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第5章
第80話
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「見えてきました。あそこの町ですね」
「あそこですか……」
ケイと共に島で暮らすルイスたちが住んでいたというエンツリオの村は、魔物のスタンピードで壊滅した。
ルイスたち以外に生き残れた者はいないとい思われたが、ファウストたちの来訪で僅かながら生存していたことを知ることができた。
その知らせを聞いて、ルイスたちは大層喜んでいた。
島に流れ着いた頃は、親や仲間を多く亡くし、気を張って生きているように思えたが、何十年も経った今では子や孫に囲まれ幸せに暮らしている。
しかし、同じ村でこの国に生き残った者たちはそうでもないようだ。
色々な魔物に追いかけられたトラウマからか、いまだにPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苛まれているとのことだ。
この世界では心療内科や精神科なんて存在していないだろうから、特に治療なんてされてはいないだろう。
ケイには前世の記憶があると言っても、治療法なんて分かるはずがない。
だから、せめてルイスたちの今を知って、元気になって貰えたらと思っている。
「お待ちしておりました。ファウスト殿下」
「出迎え感謝する。ビニシオ殿」
馬車が町の中でも一際大きな邸の前に着き、ケイたちもファウストに促されて馬車から降りると、そこには一人の獣人が立っていた。
ファウストの紹介によると、このブエノカエルの町の領主らしい。
特徴としては、頭に角が生えている。
ウシ科の獣人なのだそうだ。
ケイと美花も紹介してもらい握手を交わした。
「部下が説明したと思うが……」
「はい。邸の一室に集まってもらっております」
どうやら、ケイたちが元エンツリオの村の者たちに会いたいということを、ファウストが部下を使って先にビニシオに伝えていたらしい。
着いてから集めたのでは、国の要人を無駄に待たせることになる。
だからだろう、ビニシオはもう彼らを領主邸に集めていたようだ。
「初めまして、ケイ様、美花様。我々が元エンツリオの村の住人たちと、その家族になります」
「どうも……」
「よろしく……」
ケイたちが一国の代表だということを伝えられていたらしく、彼らは恐縮しているようだ。
丁寧な挨拶をされて、ケイたちの方も少し表情が硬くなってしまう。
ツリオの村は狼人族が大半で、他の種族はごく少数だとルイスから聞いていた。
その言葉通り、目の前にはルイスたちと同じ特徴をした者たちばかりだ。
中にはビニシオと同じような角の生えた者や、他の獣人の特徴をした者たちも数人ほどいる。
そういった者たちは比較的若い物が多く、どうやら配偶者や子供なのだそうだ。
エンツリオ村の生存者は30人だったが、4人が病などで亡くなり、現在は26人。
その家族も集まって40人近くになっている。
「ルイス兄が生きていると聞きました。本当なのでしょうか?」
「えぇ、彼は私たちの島で暮らしています」
見た感じ年齢が一番高い男性が、代表として尋ねてきた。
「ルイス兄」、今でもイバンがルイスのことを同じように呼んでいる。
ルイスは面倒見の良い奴だ。
村でも年下の子たちの遊び相手をしていたらしい。
もしかしたら、この彼もその一人なのかもしれない。
彼の質問に、ケイが答えると、狼人の男性たちの半分は喜んでいた。
よっぽどルイスは顔が広かったのだろう。
「良かった……」
特に、聞いてきた彼は相当嬉しかったらしく、涙ぐんでいるようにも見える。
「魔物が村に襲い掛かって来たとき、大人たちは我々子供だけでも逃がそうと集め、馬車数台で逃げました」
涙を拭き、遠い目をした彼は、当時のことを話し始めた。
「大人たちは身を挺して馬車を魔物から守ろうとしてくれましたが、数が尋常ではありませんでした。あっという間に大人たちはやられ、馬車も何台も潰されました」
話している男性以外のみんなも、その時のことを思いだしているのか表情が暗い。
「なんとか魔物の追跡を振り切って他の町へ着いたのですが、生き残ってから何度もその時の悪夢が押し寄せてきました。いまだに夢に見て起こされる時があります」
