45 / 52
45 街歩き
しおりを挟む
朝食後のお茶を飲む頃になって、私は意を決してお父様に告げた。
「お父様、今日は王都の街を歩いてみたいのですが許可していただけますか?」
昨日のジェンクス侯爵のお屋敷に向かう道中、馬車の中から街並みを見ている時に、この世界に来てからまだ街中を歩いていない事に気付いたからだ。
ただ、私が街中を歩きたいと言ったら、あれだけ過保護なお父様とお兄様がどんな反応を見せるか、想像するだけでも恐ろしい。
だけど、そんな私の心配をよそにお父様から意外な返事が返ってきた。
「そう言えばまだアリスは街中を歩いた事はなかったな。目立たない様に平民の服を用意させよう。お付きの者はセアラでよかろう」
あまりにもあっけない答えに私はすぐには返事が出来なかった。
たとえ許可が下りたとしても、護衛として一個小隊を連れて行けと言われるかもと覚悟をしていたのよね。
「…あ、ありがとうございます」
お兄様がそれに異議を唱えて来るかと思い、チラリとお兄様の様子を窺うけれど、何も言わずに済ました顔でお茶を飲んてるわ。
珍しい事もあるものね、と思ったけれどきっと私には言わないだけで、こっそりと護衛が付いて来るんでしょうね。
お父様の気が変わらないうちにと、私は自室に戻るとセアラに告げた。
「お父様から王都の街を歩いていいと許可を頂いたわ。セアラが一緒ならば良いって言われたの」
セアラはいつから準備をしていたのか、私に平民が着るような服を持ってきてくれた。
「それではこちらにお着替えくださいませ」
他の侍女にも手伝って貰って服を着替えると、今度は頭にカツラを被せられた。
「流石にこの髪の色では目立ってしまいますからね」
確かに紫がかったシルバーブロンドでは街中では悪目立ちしてしまうものね。
茶色の髪のカツラを被ればそれだけでも今までとは印象が違う。
鏡の中の自分の姿を見ていると、前の世界での黒髪の頃を思い出して少し胸が痛む。
私を育ててくれた両親は、私がいなくなって悲しんでいるだろうか?
何も言わずに姿を消して恩知らずな娘だと罵っているだろうか?
赤の他人がいなくなったと清々しているだろうか?
考えても仕方がない、と私は頭を振って両親の事を頭の中から追いやった。
準備を終えるとお忍び用の目立たない馬車に乗り、王宮を出発した。
貴族の屋敷が立ち並ぶ通りを抜けると様々な店が並ぶ商業区域に町並みが変わる。
馬車留まりで馬車を下りてセアラと街を歩く。
この辺りは貴族との取引が多い店が立ち並んでいる。
「もうちょっと庶民的なお店がある通りはないの?」
この服装で入るにはちょっと敷居が高そうな店が並んでいる。
「もう少し歩けばそういうお店がある通りに着きます」
セアラの口調が微妙に砕けきれてない。
見た目は親子に見えなくもないのだから、もう少し砕けた物言いをしなければ周りの人達に変に思われるわよ。
「セアラ、そんなかしこまった言い方をしなくても大丈夫よ」
「わかりました、アリス様」
…駄目だ、こりゃ…
気を取り直して街を歩いて行くと、店の格も少し落ちてきて、所々に露店や屋台があったりする。
そして美味しそうな匂いが先程から私の鼻を刺激しているのだ。
「ねぇ、セアラ。あれを買って食べましょう」
「アリス様、いけません。あんな誰が作ったかわからないような物を…」
私はセアラの小言が終わるより先に屋台に向かい、店主に話しかけた。
「おじさん、これ何?」
「これはオーク肉の串焼きだよ。一本どうだい?」
私一人で食べるのは気が引けるのでセアラの分と合わせて二本、買う事にした。
「ほらよ、毎度ありー」
私は受け取った串焼きを一本セアラに差し出した。
「ア、アリス様…」
セアラは絶句していたけれど、私が美味しそうにオーク肉を頬張るのを見て、恐る恐るかじった。
「…美味しい…」
タレが効いてて美味しいわー。
食べ終わった串を露店の横にあるゴミ箱に捨てて、また通りを歩いて行くと、向こうから黒いローブのフードを目深に被った人物が近付いて来た。
脇に避けて歩いて行くとすれ違いざま
「…なんだ、こんな所にいたのか」
と、声をかけられた。
思わず立ち止まった私に向かってその人物が手のひらをかざす。
途端に私の視界が真っ白な光に覆われた。
「お父様、今日は王都の街を歩いてみたいのですが許可していただけますか?」
昨日のジェンクス侯爵のお屋敷に向かう道中、馬車の中から街並みを見ている時に、この世界に来てからまだ街中を歩いていない事に気付いたからだ。
ただ、私が街中を歩きたいと言ったら、あれだけ過保護なお父様とお兄様がどんな反応を見せるか、想像するだけでも恐ろしい。
だけど、そんな私の心配をよそにお父様から意外な返事が返ってきた。
「そう言えばまだアリスは街中を歩いた事はなかったな。目立たない様に平民の服を用意させよう。お付きの者はセアラでよかろう」
