主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
23 / 281
1学年 前期

第23話

しおりを挟む
「いたっ!」

「っ!?」

 坑道内を進んでいると、伸は一旦足を止めて道の先を指差した。
 伸の後ろを歩いていた綾愛がその方向に目をやると、そこには虫型の魔物がこちらへ近付いて来ているのが見えた。
 中型犬ほどの大きさのコガネムシといったところで、虫型ではよく見るタイプの魔物だ。

「あの程度なら大丈夫だろ。任せた」

「う、うん」

 よく見るタイプの魔物だけあって、その強さはたいしたことがないというのが分かる。
 なので、綾愛の初討伐の訓練として倒させることにした。
 戦うように言われた綾愛は、先日学園に出た魔物の時は何も考えずに攻めかかれたようだが、いざ冷静な状態で戦うとなると緊張しているようだ。
 表情が強張ったまま、魔物と戦うために伸の前へと出た。

「たいしたことないから、落ち着いて戦え」

「分かった」

 緊張で少し硬くなっているのが分かるため、伸は落ち着くように話しかける。
 その言葉に納得したのか、綾愛は1度深呼吸して落ち着きを取り戻した。
 そして、伸たちに警戒したように近付いてくる魔物に向けて、右手を上げて魔力を練り始めた。

「ハッ!」

「っ!!」

 右手に集まった魔力を、虫の魔物へ向けて放つ。
 学園の授業でおこなっている魔力弾の的当てを、そのまま実行したようだ。
 飛んで行った魔力弾は見事に魔物に当たり、倒れた魔物は動かなくなった。

「やった!」

 初の魔物の討伐に、綾愛は嬉しそうに声をあげる。
 そして、魔術で魔物の死体を収納しようと近付こうとした。

「待てっ!」

「えっ? 何?」

 魔物へ近付こうとする綾愛を、伸が前に出て制止する。
 その伸が若干険しい表情をしているため、綾愛は何か失敗したのか不安になった。

「魔物に当たったはいいけど、ちゃんと死んだか探知したのか? 確認しないで近付くのは危険だって学園でも習ってるだろ?」

「あっ!」

 伸の言葉で、綾愛はようやく自分の失敗に気が付いた。
 魔力を目に集める探知の魔術を使うことで、魔物の状態を確認することができる。
 学園の授業でも探知の魔術は指導されているし、倒した魔物に近付く前にはちゃんと探知してから近付くように言われている。
 その理由が目の前で起こった。
 綾愛が倒したと思われる魔物を伸が指さすと、動かなくなっていた魔物が動き出して体を起こした。
 先程の魔力弾でダメージを受けはしたのだろうが、死んではいなかったようだ。

「あの虫は外骨格が固い。だからあの一撃で死ぬかは疑わしい。しかも、擬死することで有名な魔物だ。あのままいってたら危なかったぞ」

「……ごめんなさい」

 学園では、魔物の情報もタブレットに提供していて、その最初の方にこの魔物の情報が出てくる。
 その中にちゃんと擬死、つまりは死んだふりをするという情報が記されている有名な魔物のため、綾愛も知っているはずだが、魔物を倒せたという喜びで、探知の魔術による確認と魔物の知識が飛んでしまっていたらしい。
 伸の言うように、あのまま行っていたら危うく怪我をするところだった。
 綾愛は自分の迂闊さに反省し、少し俯きつつ謝ってきた。

「まあ、初心者あるあるだ。続きをおこなってくれ」

「うん!」

 危ないところだったが、綾愛は自分の失敗に気が付いている。
 ならば、ここからは大丈夫だろうと、伸は起き上がった魔物を引き続き綾愛に戦わせることにした。

「大丈夫ね?」

「あぁ」

「収納!」

 その後の魔物との戦いは無難に済んだ。
 綾愛の魔力弾を数発受けて、魔物はボロボロになって動かなくなった。
 今度こそ魔物が死んだことを確認し、綾魔は安堵したように伸へ問いかけた。
 そして、伸の返答を受けた綾愛は、収納の魔術を発動して魔物死体を異空間へ収納した。

