20 / 52
20 出生
しおりを挟む
謁見室から移動して別の部屋へと案内される。
私の手を取って喜々として歩く国王陛下に連れられて部屋に入ると、正面に飾られている肖像画が真っ先に目に飛び込んできた。
えっ、私?
一瞬、そう思ったがどこか印象が違うので別人だと察した。
もしかしてこの肖像画の女性が私の母親だというクリスティン王妃だろうか?
髪の毛は私と同じ紫がかったシルバーブロンドだが、瞳の色がアンドリュー王子と同じ金色だ。
私の茶色い瞳は国王陛下譲りなのだろう。
「アリス。これが母親のクリスティンだ。…クリスティン、ようやくアリスが戻ってきてくれたよ」
しんみりした国王陛下の声に場の空気が少し重くなる。
主賓席に国王陛下が座り、その右側に私とアンドリュー王子、左側にエイブラムさんとガブリエラさん、ジェンクス侯爵が座った。
侍従と侍女によってお茶が入れられたあと、彼らは退室を促された。
私達六人だけになると、国王陛下はお茶を一口飲んでおもむろに話し始める。
「何処から話せばいいだろうか? クリスティンは私と婚姻する前から市井に下りては庶民の生活に寄り添っていた。勿論、王妃という身分は隠してね。とりわけ、妊婦の事には力を入れていたよ」
アンドリュー王子が生まれた後、なかなか次の子に恵まれなかったため、余計に妊婦の支援に力を注いでいたそうだ。
「アンドリューが九歳になる頃にようやくアリスがお腹にいる事がわかってね。私もアンドリューも、そしてジェンクス侯爵夫人とエイブラムも大変喜んだものだ」
ガブリエラさんとクリスティン王妃は幼馴染で仲が良く、アンドリュー王子とエイブラムさんも同い年のため交流が深かったそうだ。
「アンドリューの時と同じく市井にある保養所で出産する事になった。今思えば、どうしてそれを許可してしまったのか…」
勿論、医者には彼女が王妃である事は告げられていた。
護衛も付けられていたが、妊婦の為の保養所だったので、男性の護衛を大っぴらに付けるわけにはいかなかったそうだ。
クリスティン王妃の側に侍女と女性の護衛騎士、保養所の出入り口に男性の護衛騎士を配置していた。
「クリスティンが産気づいた時と同時に別の妊婦もお産が始まった。真夜中だったため、人手も少なく医者は一人で二人のお産を見なければならなかった」
看護師の女性もいたが、流石に手が回るわけがない。
そこで保養所の出入り口にいた護衛騎士が、他の医者や看護師を呼びに行くために持ち場を離れた。
「最初にクリスティンがアリスを産んだが、もう一人の女性は栄誉状態が悪かったせいかなかなか出産までに至らなかった」
後産のため、医者がクリスティン王妃に付いていたが、クリスティン王妃がもう一人の女性の所に行っていいと進言したそうだ。
「もう一人の女性が出産している最中にクリスティンの後産が始まったが、誰も対処出来る者がいなかった。ようやく医者が駆け付けた時にはクリスティンは大量出血によって瀕死の状態だった」
胎盤が剥がれる際に出血するそうだが、場合によっては輸血をしなければいけないくらいの出血もあると聞く。
だけど、この世界に輸血なんて処置があるんだろうか?
「…輸血はしなかったんてすか?」
恐る恐る聞くと国王陛下や皆は怪訝な顔をする。
「『ゆけつ』? 何だ、それは。医者がヒールをかけたがそれでもクリスティンの出血は止まらなかった。私とアンドリューとジェンクス侯爵夫人が駆け付けた時には既にクリスティンの息はなかった…」
保養所に着いた国王陛下は生まれたばかりの私を抱いて、うなじに紋章があるのを確認していた。
王家の血を引く者は皆、うなじに紋章が刻まれているそうだ。
「クリスティンを王宮に連れて帰る際にアリスを侍女が抱き上げたが、その際に『王女様じゃありません!』と叫んだ。確かに髪の色が違ったし、うなじに紋章もなかった。慌てて保養所の中を探したが、他に赤ん坊はおらず、もう一人の女性も姿を消していた」
それじゃ、私ともう一人の赤ん坊をすり替えたのはその女性って事?
一体何の為にその女性は自分が産んだ子供と私を入れ替えたりしたの?
私の疑問がわかったのかガブリエラさんが重い口を開く。
「わたくしはクリスを見舞いに行った際にその女性を見かけた事があります。あまり食べる物がなかったのか、ガリガリに痩せていたのを覚えています。おそらくクリスが自分より裕福だと思い、自分の子供とアリス様を入れ替えたのでしょう」
ガブリエラさんの言葉に多少は納得が行ったけれど、それでも釈然としない。
お金が無くて育てられないのなら、誰かに頼る事は出来なかったのかしら?
それよりも、私とすり替えられた赤ちゃんはそれからどうなったの?
「あの… その赤ちゃんは、どうなったのですか?」
「孤児院に預けても良かったが、せめてアリスが見つかるまでは育ててあげようという事になった。赤ん坊に罪はないしな。そもそも栄誉状態が悪く健康状態も悪かったんだ」
アリシアと名付けて育てていたが、結局一歳になる前に亡くなってしまった。
「アリシアは可愛い子だったよ。本当の妹ではなかったけれど、アリシアのお陰で母上が亡くなった寂しさを紛らわす事が出来た。それなのに…」
アンドリュー王子が涙混じりの声で呟く。
私とすり替えられたから一歳まで生きられたのかな?
だとしたらアリシアの母親がやった事は無駄じゃなかったのかもしれない。
だけど、すり替えられた私はどうして異世界転移しちゃったんだろう?
