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第5章
第122話 敷斎側
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「敵の罠により強化兵の被害は甚大」
玉座の間にて、手元の資料に目を向けながら、天祐は父である重蔵へと報告する。
先日、砦に立てこもった敵将の1人を始末するために強化薬を使用した兵を送り込んだ。
順調に攻略できると思っていたが、それは敵の罠だった。
逃走経路を確保していた敵は、城門が破壊されるとすぐに砦を放棄し逃走を開始した。
その追跡を計ろうとした次の瞬間、砦内へなだれ込んだ大量の強化兵が砦ごと吹き飛ばされた。
「代わりを集めるのに少し時間が必要だね」
オリアーナの作り出した薬と敷島の力があれば、強化兵を補充することは簡単だ。
何なら、そこら辺にいる一般人を捕まえて来て、無理やり強化兵に変えてしまえばいいのだから。
しかし、相手はまがりなりにも訓練を重ねた兵のため、そこいらの一般人を利用した強化兵では少々心許ない。
ある程度の実力を持った人間の確保となると、敷島の者たちでも多少の時間を必要とすることになる。
そのことを、天祐は重蔵へと伝えた。
「チッ!」
報告を受けた重蔵は舌打ちをする。
アデマス王国国王のジョセフを殺して国を奪取した後、王都近郊の領地は予定通り簡単に手に入れることができた。
残った領地の貴族は、数はいてもたいした実力がない烏合の衆だと考えていたのだが、思った以上の抵抗に重蔵はやきもきしていた。
そこに今回の強化兵の大量死。
イラ立つのも仕方がないことだろう。
「それにしても、敵も随分思い切ったことするわね……」
「こっちが嫌がる戦法を取ってきているね……」
側で聞いていたオリアーナ。
相手のおこなった大胆な作戦に、驚きの思いも込めつつ呟く。
それに続くように、天祐も感想を呟く。
敵からしたら、相手にしているのは元々自分たちと同じくアデマス王国を守る兵だった。
それが捕えられ、奴隷化され、好き勝手に利用されている状況だ。
その境遇を考えたら、敵は心理的に思い切った攻撃を仕掛けてくる可能性は高くなかった。
それがこんなことになったのだから、彼女らが予想外と驚くのも無理はない。
「……こっちの諜報員との連絡は?」
「取れていない。始末されている可能性が高いね……」
重蔵の問いに、天祐は困ったような表情と共に返答する。
敵側には敷島の者を潜入させている。
彼らとの情報交換により、敵を内部から崩すことも考えていたのだが、その情報が入って来ない。
敵内部に入った潜入班と連絡を取ろうにも、全く返事が来ない状況になっているためだ。
数人追加しても同じような状況になっている所を見ると、潜入者とバレて始末されているのだろう。
「そんな事をできる人間に心当たりがあるわね……」
「……あの魔無しか」
アリアーナの呟きに、重蔵が反応する。
敷島の人間を見つけて始末するなんて、アデマス王国の貴族が簡単にできることではない。
しかし、元敷島の人間であれば、仕草や行動から変装を見破ることも不可能ではない。
オリアーナからの情報により、限が生きていることは分かっている。
しかも、復讐を果たすために自分たちの命を狙っていることも。
「始末してくれると思って研究所に送ったんだがな……」
妾との間に生まれ、すぐに魔無し判定された息子の限。
自分の血を引きながら何の見返りも期待も出来ない息子に、重蔵は存在を否定するような扱いをした。
妾である蒼に気を使って仕方なく養育費は支払っていたが、その蒼が亡くなったとなっては存在価値もない。
自分で始末するという手もあったが、父としてのほんの僅かな良心からそれだけは避けたかった。
それならばと、始末してくれることを期待して研究所へ送ることにしたのだが、結果は期待外れ。
面倒な敵として戻ってきたことに、重蔵はオリアーナに恨めし気に話しかけた。
「私たちも死んだと思ったのよ。虫の息だったあの状態から生還するなんて思ってもいなかったわ」
験体番号42番は、様々な人体実験によって肉体は醜く変質し、後は死を待つだけの虫の息の状態だったため、地下の廃棄場へと棄て去った。
