エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

文字の大きさ
190 / 375
第9章

第190話

しおりを挟む
「いなくなった?」

「ハイ……」

 とある町の豪華な邸内にて、部下の報告を受けたこの邸の主は、イラ立つように部下に問いかける。
 部下の方もこうなる事が分かっていたらしく、返事の声が少々小さい。
 この主人の男が、ケイからキュウを取り上げようとしている張本人である。
 最初はかかわりのある冒険者に手配書を渡して少しの依頼料を払っていたのだが、依頼した冒険者がことごとく失敗している。
 最近では成功時にのみ支払うようにし、金額も上げたのだが、いつまで立っても成功の報告が上がって来ない。
 この主人の男も、いい加減腹が立ってくるのも仕方がないことだろう。

「どういうことだ?」

 貴族でもないのにこれほどの豪邸に住んでいるのは、彼の商人としての才がずば抜けていたというのもあるが、ある一つのルールを守ってきたからでもある。
 それは怒りのコントロールだ。
 怒りは人間にとって必要な感情ではあるが、これをきちんとコントロールできない者は、たいていどこかで失敗を起こす。
 失敗が軽度のものであればいいのだが、商売においては軽度のものでも取り返すのに時間がかかる。
 その時間は仕方がないことだが、商会を大きくするのには無駄でしかない。
 それをなくすためにも、怒りで視野が狭まっている時に何かを決定をすることはしない。
 部下への怒りを深呼吸をして抑え込むと、男は冷静な声でターゲットを見失った理由を尋ねた。

「キャタルピルから尾行班を付けているのですが、すぐにバレてしまっています。余程の探知の能力者なのでしょう」

 ケイを尾行してきていた3人組が、彼らにとって最初に依頼した冒険者たちだ。
 一度失敗して、彼らが独自に仲間を集め、再度襲撃をして二度と顔を見ることがなくなってからも、ずっと尾行者はつけておいたのだが、結果は芳しくない。
 いつもあっさりと尾行がバレてしまうからだ。

「うちのトップの追跡者たちを送っているんだよな?」

「はい」

 大陸の南の部分を牛耳っているとも言って良いこの商会には、独自に組織した諜報員たちがいる。
 完璧な仕事をする連中なので、かなりの金額を支払っている。
 その中でも、上位の連中はこのようなことは一度もなかった。
 今回のターゲットの能力の高さが感じられる。

「見失った地点と、東へ向かっているというのを見る所、ピトゴルペスの町の手前付近のといったところでしょうか?」

「国を越えるか……」

 これまでのペースでこのままターゲットが進んでいっていると考えると、今はそれくらいの地点にいることだろう。
 そして、ピトゴルペスからは他国へと変わる。
 グルーポ・デントロという王国に変わるのだが、その国に行かれると少し困る。
 その国にも支店を出しているが、まだ日が浅い。
 ピトゴルペスを軸にしていて、商会にとって使える冒険者もまだ集めることができていないからだ。

「これまでけしかけた冒険者たちのランクは?」

「最初はB、Cランクを送っていたのですが、最近はAランクを」

 冒険者にはランクがあり、G~SSSの10段階になっている。
 その中でも、C以上のランクの持ち主が一端の冒険者として世間は判断している。
 Aランクになると、相当な実力の持ち主だ。

「Sランク以上で金次第で動く奴はいないのか?」

 Aの上からS、SS、SSSとランクが上がるのだが、Sから先はまともな生き方をしてなれるレベルではなくなっている。
 冒険者にとって、一流と超一流の大きな壁になっている。
 S以上になればある程度強い魔物を狩ることができるので、採取が困難な魔物の素材を売って資金を得れば余裕で生きていけることだろう。
 しかし、そんな高ランクの冒険者でも、場合によっては資金不足になることがある。
 そういった者を使えれば、ターゲットの捕獲も難しいことではないだろう。

「……SSランクの者が一人だけなら」

「……いるのか?」

 まさか高ランクの冒険者で動いてくれそうな人間がいるなんて思わず、男は少し疑うように尋ねた。

「はい。後払いで受けるかは分かりませんが……」

 Sランク以上は金で動く人間は少ない。
 そのため、使える人間がいるとなると慎重に選ばなくてはならない。
 冒険者相手に先払いは、商人からするとあまりしたくない。
 協会を通しての依頼なら文句が言えるが、今回は裏の依頼になる。
 金だけ受け取ってトンズラされたら、こちらは泣き寝入りするしかなくなってしまう。

「成功報酬はこれまでの倍でも構わん」

「了解しました」

 珍しい魔物なだけに、幸運を招くなどと言う噂も流れているが、主人もそれを信じているようだ。
 とは言っても、ケセランパサラン程度の魔物に高い金を出すのには首を傾げたくなる。
 しかし、主の指示ならそれに従うのが部下の務め。
 指示を受けた部下の男は、恭しく頭を下げて部屋から出て行ったのだった。






【しゅじん! 変なの来なくなったね?】

「あぁ」

 ターゲットになっているケイたちは、依頼者たちの予想通りピトゴルペスの町の手前の町の宿屋でのんびりしていた。
 キュウの言う通り、変装をしてからと言うものの、冒険者につけられたり、囲まれたりすると言ったことがなくなった。

「魔法で誤魔化すって手もあったんだが、やっぱり変装の方が良かったみたいだな」

 他人に顔を見られても手配書の顔と違うようにする方法には、魔力を顔に集めて違う人間に見えるようにする方法もあった。
 しかし、継続して魔力をコントロールし続けなくてはならないため、結構面倒くさい。
 それに、高ランクの冒険者とかになると、魔力を覆ているとすぐにバレる。
 そのため、ケイはマスクを作ることにしたのだった。

「ミャー!」

「すまん。マスク外すの忘れてたな……」

 キュウはソフトボールほどの大きさなので、ケイの服の中や小さめのバッグに入れてしまえばバレることはない。
 しかし、見た目柴犬のクウはどうしたものかとケイは考えた。
 そして作ったのは猫のマスク。
 しかも変声機付きだ。
 体は犬なのに、顏と声が猫だと、他の人間は猫だと信じるようだ。
 変装してからこれまでは、疑われるようなことにはなっていない。
 宿屋の部屋で他には人もいないので、ケイはこの間だけでもとクウのマスクを外してあげた。

「スムーズに進めているから、もうすぐ海も見えてくるころじゃないか?」

【うみ!】「ワフッ!」

 海に囲まれた島で育ったため、キュウもクウも海は好きだ。
 最近はずっと内陸部分を移動していたので、久々に海が見れるかもしれないと思い、嬉しそうな声をあげたのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

異世界での異生活

なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

処理中です...