主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸

文字の大きさ
216 / 281
3学年 前期

第215話

しおりを挟む
「…………」

 大和皇国の皇都にある鷹藤家宅の離れ。
 そこは、広いが一つの出入り口しかない部屋があり、トイレとシャワールーム、明かりと空気を入れ替えるためだけに存在している窓があるだけだ。
 その部屋には、一人の少年が正座をして瞑想をしていた。
 鷹藤家当主康義の孫であり、次期当主正則の息子で長男の文康だ。
 彼は魔闘師としては飛び抜けた才能が有り、同年代には敵なしと思われた天才と呼ばれていた。
 しかし、その才と鷹藤家という名家で生まれ育ったためか、傲慢になり、高校に入ると様々な問題を起こすようになった。
 1年の時には勝手に八郷家管轄領域に入り、魔物の討伐をおこなうという名家同士で決めたタブーを犯し、2年の夏合宿の時には大量の魔物を綾愛たちに送り込もうとしたりした。
 そこまでは、名門鷹藤家の力で揉み消すことができたが、去年の年末の対抗戦の時、綾愛との対戦を楽に勝利しようと伸を誘拐する指示を出したことは隠しようがなかった。
 文康は事件の教唆犯として逮捕され、現在保護観察処分中になった。
 鷹藤家としては、これ以上問題を起こさないようにするための処置として、文康をこの離れで暮らすようにさせたのだ。

「ハァ~……」

 かつては、を閉じ込めていたと言われる離れ。
 その部屋唯一の出入り口の前では、鷹藤家傘下の魔闘師たちが交代で番をしている。
 文康が、家の外に勝手に出かけようとするのを阻止するための見張り役だ。
 彼らに言えば食事や本などを用意してくれるため、生活に困ることなどないのだが、こんな部屋にこもりっきりでは息が詰まるのも仕方がない。
 瞑想を終えた文康は、大きくため息を吐いた。
 逮捕されて学園も退学になり、こんな部屋で過ごす日々。
 最初のうちは、どうして自分がこんな目に合わなければならないのかという、中身クズは相変わらずだったのだが、日が経つにつれ、瞑想をして自分と向き合う日々を送っているうちに、少しずつ自分の過ちによる結果だということを文康は受け入れつつあった。

「な、何だっ!?」

「ぐあっ!!」

「っ!?」

 軽く木刀の素振りができるほどに広いので、文康は訓練と暇つぶしを兼ねて木刀を手に取る。
 その次の瞬間、部屋の外から悲鳴のようなものが聞こえ、文康は反射的に出入り口の方へ木刀を構えた。

“バキッ!!”

「っっっ!?」

 木製とはいえ分厚い出入り口の扉が破壊され、見張り役の男が部屋の中へ飛び込んでくる。
 その男が気を失っていることから、何者かによって吹き飛ばされたことによるものだというのは分かる。
 そのため、彼の安否を確認した文康は、更に警戒心を上げて出入り口の方へ視線を向けた。

「……鷹藤文康だな?」

「き、貴様!! な、何者だ!?」

 伸のように探知能力が高いわけではない。
 祖父の康義のように経験則があるわけでもない。
 しかし、破壊された出入り口の前に立つ人間が、人間ではないことは理解できた。
 人間ではない人間なんて魔人以外考えられないが、どうしてこの場に現れたのかが理解できない文康は、声を詰まらせながら思わずその者に問いかけた。

「俺は魔人オレガリオ。めいによりお前をここから連れ出しに来た」

「……はっ? 何言ってんだお前!?」

 この部屋に閉じ込められ、クズ人間から脱却しつつある文康。
 いくら自分が犯罪者だとは言え、人類の敵である魔人に与するつもりなんて皆無。
 そのため、文康はオレガリオの言葉に嫌悪感丸出しで返答した。

「お前の意思などどうでもいい。痛い目に遭いたくなければ大人しくしていろ!」

「ふざけ……っ!?」

 この部屋にある武器は木刀しかないが、それでも魔力を纏わせればかなりの切れ味になる。
 魔人相手だろうと怯むことなく戦う意思を向けた文康だったが、実力が違い過ぎた。
 オレガリオは文康よりも速く襲い掛かり、拳による鳩尾への一撃を食らわせ、文康の気を失わせて黙らせた。

「フゥ~……、さすがに一日で3ヶ所の行き来はきついな」

 気を失った文康を肩に担いだオレガリオは、疲労の籠ったため息を吐く。
 それもそのはず、伸たちのいる八郷地区から鷹藤家別荘のある官林地区南部、そこから更に鷹藤家本宅のある官林地区北部への転移したことで、かなりの魔力を消費することになったからだ。

「バルタサール様もきつい命を出すものだ……」

 バルタサールから任務失敗、かつ捕縛寸前のカサンドラにテレンシオの始末の命令が出された。
 仲間を始末をしなければならないなんて、いくら魔人の自分でも多少躊躇う気持ちはある。
 しかし、バルタサールの命令は絶対のため、それに従って行動をしたに過ぎない。

「それにしても面白いことを考えなさる」

 バルタサールからの命令は、カサンドラとテレンシオの始末だけではなかった。
 カサンドラの所へ転移する前に、ついでと言わんばかりに文康を捕縛してくるように言ったのだ。

「おっと! 音に気付いたか?」

 魔力を消費したことで、かなりの疲労を感じる。
 そのため、もう少し休んでいたいところだったが、先ほどこの部屋の扉を壊した音が母屋の方にまで届いたのかもしれない。
 この離れに向かって、幾人もの足音が近づいてきている。
 この家にいるような魔闘師となると、鷹藤家の中でもかなりの実力者だろう。
 今の魔力量で戦うのは避けた方がいいと判断したオレガリオは、休憩を終了してここから去ることに決めた。

「っ!! いたぞ!!」

「っ!? 文康様!!」

 離れの外に出ると、オレガリオが思った通り、多くの魔闘師たちが離れに向かってきていた。
 そして、文康を担ぐオレガリオを見て、走りながら一斉に鞘から刀を抜いた。

“フッ!!”

「「「「「」っっっ!?」」」」

 あと少しで自分たちの間合いに入る。
 鷹藤家の魔闘師たちがそう思ったところで、オレガリオが消え去る。
 急に消え、探知にも引っかからないため、魔闘師たちは困惑の表情で侵入者の姿を探すが、数時間後に当主の康義が到着するまで犯人が魔人で、転移魔術の使い手だと気付くことはなかった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

処理中です...