26人の狼人たちは、みんな顔色が良くない。
彼だけでなく、他の者たちも同じように悪夢に悩まされている日々が続いているのかもしれない。
代表の彼でも、イバンと同じくらいの年齢に見える。
つまりは30代前半くらい。
20年近く前のことだから、当時は10歳前後。
彼が一番上だとすると、他のみんなは一桁だったはず。
幼少期に家族や仲間が目の前で殺される姿を見せられては、心に傷を負ってしまうのも仕方がないことだ。
「その悪夢のせいで体調が優れない時が多く、どの仕事をしても迷惑をかけることになり、生き残った意味があるのかいつも悩まされています」
「そうですか……」
当初は王都で保護されていたらしいが、現在はみんなこの町で暮らしている。
だが、この町でも役に立てず、苦しい思いをしているようだ。
重い話だが、ケイは彼らの話を真剣に耳を傾けていた。
「それでは……」
「またのお越しをお待ちしております」
元エンツリオの村人たちと話した翌日、ケイたちはファウストと共に王都への移動の続きを行なうことにした。
見送りのビニシオに一言告げ、馬車へと乗り込んだ。
「……みんないまだに苦しんでいるんだな」
「そうね……」
馬車を走らせている中、ケイと美花は昨日のことを思い返していた。
元気を取り戻してほしいと思っての会合だったが、半分近くの時間は重苦しい空気のままだった。
「やっぱり、ルイスたち本人と会わないとだめなのかな?」
「……でも、全員はちょっと難しいわよ」
ケイたちの島には人が少ない。
その大半がルイスたち獣人の血を引く者たちだ。
ケイの孫たちもそうだ。
ルイスたちも海上にトラウマを持つ身だ。
長い船旅を耐えられるか分からないため、全員を会わせることはできないだろう。
「まぁ、最後の方はみんな少しは元気になったようだから、とりあえずは良しとしとくか……」
「うん……」
ルイスたち一人一人の今をケイと美花が話していくと、重かった空気も次第に和らぎ、みんなの表情も和んでいった。
子や孫に囲まれて幸せに暮らしていると伝えると、うれし泣きしている者までいたくらいだ。
ケイたちの元気になってほしいという願いは、少しは叶えられたのかもしれない。
「あそこですか……」
ケイと共に島で暮らすルイスたちが住んでいたというエンツリオの村は、魔物のスタンピードで壊滅した。
ルイスたち以外に生き残れた者はいないとい思われたが、ファウストたちの来訪で僅かながら生存していたことを知ることができた。
その知らせを聞いて、ルイスたちは大層喜んでいた。
島に流れ着いた頃は、親や仲間を多く亡くし、気を張って生きているように思えたが、何十年も経った今では子や孫に囲まれ幸せに暮らしている。
しかし、同じ村でこの国に生き残った者たちはそうでもないようだ。
色々な魔物に追いかけられたトラウマからか、いまだにPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苛まれているとのことだ。
この世界では心療内科や精神科なんて存在していないだろうから、特に治療なんてされてはいないだろう。
ケイには前世の記憶があると言っても、治療法なんて分かるはずがない。
だから、せめてルイスたちの今を知って、元気になって貰えたらと思っている。
「お待ちしておりました。ファウスト殿下」
「出迎え感謝する。ビニシオ殿」
馬車が町の中でも一際大きな邸の前に着き、ケイたちもファウストに促されて馬車から降りると、そこには一人の獣人が立っていた。
ファウストの紹介によると、このブエノカエルの町の領主らしい。
特徴としては、頭に角が生えている。
ウシ科の獣人なのだそうだ。
ケイと美花も紹介してもらい握手を交わした。
「部下が説明したと思うが……」
「はい。邸の一室に集まってもらっております」
どうやら、ケイたちが元エンツリオの村の者たちに会いたいということを、ファウストが部下を使って先にビニシオに伝えていたらしい。
着いてから集めたのでは、国の要人を無駄に待たせることになる。
だからだろう、ビニシオはもう彼らを領主邸に集めていたようだ。
「初めまして、ケイ様、美花様。我々が元エンツリオの村の住人たちと、その家族になります」
「どうも……」
「よろしく……」
