御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅

文字の大きさ
11 / 242
幼少期 

11 返品?

しおりを挟む
『ゴカイニン?』

 僕にはその言葉の意味がすぐには理解出来なかった。

 それは父上と母上にとっても同じだったようだ。

「ご懐妊? 誰が?」

「え?」

 そんな父上と母上に医者は苦笑いを浮かべた。

「マーガレット様に決まっているじゃありませんか。おめでとうございます。とは言ってもまだ妊娠初期ですから、ご無理はされませんように、しばらくは馬車での移動はなされない方がよろしいですよ」

 それから医者はつらつらと妊娠初期の注意点を挙げると「お大事に」と言って帰っていった。

 父上と母上は医者がいなくなってようやく、母上の妊娠を実感したようだ。

「私のこのお腹の中に赤ちゃんが?」

 母上は服の上からお腹をそっと触っている。

 そばに居合わせたメイドに

「奥様、おめでとうございます」

と、声をかけられ、母上ははにかんだような笑みを浮かべる。

「まさか、私が妊娠できるなんて…」 

「この十年、どんなに手を尽くしても妊娠なんてしなかったのに…」

 などと、二人はこれまでの苦労をしみじみと語り合っている。

 僕もお祝いを言おうと思い「アー、アー(おめでとうございます)」と声をあげた。

 僕の声が聞こえた途端、父上と母上はハッとしたようにベビーベッドにいる僕を見つめた。

 まるで、今の今まで僕の存在など忘れていたかのような眼差しに僕は一抹の不安を覚える。

 父上と母上はチラリとアイコンタクトを交わすと、軽くうなずき合った。

「マーガレット、立てるかい? ここだとゆっくり休めないだろうから寝室の方に移動しようか」

 父上は母上をソファから立たせると、その身体を支えるようにエスコートする。

「シェナ、エドアルドを頼んだよ」

 父上はメイドに僕の世話を頼むと、まるでこの場から逃げるように母上を連れて部屋から出て行った。

 僕はその後ろ姿を目で追いながら、(もしかしたら…)と考えていた。

 父上と母上に自分達の子供が生まれるとなると、養子である僕はお払い箱なんじゃないかと…。

 大体、養子と実子を分け隔てなく育てるなんて、なかなか出来る事ではないだろう。

 どうしても感情的になってしまう部分はあるはずだ。

 それに僕は自分が養子だと分かっている分、父上と母上の態度に対して「僕が養子だから…」と考えてしまう部分が出てくるかもしれない。

 僕が普通の赤ん坊ならば、そんな事を考えずに済むんだろうけれど、いかんせん、こうして記憶がある以上、勘繰ってしまうかもしれない。

 そんな僕の不安はすぐに的中した。

 翌日、僕はシェナに抱っこされると父上と共に馬車に乗せられた。

 母上は馬車に乗り込む僕の頭を軽く撫でながら、少し目を潤ませていた。

「エドアルド、ごめんなさいね。でもあなたならきっと、すぐに新しい養子先が見つかるわ」

 そう言われても僕には返す言葉もない。

「気にしなくていいよ」という意味も含めてニコッと笑いかけたけれど、母上はポロリと涙をこぼした。

 僕達を乗せた馬車はガラガラと音を立てて走り出す。

 シェナに抱っこされた僕の向かい側に座る父上は、極力僕を見ないようにずっと窓の外を眺めている。

 馬車の揺れにコクリコクリとうたた寝をしていた僕は、馬車が止まると同時に目を覚ました。

 馬車が着いた先はやはり元いた孤児院だった。

 馬車から降りた僕達を院長先生が困惑の表情で出迎えた。

「これはこれは、ピーター様。一体どうなさいましたかな?」 

 院長室で向き合うと、院長先生は父上に来訪の理由を尋ねる。

「突然申し訳ない」

 そう切り出した父上は院長先生に軽く頭を下げた。

「実は妻の妊娠が発覚したんだ。このままエドアルドを育てようかとも思ったが、これから生まれてくる子供と分け隔てなく育てられるか自信がない。おまけに後継者問題も絡んでくるだろう。いざ、その時になってエドアルドを手放すよりは、今のうちの方がエドアルドも新しい養子先を見つけやすいだろうと思ってね。こうして訪れた次第だ」

 父上の一方的な都合に院長先生は、顔をひくつかせて口をぱくぱくさせている。

「そちらには多大な迷惑をかけてしまうが、これで許してもらえないか」

 そう言って父上はテーブルの上に何枚かの金貨を置いた。

「それと、エドアルドのために買った服も一緒に持ってきた。こちらで好きなように使ってくれ」 

 テーブルの上に置かれた金貨を見た途端、院長先生の怒りは何処かへ消え失せたようだ。

 目がキラキラと輝き、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべている。

「そうですか。わかりました。それでは先日の養子縁組の書類は破棄させていただきますね」

「ああ、よろしく頼む」

「それではエドアルドはこちらで預かりましょう」

 僕はシェナから院長へと手渡された。

 こうして僕はまた、孤児院へと戻って来たのだった。





 

 
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

処理中です...