑された。
その際、弟王子は兄王子として歴史が書き換えられた。
それ以来、双子が生まれた場合は先に生まれた方が弟、後から生まれた方を兄とするようになった。
そして、今後王家に双子が生まれた場合はどちらかを手放すようにと言い伝えられてきた。
あれからおよそ二百年余り。
王家に双子が生まれる事もなく、王位継承も問題なく行われていた。
それなのに…。
(そんな双子がよりによって自分の子供に生まれるとは…)
パニックになったフィリップは咄嗟にタオルを顔に押し当てて殺そうとした。
宮廷医が止めなければ、間違いなく殺してしまっていただろう。
仕方なくサラに命じて孤児院に置いて来るように伝えたが、どこまで連れて行ったのだろうか?
言い伝えを無視して双子が生まれたと公表した方が良かったのだろうか?
ぼんやりとそんな事を考えていると、リリベットがエドワードを連れてやって来た。
「陛下、見てください。エドワードに歯が生えてきましたわ」
リリベットがエドワードの唇をそっと引っ張ると、下顎に小さな白い歯がちょこんと顔を出していた。
「ああ、確かに可愛い歯が生えてきたな」
フィリップが笑いかけるとエドワードもニコリと笑って小さな歯をのぞかせる。
(あの子の事は忘れよう。私の子供はこのエドワードだけだ)
フィリップはふるりと頭を振ってエドアルドの記憶を振り払った。
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