ケイたちが一国の代表だということを伝えられていたらしく、彼らは恐縮しているようだ。
丁寧な挨拶をされて、ケイたちの方も少し表情が硬くなってしまう。
ツリオの村は狼人族が大半で、他の種族はごく少数だとルイスから聞いていた。
その言葉通り、目の前にはルイスたちと同じ特徴をした者たちばかりだ。
中にはビニシオと同じような角の生えた者や、他の獣人の特徴をした者たちも数人ほどいる。
そういった者たちは比較的若い物が多く、どうやら配偶者や子供なのだそうだ。
エンツリオ村の生存者は30人だったが、4人が病などで亡くなり、現在は26人。
その家族も集まって40人近くになっている。
「ルイス兄が生きていると聞きました。本当なのでしょうか?」
「えぇ、彼は私たちの島で暮らしています」
見た感じ年齢が一番高い男性が、代表として尋ねてきた。
「ルイス兄」、今でもイバンがルイスのことを同じように呼んでいる。
ルイスは面倒見の良い奴だ。
村でも年下の子たちの遊び相手をしていたらしい。
もしかしたら、この彼もその一人なのかもしれない。
彼の質問に、ケイが答えると、狼人の男性たちの半分は喜んでいた。
よっぽどルイスは顔が広かったのだろう。
「良かった……」
特に、聞いてきた彼は相当嬉しかったらしく、涙ぐんでいるようにも見える。
「魔物が村に襲い掛かって来たとき、大人たちは我々子供だけでも逃がそうと集め、馬車数台で逃げました」
涙を拭き、遠い目をした彼は、当時のことを話し始めた。
「大人たちは身を挺して馬車を魔物から守ろうとしてくれましたが、数が尋常ではありませんでした。あっという間に大人たちはやられ、馬車も何台も潰されました」
話している男性以外のみんなも、その時のことを思いだしているのか表情が暗い。
「なんとか魔物の追跡を振り切って他の町へ着いたのですが、生き残ってから何度もその時の悪夢が押し寄せてきました。いまだに夢に見て起こされる時があります」
26人の狼人たちは、みんな顔色が良くない。
彼だけでなく、他の者たちも同じように悪夢に悩まされている日々が続いているのかもしれない。
代表の彼でも、イバンと同じくらいの年齢に見える。
つまりは30代前半くらい。
20年近く前のことだから、当時は10歳前後。
彼が一番上だとすると、他のみんなは一桁だったはず。
幼少期に家族や仲間が目の前で殺される姿を見せられては、心に傷を負ってしまうのも仕方がないことだ。
「その悪夢のせいで体調が優れない時が多く、どの仕事をしても迷惑をかけることになり、生き残った意味があるのかいつも悩まされています」
「そうですか……」
当初は王都で保護されていたらしいが、現在はみんなこの町で暮らしている。
だが、この町でも役に立てず、苦しい思いをしているようだ。
重い話だが、ケイは彼らの話を真剣に耳を傾けていた。
「それでは……」
「またのお越しをお待ちしております」
元エンツリオの村人たちと話した翌日、ケイたちはファウストと共に王都への移動の続きを行なうことにした。
見送りのビニシオに一言告げ、馬車へと乗り込んだ。
「……みんないまだに苦しんでいるんだな」
「そうね……」
馬車を走らせている中、ケイと美花は昨日のことを思い返していた。
元気を取り戻してほしいと思っての会合だったが、半分近くの時間は重苦しい空気のままだった。
「やっぱり、ルイスたち本人と会わないとだめなのかな?」
「……でも、全員はちょっと難しいわよ」
ケイたちの島には人が少ない。
その大半がルイスたち獣人の血を引く者たちだ。
ケイの孫たちもそうだ。
ルイスたちも海上にトラウマを持つ身だ。
長い船旅を耐えられるか分からないため、全員を会わせることはできないだろう。
「まぁ、最後の方はみんな少しは元気になったようだから、とりあえずは良しとしとくか……」
「うん……」
ルイスたち一人一人の今をケイと美花が話していくと、重かった空気も次第に和らぎ、みんなの表情も和んでいった。
子や孫に囲まれて幸せに暮らしていると伝えると、うれし泣きしている者までいたくらいだ。
ケイたちの元気になってほしいという願いは、少しは叶えられたのかもしれない。
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