それなのに生きていたなんて、だれが想像できただろうか。
『……ん? ちょっと待って……』
重蔵の恨み言に反論したオリアーナだが、すぐに自分の発言に違和感を感じた。
その違和感の正体を導き出すため、オリアーナは思案するように黙り込んだ。
「……どうした?」
「……いいえ。なんでもないわ……」
急に黙ったオリアーナの態度に気付き、重蔵が問いかける。
それに対し、オリアーナは首を横に振って返答した。
『あの状態で生きていただけでもおかしい。しかし、姿まで人間の状態になっているのはどうして? 42号だけが持つ何か特殊な能力でもあるということ?』
何でもないと言っておきながら、オリアーナは思考を巡らせる。
験体番号42号こと、限があの状態からどうして今も生きているのか。
地下の廃棄場に棄てられたのに、食料はどうしていたのか。
あの醜かった姿から、どうやって人間の姿に戻ったのだろうか。
限の今の姿を考えると、様々な疑問が浮かんできた。
『……っ! もしかして……』
色々と考えているうちに、オリアーナはどんどん限に対しての興味が湧いてきた。
そして、新たな生物兵器製造のヒントが見えた気がした。
「私は強化薬の製造に戻るわね」
停滞気味の研究に見えた一筋の可能性。
やってみる価値はあると、オリアーナは思いついた案をすぐにでもまとめたいと考えた。
そのため、この玉座の間から退室することを申し出る。
「あぁ……」
「…………」
急な申し出に若干不自然にも思えるが、オリアーナの気まぐれはいつものこと。
それに、アデマス王国貴族との戦闘に関しては敷島の者たちを中心であり、オリアーナは強化薬を提供するだけの役割しかないため、これから話し合う作戦には興味がないのだろう。
そのため、オリアーナの言葉に重蔵は頷きを返し、天祐は無言で見送った。
「…………」
“ニッ!”
強化薬の製造は、半分本当だがもう半分は嘘だ。
限が地下施設で生き残った方法を思案することで、新しい生物兵器を生み出すことができる案が幾つか導き出せる。
その研究への楽しみがどんどん膨れ上がり、玉座の間から立ち去るオリアーナは2人に見えない位置で密かに笑みを浮かべていた。
玉座の間にて、手元の資料に目を向けながら、天祐は父である重蔵へと報告する。
先日、砦に立てこもった敵将の1人を始末するために強化薬を使用した兵を送り込んだ。
順調に攻略できると思っていたが、それは敵の罠だった。
逃走経路を確保していた敵は、城門が破壊されるとすぐに砦を放棄し逃走を開始した。
その追跡を計ろうとした次の瞬間、砦内へなだれ込んだ大量の強化兵が砦ごと吹き飛ばされた。
「代わりを集めるのに少し時間が必要だね」
オリアーナの作り出した薬と敷島の力があれば、強化兵を補充することは簡単だ。
何なら、そこら辺にいる一般人を捕まえて来て、無理やり強化兵に変えてしまえばいいのだから。
しかし、相手はまがりなりにも訓練を重ねた兵のため、そこいらの一般人を利用した強化兵では少々心許ない。
ある程度の実力を持った人間の確保となると、敷島の者たちでも多少の時間を必要とすることになる。
そのことを、天祐は重蔵へと伝えた。
「チッ!」
報告を受けた重蔵は舌打ちをする。
アデマス王国国王のジョセフを殺して国を奪取した後、王都近郊の領地は予定通り簡単に手に入れることができた。
残った領地の貴族は、数はいてもたいした実力がない烏合の衆だと考えていたのだが、思った以上の抵抗に重蔵はやきもきしていた。
そこに今回の強化兵の大量死。
イラ立つのも仕方がないことだろう。
「それにしても、敵も随分思い切ったことするわね……」
「こっちが嫌がる戦法を取ってきているね……」
側で聞いていたオリアーナ。
相手のおこなった大胆な作戦に、驚きの思いも込めつつ呟く。
それに続くように、天祐も感想を呟く。
敵からしたら、相手にしているのは元々自分たちと同じくアデマス王国を守る兵だった。
それが捕えられ、奴隷化され、好き勝手に利用されている状況だ。
その境遇を考えたら、敵は心理的に思い切った攻撃を仕掛けてくる可能性は高くなかった。