あまりにもあっけない答えに私はすぐには返事が出来なかった。
たとえ許可が下りたとしても、護衛として一個小隊を連れて行けと言われるかもと覚悟をしていたのよね。
「…あ、ありがとうございます」
お兄様がそれに異議を唱えて来るかと思い、チラリとお兄様の様子を窺うけれど、何も言わずに済ました顔でお茶を飲んてるわ。
珍しい事もあるものね、と思ったけれどきっと私には言わないだけで、こっそりと護衛が付いて来るんでしょうね。
お父様の気が変わらないうちにと、私は自室に戻るとセアラに告げた。
「お父様から王都の街を歩いていいと許可を頂いたわ。セアラが一緒ならば良いって言われたの」
セアラはいつから準備をしていたのか、私に平民が着るような服を持ってきてくれた。
「それではこちらにお着替えくださいませ」
他の侍女にも手伝って貰って服を着替えると、今度は頭にカツラを被せられた。
「流石にこの髪の色では目立ってしまいますからね」
確かに紫がかったシルバーブロンドでは街中では悪目立ちしてしまうものね。
茶色の髪のカツラを被ればそれだけでも今までとは印象が違う。
鏡の中の自分の姿を見ていると、前の世界での黒髪の頃を思い出して少し胸が痛む。
私を育ててくれた両親は、私がいなくなって悲しんでいるだろうか?
何も言わずに姿を消して恩知らずな娘だと罵っているだろうか?
赤の他人がいなくなったと清々しているだろうか?
考えても仕方がない、と私は頭を振って両親の事を頭の中から追いやった。
準備を終えるとお忍び用の目立たない馬車に乗り、王宮を出発した。
貴族の屋敷が立ち並ぶ通りを抜けると様々な店が並ぶ商業区域に町並みが変わる。
馬車留まりで馬車を下りてセアラと街を歩く。
この辺りは貴族との取引が多い店が立ち並んでいる。
「もうちょっと庶民的なお店がある通りはないの?」
この服装で入るにはちょっと敷居が高そうな店が並んでいる。
「もう少し歩けばそういうお店がある通りに着きます」
セアラの口調が微妙に砕けきれてない。
見た目は親子に見えなくもないのだから、もう少し砕けた物言いをしなければ周りの人達に変に思われるわよ。
「セアラ、そんなかしこまった言い方をしなくても大丈夫よ」
「わかりました、アリス様」
…駄目だ、こりゃ…
気を取り直して街を歩いて行くと、店の格も少し落ちてきて、所々に露店や屋台があったりする。
そして美味しそうな匂いが先程から私の鼻を刺激しているのだ。
「ねぇ、セアラ。あれを買って食べましょう」
「アリス様、いけません。あんな誰が作ったかわからないような物を…」
私はセアラの小言が終わるより先に屋台に向かい、店主に話しかけた。
「おじさん、これ何?」
「これはオーク肉の串焼きだよ。一本どうだい?」
私一人で食べるのは気が引けるのでセアラの分と合わせて二本、買う事にした。
「ほらよ、毎度ありー」
私は受け取った串焼きを一本セアラに差し出した。
「ア、アリス様…」
セアラは絶句していたけれど、私が美味しそうにオーク肉を頬張るのを見て、恐る恐るかじった。
「…美味しい…」
タレが効いてて美味しいわー。
食べ終わった串を露店の横にあるゴミ箱に捨てて、また通りを歩いて行くと、向こうから黒いローブのフードを目深に被った人物が近付いて来た。
脇に避けて歩いて行くとすれ違いざま
「…なんだ、こんな所にいたのか」
と、声をかけられた。
思わず立ち止まった私に向かってその人物が手のひらをかざす。
途端に私の視界が真っ白な光に覆われた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない
千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。
失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。
ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。
公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。
※毎午前中に数話更新します。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
過労薬師です。冷酷無慈悲と噂の騎士様に心配されるようになりました。
黒猫とと
恋愛
王都西区で薬師として働くソフィアは毎日大忙し。かかりつけ薬師として常備薬の準備や急患の対応をたった1人でこなしている。
明るく振舞っているが、完全なるブラック企業と化している。
そんな過労薬師の元には冷徹無慈悲と噂の騎士様が差し入れを持って訪ねてくる。
………何でこんな事になったっけ?
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる