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幼少期
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『ゴカイニン?』
僕にはその言葉の意味がすぐには理解出来なかった。
それは父上と母上にとっても同じだったようだ。
「ご懐妊? 誰が?」
「え?」
そんな父上と母上に医者は苦笑いを浮かべた。
「マーガレット様に決まっているじゃありませんか。おめでとうございます。とは言ってもまだ妊娠初期ですから、ご無理はされませんように、しばらくは馬車での移動はなされない方がよろしいですよ」
それから医者はつらつらと妊娠初期の注意点を挙げると「お大事に」と言って帰っていった。
父上と母上は医者がいなくなってようやく、母上の妊娠を実感したようだ。
「私のこのお腹の中に赤ちゃんが?」
母上は服の上からお腹をそっと触っている。
そばに居合わせたメイドに
「奥様、おめでとうございます」
と、声をかけられ、母上ははにかんだような笑みを浮かべる。
「まさか、私が妊娠できるなんて…」
「この十年、どんなに手を尽くしても妊娠なんてしなかったのに…」
などと、二人はこれまでの苦労をしみじみと語り合っている。
僕もお祝いを言おうと思い「アー、アー(おめでとうございます)」と声をあげた。
僕の声が聞こえた途端、父上と母上はハッとしたようにベビーベッドにいる僕を見つめた。
まるで、今の今まで僕の存在など忘れていたかのような眼差しに僕は一抹の不安を覚える。
父上と母上はチラリとアイコンタクトを交わすと、軽くうなずき合った。
「マーガレット、立てるかい? ここだとゆっくり休めないだろうから寝室の方に移動しようか」
父上は母上をソファから立たせると、その身体を支えるようにエスコートする。
「シェナ、エドアルドを頼んだよ」
父上はメイドに僕の世話を頼むと、まるでこの場から逃げるように母上を連れて部屋から出て行った。
僕はその後ろ姿を目で追いながら、(もしかしたら…)と考えていた。
父上と母上に自分達の子供が生まれるとなると、養子である僕はお払い箱なんじゃないかと…。
大体、養子と実子を分け隔てなく育てるなんて、なかなか出来る事ではないだろう。
どうしても感情的になってしまう部分はあるはずだ。
それに僕は自分が養子だと分かっている分、父上と母上の態度に対して「僕が養子だから…」と考えてしまう部分が出てくるかもしれない。
僕が普通の赤ん坊ならば、そんな事を考えずに済むんだろうけれど、いかんせん、こうして記憶がある以上、勘繰ってしまうかもしれない。
そんな僕の不安はすぐに的中した。
翌日、僕はシェナに抱っこされると父上と共に馬車に乗せられた。
母上は馬車に乗り込む僕の頭を軽く撫でながら、少し目を潤ませていた。
「エドアルド、ごめんなさいね。でもあなたならきっと、すぐに新しい養子先が見つかるわ」
そう言われても僕には返す言葉もない。
「気にしなくていいよ」という意味も含めてニコッと笑いかけたけれど、母上はポロリと涙をこぼした。
僕達を乗せた馬車はガラガラと音を立てて走り出す。
シェナに抱っこされた僕の向かい側に座る父上は、極力僕を見ないようにずっと窓の外を眺めている。
馬車の揺れにコクリコクリとうたた寝をしていた僕は、馬車が止まると同時に目を覚ました。
馬車が着いた先はやはり元いた孤児院だった。
馬車から降りた僕達を院長先生が困惑の表情で出迎えた。
「これはこれは、ピーター様。一体どうなさいましたかな?」
院長室で向き合うと、院長先生は父上に来訪の理由を尋ねる。
「突然申し訳ない」
そう切り出した父上は院長先生に軽く頭を下げた。
「実は妻の妊娠が発覚したんだ。このままエドアルドを育てようかとも思ったが、これから生まれてくる子供と分け隔てなく育てられるか自信がない。おまけに後継者問題も絡んでくるだろう。いざ、その時になってエドアルドを手放すよりは、今のうちの方がエドアルドも新しい養子先を見つけやすいだろうと思ってね。こうして訪れた次第だ」
父上の一方的な都合に院長先生は、顔をひくつかせて口をぱくぱくさせている。
「そちらには多大な迷惑をかけてしまうが、これで許してもらえないか」
そう言って父上はテーブルの上に何枚かの金貨を置いた。
「それと、エドアルドのために買った服も一緒に持ってきた。こちらで好きなように使ってくれ」
テーブルの上に置かれた金貨を見た途端、院長先生の怒りは何処かへ消え失せたようだ。
目がキラキラと輝き、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべている。
「そうですか。わかりました。それでは先日の養子縁組の書類は破棄させていただきますね」
「ああ、よろしく頼む」
「それではエドアルドはこちらで預かりましょう」
僕はシェナから院長へと手渡された。
こうして僕はまた、孤児院へと戻って来たのだった。
僕にはその言葉の意味がすぐには理解出来なかった。
それは父上と母上にとっても同じだったようだ。
「ご懐妊? 誰が?」
「え?」
そんな父上と母上に医者は苦笑いを浮かべた。
「マーガレット様に決まっているじゃありませんか。おめでとうございます。とは言ってもまだ妊娠初期ですから、ご無理はされませんように、しばらくは馬車での移動はなされない方がよろしいですよ」
それから医者はつらつらと妊娠初期の注意点を挙げると「お大事に」と言って帰っていった。
父上と母上は医者がいなくなってようやく、母上の妊娠を実感したようだ。
「私のこのお腹の中に赤ちゃんが?」
母上は服の上からお腹をそっと触っている。
そばに居合わせたメイドに
「奥様、おめでとうございます」
と、声をかけられ、母上ははにかんだような笑みを浮かべる。
「まさか、私が妊娠できるなんて…」
「この十年、どんなに手を尽くしても妊娠なんてしなかったのに…」
などと、二人はこれまでの苦労をしみじみと語り合っている。
僕もお祝いを言おうと思い「アー、アー(おめでとうございます)」と声をあげた。
僕の声が聞こえた途端、父上と母上はハッとしたようにベビーベッドにいる僕を見つめた。
まるで、今の今まで僕の存在など忘れていたかのような眼差しに僕は一抹の不安を覚える。
父上と母上はチラリとアイコンタクトを交わすと、軽くうなずき合った。
「マーガレット、立てるかい? ここだとゆっくり休めないだろうから寝室の方に移動しようか」
父上は母上をソファから立たせると、その身体を支えるようにエスコートする。
「シェナ、エドアルドを頼んだよ」
父上はメイドに僕の世話を頼むと、まるでこの場から逃げるように母上を連れて部屋から出て行った。
僕はその後ろ姿を目で追いながら、(もしかしたら…)と考えていた。
父上と母上に自分達の子供が生まれるとなると、養子である僕はお払い箱なんじゃないかと…。
大体、養子と実子を分け隔てなく育てるなんて、なかなか出来る事ではないだろう。
どうしても感情的になってしまう部分はあるはずだ。
それに僕は自分が養子だと分かっている分、父上と母上の態度に対して「僕が養子だから…」と考えてしまう部分が出てくるかもしれない。
僕が普通の赤ん坊ならば、そんな事を考えずに済むんだろうけれど、いかんせん、こうして記憶がある以上、勘繰ってしまうかもしれない。
そんな僕の不安はすぐに的中した。
翌日、僕はシェナに抱っこされると父上と共に馬車に乗せられた。
母上は馬車に乗り込む僕の頭を軽く撫でながら、少し目を潤ませていた。
「エドアルド、ごめんなさいね。でもあなたならきっと、すぐに新しい養子先が見つかるわ」
そう言われても僕には返す言葉もない。
「気にしなくていいよ」という意味も含めてニコッと笑いかけたけれど、母上はポロリと涙をこぼした。
僕達を乗せた馬車はガラガラと音を立てて走り出す。
シェナに抱っこされた僕の向かい側に座る父上は、極力僕を見ないようにずっと窓の外を眺めている。
馬車の揺れにコクリコクリとうたた寝をしていた僕は、馬車が止まると同時に目を覚ました。
馬車が着いた先はやはり元いた孤児院だった。
馬車から降りた僕達を院長先生が困惑の表情で出迎えた。
「これはこれは、ピーター様。一体どうなさいましたかな?」
院長室で向き合うと、院長先生は父上に来訪の理由を尋ねる。
「突然申し訳ない」
そう切り出した父上は院長先生に軽く頭を下げた。
「実は妻の妊娠が発覚したんだ。このままエドアルドを育てようかとも思ったが、これから生まれてくる子供と分け隔てなく育てられるか自信がない。おまけに後継者問題も絡んでくるだろう。いざ、その時になってエドアルドを手放すよりは、今のうちの方がエドアルドも新しい養子先を見つけやすいだろうと思ってね。こうして訪れた次第だ」
父上の一方的な都合に院長先生は、顔をひくつかせて口をぱくぱくさせている。
「そちらには多大な迷惑をかけてしまうが、これで許してもらえないか」
そう言って父上はテーブルの上に何枚かの金貨を置いた。
「それと、エドアルドのために買った服も一緒に持ってきた。こちらで好きなように使ってくれ」
テーブルの上に置かれた金貨を見た途端、院長先生の怒りは何処かへ消え失せたようだ。
目がキラキラと輝き、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべている。
「そうですか。わかりました。それでは先日の養子縁組の書類は破棄させていただきますね」
「ああ、よろしく頼む」
「それではエドアルドはこちらで預かりましょう」
僕はシェナから院長へと手渡された。
こうして僕はまた、孤児院へと戻って来たのだった。
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