御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅

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幼少期 

42 交渉

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 院長はもったいぶったような口調で目の前のスタンレイ子爵に告げる。

「お調べするのは構いませんが、ご存知のように孤児院は皆様の寄付やボランティアによって成り立っているような状態でしてね。万が一、あなたのお孫さんがこちらの孤児院にいた場合、お世話した間の費用はお支払いいただけるんでしょうか?」

 申し訳なさそうな言い方をしているが、搾り取れるだけ搾り取ってやろうという魂胆が透けて見える。

 スタンレイ子爵は心の中で舌打ちしながらも、必死で孫を探している祖父の役割を演じる。

「勿論ですとも。大切な孫がお世話になっていたのなら、それ相応のお支払いはさせていただきます」

 スタンレイ子爵の発言に院長は「しめしめ」とほくそ笑む。

「わかりました。それではちょっと調べてみましょう。七年前の六月でしたね」

 院長はソファーから立ち上がると、院長席の後ろの壁に造り付けられている本棚に歩み寄った。

 そこにはこの孤児院に入ってきた子供達の情報が記載されている。

 七年前の六月に入ってきた赤ん坊と言えばエドアルドしかいなかったが、院長は敢えて他にもいるような素振りをみせる。

 エドアルドは着ていた産着が上等なものだったという他にも、二度も養子先から戻されるという経緯を持った赤ん坊だった。

 それ故、院長の記憶にまざまざと残っている。

 三度目の養子先でようやく落ち着いたようだが、それは違約金を当てにしていた院長には残念な結果だった。

(エドアルドでもうひと稼ぎ出来るかと思っていたが…。だが、この男からたんまり謝礼を貰えそうだ)

 院長はエドアルドの情報が記載されているファイルを取り出してソファーに座り直した。

「この年に入ってきた赤ん坊ですね。…ええと、六月と言うと…」 

 院長はエドアルドの名前が書かれた書類をスタンレイ子爵に見せる。

「六月にこの孤児院の門の前に置かれていた赤ん坊がいました。籠の中に入れられた状態で『エドアルド』と書かれた紙が一緒に入っていました」

 院長から『エドアルド』という名前が発せられた途端、スタンレイ子爵は思わず叫びそうになったが、すんでの所で唇を噛み締めそれに耐える。

(エドアルドだと!? エドワード王子と名前が似ている。やはり、この子が捨てられた双子の片割れなのか?)

 あくまでも平静を装っているスタンレイ子爵だったが、院長はスタンレイ子爵の目が大きく見開かれたのを見逃さなかった。

(どうやらエドアルドがこの貴族の孫のようだな。…さて、いくら支払ってもらえるかな?)

 院長は平静を装うスタンレイ子爵に申し訳なさそうな表情で告げる。

「残念ながらこの子は既に他の家に養子に貰われて行ってしまいました。ですので、これ以上の情報はお話できません」

 ファイルを閉じて首を振る院長にスタンレイ子爵は必死に縋りつこうとする。

「待ってください! ぜひともその養子先を教えてください! こちらの孤児院には一切迷惑をかけませんから!」

「いや、それは…」

 渋る院長にスタンレイ子爵はテーブルに額を擦り付けんばかりに下げる。

「お願いします! お金なら幾らでもお支払いしますから!」 

 それを聞いて院長は「しめた」とばかりにニタリと笑うが、頭を下げているスタンレイ子爵には見えていない。

「まあ、私も鬼ではありませんからね。お孫さんを探すあなたの気持ちもわからないではありません。こちらに迷惑をかけないとおっしゃるのであれば、金貨十枚で手を打ちましょう」

 院長の言葉にスタンレイ子爵は頭を下げたまま「チッ」と心の中で舌打ちをする。

『エドアルド』の名前に思わず反応してしまったが、これほど高額になるとは予想外だった。

(だが、名前からして王子である事に間違いはないだろう。後は養子先が何処かが問題だな)

 平民の家に養子に行ったのなら多少の金銭でエドアルドを引き取る事が出来るかもしれない。

 そう考えたスタンレイ子爵は感激したような顔を院長に向ける。

「それで私の孫に会えるならお支払いいたします。どうか養子先を教えてください」

 院長は緩みそうになる口を引き締めてスタンレイ子爵に告げる。

「この子の養子先はエルガー男爵家です」




 
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