私の手を取って喜々として歩く国王陛下に連れられて部屋に入ると、正面に飾られている肖像画が真っ先に目に飛び込んできた。
えっ、私?
一瞬、そう思ったがどこか印象が違うので別人だと察した。
もしかしてこの肖像画の女性が私の母親だというクリスティン王妃だろうか?
髪の毛は私と同じ紫がかったシルバーブロンドだが、瞳の色がアンドリュー王子と同じ金色だ。
私の茶色い瞳は国王陛下譲りなのだろう。
「アリス。これが母親のクリスティンだ。…クリスティン、ようやくアリスが戻ってきてくれたよ」
しんみりした国王陛下の声に場の空気が少し重くなる。
主賓席に国王陛下が座り、その右側に私とアンドリュー王子、左側にエイブラムさんとガブリエラさん、ジェンクス侯爵が座った。
侍従と侍女によってお茶が入れられたあと、彼らは退室を促された。
私達六人だけになると、国王陛下はお茶を一口飲んでおもむろに話し始める。
「何処から話せばいいだろうか? クリスティンは私と婚姻する前から市井に下りては庶民の生活に寄り添っていた。勿論、王妃という身分は隠してね。とりわけ、妊婦の事には力を入れていたよ」
アンドリュー王子が生まれた後、なかなか次の子に恵まれなかったため、余計に妊婦の支援に力を注いでいたそうだ。
「アンドリューが九歳になる頃にようやくアリスがお腹にいる事がわかってね。私もアンドリューも、そしてジェンクス侯爵夫人とエイブラムも大変喜んだものだ」
ガブリエラさんとクリスティン王妃は幼馴染で仲が良く、アンドリュー王子とエイブラムさんも同い年のため交流が深かったそうだ。
「アンドリューの時と同じく市井にある保養所で出産する事になった。今思えば、どうしてそれを許可してしまったのか…」
勿論、医者には彼女が王妃である事は告げられていた。
護衛も付けられていたが、妊婦の為の保養所だったので、男性の護衛を大っぴらに付けるわけにはいかなかったそうだ。
クリスティン王妃の側に侍女と女性の護衛騎士、保養所の出入り口に男性の護衛騎士を配置していた。
「クリスティンが産気づいた時と同時に別の妊婦もお産が始まった。真夜中だったため、人手も少なく医者は一人で二人のお産を見なければならなかった」
看護師の女性もいたが、流石に手が回るわけがない。
そこで保養所の出入り口にいた護衛騎士が、他の医者や看護師を呼びに行くために持ち場を離れた。
「最初にクリスティンがアリスを産んだが、もう一人の女性は栄誉状態が悪かったせいかなかなか出産までに至らなかった」
後産のため、医者がクリスティン王妃に付いていたが、クリスティン王妃がもう一人の女性の所に行っていいと進言したそうだ。
「もう一人の女性が出産している最中にクリスティンの後産が始まったが、誰も対処出来る者がいなかった。ようやく医者が駆け付けた時にはクリスティンは大量出血によって瀕死の状態だった」
胎盤が剥がれる際に出血するそうだが、場合によっては輸血をしなければいけないくらいの出血もあると聞く。
だけど、この世界に輸血なんて処置があるんだろうか?
「…輸血はしなかったんてすか?」
恐る恐る聞くと国王陛下や皆は怪訝な顔をする。
「『ゆけつ』? 何だ、それは。医者がヒールをかけたがそれでもクリスティンの出血は止まらなかった。私とアンドリューとジェンクス侯爵夫人が駆け付けた時には既にクリスティンの息はなかった…」
保養所に着いた国王陛下は生まれたばかりの私を抱いて、うなじに紋章があるのを確認していた。
王家の血を引く者は皆、うなじに紋章が刻まれているそうだ。
「クリスティンを王宮に連れて帰る際にアリスを侍女が抱き上げたが、その際に『王女様じゃありません!』と叫んだ。確かに髪の色が違ったし、うなじに紋章もなかった。慌てて保養所の中を探したが、他に赤ん坊はおらず、もう一人の女性も姿を消していた」
それじゃ、私ともう一人の赤ん坊をすり替えたのはその女性って事?
一体何の為にその女性は自分が産んだ子供と私を入れ替えたりしたの?
私の疑問がわかったのかガブリエラさんが重い口を開く。
「わたくしはクリスを見舞いに行った際にその女性を見かけた事があります。あまり食べる物がなかったのか、ガリガリに痩せていたのを覚えています。おそらくクリスが自分より裕福だと思い、自分の子供とアリス様を入れ替えたのでしょう」
ガブリエラさんの言葉に多少は納得が行ったけれど、それでも釈然としない。
お金が無くて育てられないのなら、誰かに頼る事は出来なかったのかしら?
それよりも、私とすり替えられた赤ちゃんはそれからどうなったの?
「あの… その赤ちゃんは、どうなったのですか?」
「孤児院に預けても良かったが、せめてアリスが見つかるまでは育ててあげようという事になった。赤ん坊に罪はないしな。そもそも栄誉状態が悪く健康状態も悪かったんだ」
アリシアと名付けて育てていたが、結局一歳になる前に亡くなってしまった。
「アリシアは可愛い子だったよ。本当の妹ではなかったけれど、アリシアのお陰で母上が亡くなった寂しさを紛らわす事が出来た。それなのに…」
アンドリュー王子が涙混じりの声で呟く。
私とすり替えられたから一歳まで生きられたのかな?
だとしたらアリシアの母親がやった事は無駄じゃなかったのかもしれない。
だけど、すり替えられた私はどうして異世界転移しちゃったんだろう?
10
あなたにおすすめの小説
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない
千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。
失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。
ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。
公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。
※毎午前中に数話更新します。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる