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第3章
第49話
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「アレシア!」
「はい?」
ある日のこと、あることを聞いたケイがアレシアに呼び掛けた。
トマトを収穫していたアレシアは、手を止めて振り向いた。
「村でパン屋をやっていたと聞いたのだが?」
「はい」
アレシアの家は家族でパン屋をやっていた。
ルイスの父も常連だったと聞いている。
ケイの問いかけにアレシアは頷く。
「作り方も分かるのか?」
「毎日見ていたので大体分かります」
パンを作っていたのは基本父親で、アレシアは接客が基本だった。
しかし、小さい頃から父の作業を見てきたし、たまに作るのも手伝ったりしたことがある。
なので、作業工程は大体わかる。
「おぉ、じゃあパンを作るのを手伝ってくれないか?」
「分かりました」
ケイは日本人の感覚からか米が好きだ。
赤米とは言え、作り初めに比べれば大分美味くなってきている。
しかし、たまに無性にパンが食べたくなる。
たまに作っていたのだが、無発酵パン(インドのナン)のような物しかできないでいた。
料理番組などで作り方の工程はなんとなく打が分かるのだが、問題は材料だ。
パンに必要なものといえば、小麦粉と酵母だ。
他によく聞くのがコーンスターチやらドライイーストなどと聞いたことがあるが、コーンスターチはたしかトウモロコシのでんぷんのことで、ドライイーストはイースト菌、つまりは酵母だ。
小麦粉の代わりには米粉、コーンスターチの代わりはジャガイモのでんぷん、つまりは片栗粉を使うことにする。
ケイもここまでなら分かっていたのだが、問題のパン酵母の作り方が分からない。
アレシアが言うには、同じ酵母でも醤油なんかとも違う物でないとよく膨らまないそうだ。
「店ではどうやって酵母を作っていたんだ?」
「フルーツから作っていました」
聞いたところによると、他の店ではビールの酵母で作っている店が多かったようだが、アレシアの店ではフルーツで作った酵母を使っていたらしい。
「フルーツ……」
そういわれて、ケイは思い出した。
そう言えば、色んなフルーツをビンに入れて使った酵母を、パン作りに使っているというのをテレビで見たことがあった気がする。
パン作りなんてすることはないと思っていたので、しっかりと見ていなかった。
「これしかないんだが作れるか?」
フルーツと聞いてケイが持ってきたのは桃。
昔に見つけて育てているのだが、味はたいして向上していない。
相変わらず水っぽい。
しかし、砂糖を作る事もできない中で、この桃は結構重宝している。
搾った果汁を煮詰めると甘みが出るので、これを使って料理に使うようにしている。
料理によっては、桃の香りがどうしてもついてしまうのだが、気にしなければどうということではない。
「ん~……、難しいかもしれないですね……」
糖分を分解することで発酵するらしく、この水っぽいだけの桃だとちゃんと発酵するか分からないそうだ。
そうはいっても、この島で甘味といったらこの桃しかない。
「この桃の果汁を煮詰めた密があるから、これを足したらできるか?」
「そうですね。砂糖がないですから代わりになるかもしれません」
物は試し、できなかったらちょっともったいなかったと思うしかない。
パンができれば食が広がる。
食に興味が無いという人間もいるが、ケイの中では考えられない。
衣・食・住で言えば、食が一番重要なのではないかと思っている。
しっかり食べていれば、住むところも探せるし作れる。
そのあとに服装を気にするべきだ。
ケイの考えはともかく、桃の酵母づくりを始めた。
土魔法で作った蓋つきの瓶を作り、熱湯消毒して少し冷ました後に桃と密と水を入れる。
「……これだけ?」
「はい」
工程だけ見ると、とんでもなく簡単だった。
これだけでいいなんて、拍子抜けした気分だ。
「これを冷蔵庫に入れましょう」
何でも雑菌を繁殖させないために、一度冷やした方が良いのだそうだ。
冷蔵庫とはいっても、ケイが作った上の段に氷を入れるかなり昔のタイプの冷蔵庫だ。
「3日くらいしたら常温で発酵するのを待ち、あとは1日に1、2回蓋を開けて新鮮な空気を入れて軽く振ります」
中にいれた物が沈殿したりしてしまったり、液がよく混ざらないために振った方が良いとのことだ。
「あとは泡が良く出るようになれば使えます」
「なるほど……」
数日経ち、アレシアが言うようにビンの中は泡が立つようになった。
どうやらこれを使って作った生地が膨らむらしい。
「成功してよかった」
「ですね!」
アレシアのお墨付きが出たので、これを使ってパンを作ることにした。
「…………バターがない」
パンを作る時に重要な素材であるバターが無いことに、ケイは今更気が付いた。
そもそも、この島には乳製品がない。
ダンジョン内に牛は出るが、明らかに戦いに特化したような形態の物ばかりだ。
乳牛や山羊のような魔物が出現してくれるといいのだが、そう都合のいいことは起きないだろう。
「ダンジョンの牛の雌を従魔にして連れてくれば……」
牛乳を手に入れる方法を考えてみるが、危険すぎて飼うには適さない。
「他の油で代用して見ますか?」
「……だな」
バターの風味がパンの良い所ではあるのだが、無いのでは仕方がない。
代わりになるかどうか分からないが、とりあえず今ある油を使って作ってみることにした。
結果、やっぱりバターの感じがないのが物足りなく感じるが、まあまあ良くできた。
みんなにも食べてもらったが、みんなも同じような感想をしていた。
パン屋の娘であるアレシアだけは、納得いかないような表情だった。
「はい?」
ある日のこと、あることを聞いたケイがアレシアに呼び掛けた。
トマトを収穫していたアレシアは、手を止めて振り向いた。
「村でパン屋をやっていたと聞いたのだが?」
「はい」
アレシアの家は家族でパン屋をやっていた。
ルイスの父も常連だったと聞いている。
ケイの問いかけにアレシアは頷く。
「作り方も分かるのか?」
「毎日見ていたので大体分かります」
パンを作っていたのは基本父親で、アレシアは接客が基本だった。
しかし、小さい頃から父の作業を見てきたし、たまに作るのも手伝ったりしたことがある。
なので、作業工程は大体わかる。
「おぉ、じゃあパンを作るのを手伝ってくれないか?」
「分かりました」
ケイは日本人の感覚からか米が好きだ。
赤米とは言え、作り初めに比べれば大分美味くなってきている。
しかし、たまに無性にパンが食べたくなる。
たまに作っていたのだが、無発酵パン(インドのナン)のような物しかできないでいた。
料理番組などで作り方の工程はなんとなく打が分かるのだが、問題は材料だ。
パンに必要なものといえば、小麦粉と酵母だ。
他によく聞くのがコーンスターチやらドライイーストなどと聞いたことがあるが、コーンスターチはたしかトウモロコシのでんぷんのことで、ドライイーストはイースト菌、つまりは酵母だ。
小麦粉の代わりには米粉、コーンスターチの代わりはジャガイモのでんぷん、つまりは片栗粉を使うことにする。
ケイもここまでなら分かっていたのだが、問題のパン酵母の作り方が分からない。
アレシアが言うには、同じ酵母でも醤油なんかとも違う物でないとよく膨らまないそうだ。
「店ではどうやって酵母を作っていたんだ?」
「フルーツから作っていました」
聞いたところによると、他の店ではビールの酵母で作っている店が多かったようだが、アレシアの店ではフルーツで作った酵母を使っていたらしい。
「フルーツ……」
そういわれて、ケイは思い出した。
そう言えば、色んなフルーツをビンに入れて使った酵母を、パン作りに使っているというのをテレビで見たことがあった気がする。
パン作りなんてすることはないと思っていたので、しっかりと見ていなかった。
「これしかないんだが作れるか?」
フルーツと聞いてケイが持ってきたのは桃。
昔に見つけて育てているのだが、味はたいして向上していない。
相変わらず水っぽい。
しかし、砂糖を作る事もできない中で、この桃は結構重宝している。
搾った果汁を煮詰めると甘みが出るので、これを使って料理に使うようにしている。
料理によっては、桃の香りがどうしてもついてしまうのだが、気にしなければどうということではない。
「ん~……、難しいかもしれないですね……」
糖分を分解することで発酵するらしく、この水っぽいだけの桃だとちゃんと発酵するか分からないそうだ。
そうはいっても、この島で甘味といったらこの桃しかない。
「この桃の果汁を煮詰めた密があるから、これを足したらできるか?」
「そうですね。砂糖がないですから代わりになるかもしれません」
物は試し、できなかったらちょっともったいなかったと思うしかない。
パンができれば食が広がる。
食に興味が無いという人間もいるが、ケイの中では考えられない。
衣・食・住で言えば、食が一番重要なのではないかと思っている。
しっかり食べていれば、住むところも探せるし作れる。
そのあとに服装を気にするべきだ。
ケイの考えはともかく、桃の酵母づくりを始めた。
土魔法で作った蓋つきの瓶を作り、熱湯消毒して少し冷ました後に桃と密と水を入れる。
「……これだけ?」
「はい」
工程だけ見ると、とんでもなく簡単だった。
これだけでいいなんて、拍子抜けした気分だ。
「これを冷蔵庫に入れましょう」
何でも雑菌を繁殖させないために、一度冷やした方が良いのだそうだ。
冷蔵庫とはいっても、ケイが作った上の段に氷を入れるかなり昔のタイプの冷蔵庫だ。
「3日くらいしたら常温で発酵するのを待ち、あとは1日に1、2回蓋を開けて新鮮な空気を入れて軽く振ります」
中にいれた物が沈殿したりしてしまったり、液がよく混ざらないために振った方が良いとのことだ。
「あとは泡が良く出るようになれば使えます」
「なるほど……」
数日経ち、アレシアが言うようにビンの中は泡が立つようになった。
どうやらこれを使って作った生地が膨らむらしい。
「成功してよかった」
「ですね!」
アレシアのお墨付きが出たので、これを使ってパンを作ることにした。
「…………バターがない」
パンを作る時に重要な素材であるバターが無いことに、ケイは今更気が付いた。
そもそも、この島には乳製品がない。
ダンジョン内に牛は出るが、明らかに戦いに特化したような形態の物ばかりだ。
乳牛や山羊のような魔物が出現してくれるといいのだが、そう都合のいいことは起きないだろう。
「ダンジョンの牛の雌を従魔にして連れてくれば……」
牛乳を手に入れる方法を考えてみるが、危険すぎて飼うには適さない。
「他の油で代用して見ますか?」
「……だな」
バターの風味がパンの良い所ではあるのだが、無いのでは仕方がない。
代わりになるかどうか分からないが、とりあえず今ある油を使って作ってみることにした。
結果、やっぱりバターの感じがないのが物足りなく感じるが、まあまあ良くできた。
みんなにも食べてもらったが、みんなも同じような感想をしていた。
パン屋の娘であるアレシアだけは、納得いかないような表情だった。
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