それがこんなことになったのだから、彼女らが予想外と驚くのも無理はない。
「……こっちの諜報員との連絡は?」
「取れていない。始末されている可能性が高いね……」
重蔵の問いに、天祐は困ったような表情と共に返答する。
敵側には敷島の者を潜入させている。
彼らとの情報交換により、敵を内部から崩すことも考えていたのだが、その情報が入って来ない。
敵内部に入った潜入班と連絡を取ろうにも、全く返事が来ない状況になっているためだ。
数人追加しても同じような状況になっている所を見ると、潜入者とバレて始末されているのだろう。
「そんな事をできる人間に心当たりがあるわね……」
「……あの魔無しか」
アリアーナの呟きに、重蔵が反応する。
敷島の人間を見つけて始末するなんて、アデマス王国の貴族が簡単にできることではない。
しかし、元敷島の人間であれば、仕草や行動から変装を見破ることも不可能ではない。
オリアーナからの情報により、限が生きていることは分かっている。
しかも、復讐を果たすために自分たちの命を狙っていることも。
「始末してくれると思って研究所に送ったんだがな……」
妾との間に生まれ、すぐに魔無し判定された息子の限。
自分の血を引きながら何の見返りも期待も出来ない息子に、重蔵は存在を否定するような扱いをした。
妾である蒼に気を使って仕方なく養育費は支払っていたが、その蒼が亡くなったとなっては存在価値もない。
自分で始末するという手もあったが、父としてのほんの僅かな良心からそれだけは避けたかった。
それならばと、始末してくれることを期待して研究所へ送ることにしたのだが、結果は期待外れ。
面倒な敵として戻ってきたことに、重蔵はオリアーナに恨めし気に話しかけた。
「私たちも死んだと思ったのよ。虫の息だったあの状態から生還するなんて思ってもいなかったわ」
験体番号42番は、様々な人体実験によって肉体は醜く変質し、後は死を待つだけの虫の息の状態だったため、地下の廃棄場へと棄て去った。
それなのに生きていたなんて、だれが想像できただろうか。
『……ん? ちょっと待って……』
重蔵の恨み言に反論したオリアーナだが、すぐに自分の発言に違和感を感じた。
その違和感の正体を導き出すため、オリアーナは思案するように黙り込んだ。
「……どうした?」
「……いいえ。なんでもないわ……」
急に黙ったオリアーナの態度に気付き、重蔵が問いかける。
それに対し、オリアーナは首を横に振って返答した。
『あの状態で生きていただけでもおかしい。しかし、姿まで人間の状態になっているのはどうして? 42号だけが持つ何か特殊な能力でもあるということ?』
何でもないと言っておきながら、オリアーナは思考を巡らせる。
験体番号42号こと、限があの状態からどうして今も生きているのか。
地下の廃棄場に棄てられたのに、食料はどうしていたのか。
あの醜かった姿から、どうやって人間の姿に戻ったのだろうか。
限の今の姿を考えると、様々な疑問が浮かんできた。
『……っ! もしかして……』
色々と考えているうちに、オリアーナはどんどん限に対しての興味が湧いてきた。
そして、新たな生物兵器製造のヒントが見えた気がした。
「私は強化薬の製造に戻るわね」
停滞気味の研究に見えた一筋の可能性。
やってみる価値はあると、オリアーナは思いついた案をすぐにでもまとめたいと考えた。
そのため、この玉座の間から退室することを申し出る。
「あぁ……」
「…………」
急な申し出に若干不自然にも思えるが、オリアーナの気まぐれはいつものこと。
それに、アデマス王国貴族との戦闘に関しては敷島の者たちを中心であり、オリアーナは強化薬を提供するだけの役割しかないため、これから話し合う作戦には興味がないのだろう。
そのため、オリアーナの言葉に重蔵は頷きを返し、天祐は無言で見送った。
「…………」
“ニッ!”
強化薬の製造は、半分本当だがもう半分は嘘だ。
限が地下施設で生き残った方法を思案することで、新しい生物兵器を生み出すことができる案が幾つか導き出せる。
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