御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅

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幼少期 

5 孤児院

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 急に瞼に光を感じ、閉じたままの目を更にギュッと瞑るが、眩しさは変わらなかった。

 そっと目を開けると僕を覗き込んでいる顔と目が合った。

 誰だろう?

 真っ白な髪に白い口髭をはやした老人だ。

 昨日見かけた宮廷医ではなかった。

 老人は籠から僕を抱き上げると、少し迷惑そうな表情を見せた。

「普段は聞かない馬車の音がしたので気になって来てみれば、門の前にこの籠が置いてあった。まさかとは思ったが、案の定赤ん坊が入れられておったわ。王都では王妃様に子供が生まれると喜びに沸いているのに、その反面こうして捨てられる赤ん坊がいるとは…」

 老人はブツブツ言いながらも僕を抱いたまま、片手に籠を提げて門を入って行く。

 敷地内を進んで行った先に建物が見えてきた。

 老人が僕の事を「捨てられて」と言っていたから、恐らくここは孤児院なのだろう。

 サラは僕の父親である国王に命令されてこの孤児院まで僕を捨てに来たようだ。

 もしかしたらこの老人がここの院長なのだろうか?

 『孤児院』と聞くと女の人が院長のようなイメージがあるけれど、それは僕の偏見かな?

 サラが何処に僕を捨てに来たのかはわからないが、『王都では…』と言っていたから、どこか別の町なのだろう。

 老人は籠を持った手で器用に扉を開けると中に入っていった。

「起きるなり外に飛び出すなんて…。あら? その子は?」

 声のする方に顔を向けると、老人と同じ歳くらいの女の人が立っていた。

 もしかして老人の奥さんなのだろうか?

「門の前に捨てられておった。悪いがこの子の面倒を見てやってくれ。私はこの子についての書類を作成してくる」

「わかりました。…あら? 紙が…」

 女の人が僕を受け取ると、僕の胸の辺りから一枚の紙を取り上げた。

「『エドアルド』とありますね。もしかしてこの子の名前かしら?」

「恐らくそうだろう。名前も付けられずに捨てられるよりはましかもしれんが、捨てるくらいなら産むなと言いたいわ!」

 老人が吐き捨てるように文句を言うとドタドタと足を踏み鳴らしながら遠ざかっていった。

「この子に文句を言ってもしょうがないのに…。よしよし、お腹は空いていない? ミルクをあげましょうね」

 女の人は僕をあやすように優しく微笑むと、老人とは別の方向に歩き出した。

 途端に僕は生まれてから何も口にしていない事を思い出した。

 普通の赤ん坊ならばここで泣き出すところなのだろうが、流石に二十歳まで生きた記憶がある僕にはそんな恥ずかしい事は出来ない。

『お腹が空いた』と言うつもりだったが、「アー、アー」としか発せられない。

 人間としては未発達なのだから仕方がないだろうけれど、羞恥心に苛まれる。

 廊下を進んでいくと何処かの部屋へと入っていったが、そこには扉がなかった。

 ざっと見渡す限り、どうやら台所のようだ。

 女の人は僕を何処かの上に寝かせると、何かを探し始めた。

 カチャカチャと音がした後で、コトンと僕の横に瓶のような物が置かれた。

「さあ、ミルクを飲みましょうね」

 再び女の人に抱き上げられると、僕の口に何かが押し当てられる。

 どうやらゴム製の乳首のようだ。

 パクリと口にくわえると、ミルクの味がした。

 この世界に転生して初めて口にしたミルクはとても美味しい。

 思わず息も継がずに飲み始める。

「あらあら。そんなに急いで飲むとむせちゃうわよ」 

 女の人が驚いて僕の口から乳首を離す。

 ハァハァと荒く呼吸をすると、女の人からクスクスと笑いが漏れる。

「相当お腹が空いていたのね。ゆっくり飲んでも大丈夫よ」

 再び僕の口に乳首が突っ込まれる。

 今度は落ち着いてゆっくりとミルクを飲んでいく。

 たくさん飲んだつもりでも、生まれたばかりの赤ん坊の胃袋の大きさなんてたかがしれている。

 すぐにお腹がいっぱいになって、僕は乳首を吸うのをやめた。

「もういいの? それじゃゲップを出しましょうか」

 女の人は僕の頭を自分の肩にもたれかかせると、僕の背中をトントンと軽く叩き始めた。

 ゲプッ!

 あ、ちょっとミルクが溢れちゃった。

「あらあら。ちょっと飲み過ぎちゃったのね」

 女の人は肩に溢されたミルクを怒る事もなく、タオルで僕の口を拭いた後で肩のミルクも拭いた。

「オムツは濡れてないかしら?

 え? まさか?

 無抵抗の僕を女の人は台の上に寝かせると、産着の裾をめくって布オムツを外した

「まあ! へその緒が付いたままじゃないの!」

 どうやら僕のオヘソにはへその緒が付いたままのようだ。

 へその緒って生まれてからどれくらいで取れるものなんだろう?

「あまり肉付きも良くないみたいだから、生まれてから二~三日も経っていないのかしら? そんな生まれたばかりの赤ん坊を捨てるなんて、親は一体何を考えているのかしら!」

 女の人はぷんぷんと怒りながら僕のオムツを替えて産着の裾をもとに戻した。

 下半身が外気にさらされている間、僕は一生懸命無に徹した。

 僕は赤ん坊…、僕は赤ん坊…。

 一人でトイレに行けるようになるまでどのくらいかかるんだろうか?

 お腹もいっぱいになり、オムツも乾いた物に取り替えてもらった僕は、大きなあくびをした。

「あら、眠たくなったのね」 

 女の人に抱かれてあやされているうちに、いつしか僕は眠ってしまっていた。



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