「さっきの戦闘で、君のよくない所が1つ分かった」

「よくない所?」

「あぁ」

 魔物の戦闘がひとまず終わった所で、伸は綾愛の欠点を伝えることにした。
 無警戒で魔物に近付こうとしたのは反省したが、他によくない所があると言われてもよく分からないため、綾愛は首を傾げる。

「魔力弾の溜めから発射までが遅い。あれじゃ咄嗟の時間に合わないかもしれないぞ」

「……なるほど」

 学園の授業を聞いているかのように、伸が述べた注意点に綾愛は頷く。
 さっきの戦闘では魔物の動きは鈍かったため問題なかったのだが、魔力弾の連射が遅かった。
 不意打ちなどで対応する時に、あの発射速度では遅すぎる。
 以前両親から指導を受けた時にも同じようなことを言われていたため、綾愛もすんなり納得した。

「どうすればいいの?」

「魔力のコントロールの訓練をするべきだな」

「魔力コントロール……」

 親に言われるよりも、同級生に言われた方が何故だか響いた。
 実力差があるとは言っても、同じ年の伸ができるのだから、自分も出来ないといけない気がしたからかもしれない。
 しかし、その訓練方法を尋ねると、伸からは普通の答えが返ってきた。
 体内の魔力を色々な個所へと移動させるという、魔術師なら誰もが最初に習うような訓練だ。
 その訓練なら、綾愛も毎日のようにしているのに、その訓練をするように言って来る意味が分からない。

「君がしているのは基礎の魔力コントロールで、必要な量を必要な場所へ限界ギリギリの速度で動かすような、自分を追い込む訓練なんてしていないんだろ?」

「えぇ……」

 たしかに、魔力を動かす訓練はしているが、地味な練習のせいか無難なコントロール訓練しかしていない気がする。
 伸の言うギリギリまで自分を追い込むような訓練をやった所で、たいして成果が感じられないため、恐らく誰もが同じように無難な訓練で済ませているのではないだろうか。

「魔力コントロールは基礎にして奥義に近いものがある。どんな魔術も魔力を使うんだから、魔力コントロールがスムーズにできないと戦いでは役に立たない。地味だからって手を抜いていたら駄目だ」

「……たしかに!」

 伸の言うように、魔術は魔力によって発動するものだ。
 その魔力を自由自在に操れてこそ、魔物と戦えるようになるのだ。
 あまりの正論に、綾愛は目から鱗が落ちるような思いがした。

「今回は魔物に慣れることが目標だから、次へ行こう」

「うん」

 魔力コントロールは落ち着いた場所でおこなうもの。
 そのため、家でやってもらうとして、今日は綾愛が魔物になれるのが目的。
 坑道内の魔物の討伐もしないといけないため、先へと進むことにした。





◆◆◆◆◆

「なぁ? 本当にあの小僧に任せて綾愛様は大丈夫なのか?」

「静奈様が仰ったんだから大丈夫だろ」

 伸が綾愛の指導をしつつ魔物退治をしている頃、他の坑道では柊家に仕えている者たちが、4人1組で魔物退治をおこなっていた。
 出てくる魔物を退治しながら進む中、1人が伸のことを話題に上げた。
 今回の作戦に急遽加えられたため、彼らは伸の実力を知らない。
 ただ、高校生ながら当主である俊夫のお墨付きだという話だった。
 綾愛の訓練のために呼んだという話だが、所詮は高校生。
 自分たちが綾愛の訓練についた方が、安全なのではないかという思いが消えないのだ。
 その気持ちは分からなくないが、当主婦人の指示なのだから、今さら言っても仕方がないことだ。

「そんな事より、そろそろ最深部に着くんじゃないか?」

「あぁ……」

 彼らは名門柊家の魔闘組合員。
 プロらしく、常に警戒しつつ先へと進んで来た。
 そして、彼らが一番先に最奥にたどり着きそうだ。
 ここから先は何が出るか分からないため、彼らは警戒しつつ最深部へと足を進めた。

「「「「「……ギュッ!」」」」」

「「「「っっっ!!」」」」

 最深部に足を踏み入れると、4人は信じられないものを発見する。
 あまりのことに驚いた彼らは、すぐさま逃走を開始した。
 彼らが見たもの、大量の強力な魔物がひしめき合うように存在していたのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...