悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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王と王子

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「…リティシア…嬢の話…か?」


 遂に来てしまった…リティシアとの婚約についての話だ。


 今までの彼女の悪い噂や彼女自身の強気な性格を考えれば、父さんは間違いなく別れろと勧めてくる事だろう。


 だが今は違う。彼女と参加した今日のパーティでハッキリと感じた。今の彼女は強い口調こそ以前と同じだが、その中に隠された感情はまるで別人のようになっていた。


 どうにか父さんを説得してみよう。


 いくら怖い王様だとは言え、俺の実の父親なのだから…俺の考えを分かってくれるはずだ。


「そうだ。パーティでのこと、聞いたぞ。またリティシア嬢がやらかしたそうではないか。私も彼女の噂を鎮めようと努力はしているが、もう無理だ。噂はひとりでに歩き出し、彼女の好感度は地に落ちている。」


 父さんはこちらの反論を待たずに言葉を続ける。


「私の古き友人の娘ではあるが、これ以上はもう見ていられない。お前とリティシア嬢の婚約破棄を視野に入れる。そして隣国の王女アルターニャとの婚約話を新たに進める。良いな?」


 有無を言わせぬ威厳のある声に、一瞬怯みそうになるが、ここで負けてしまえば進む先は婚約破棄だ。


 そんな大事な話をアルターニャ王女やリティシア抜きで進めるなんて…絶対に間違っている。


 …もう、あの頃の周りを困らせてばかりだったリティシアはいない。今の彼女はただ誤解されているだけだ。俺はもう少し…いやもっと側でリティシアを見ていたい。


「父さん、よく聞いてくれ。リティシア…嬢は変わったんだ。彼女は、言葉は強いけど人に優しく出来る素敵な女性だ。今日のパーティでそれがよく分かった。だから父さんが心配するような事は…」


「優しい?人にワインをかけるような女がか?全くお前は本当に笑わせてくれるな。例えば本当に優しくなったとしよう。だが…優しさだけでこの国の皇后が務まると思うのか?アレクシス。お前の考えは甘い。優しさだけで使用人は、国民は、ついてきてくれない。」


 父さんは鋭い眼差しでこちらを見据える。この目は、知っている。俺の言葉を、意見を…真っ向から否定する時の目だ。


「そんな事ない。どんなに優れた人間であろうと優しい気持ちがなければ上手くいくものも全て無駄になってしまう。リティシア嬢だって人に優しくする為にワインを利用しただけだ。父さんは…絶対に間違っている!」


 感情が高ぶり、思わず大きくなってしまった俺の声が、広い玉座の間に響き渡る。俺の必死な叫びにも関わらず、父さんはやはり冷たかった。


「アレクシス!…お前と私の関係は分かっているな」


 冷たい眼差しだ。とても息子に向ける目とは思えない。


「…ただの父親と息子だろ」


 分かり合えない事の多いこんな関係でも、血の繋がりのある父さんだ。父さんのようになりたくはないが、国王として君臨する事が出来ているのだから、父親として尊敬すべき点は山程ある。俺がまだまだ未熟なのは、自分自身がよく分かっている。


「違う。この国を治める王と…王子だ。父親と息子という関係だけで終わらせる事は出来ない。…お前は将来私の後を継ぎ、国王となる。だが…甘い考えを持つお前に王位を譲るつもりは一切ない。…よく考えろ、アレクシス。優しい女リティシア国の利益になる女アルターニャ、どちらと結婚すべきだと思う?」


 そして彼は呟く。俺は耳を塞ぎたかった。


 彼から目を背けたかった。


「国の利益になる女…一択だろう?…アレクシス。お前の立場を考えろ。お前は確かに私の息子だが、王子でもある。王である私の考えに従え。そうすれば全て上手くいく」


 国王は、冷酷な声で俺に告げた。


 …違う、どうして分かってくれないんだ。


 …いや、分かる気がないのか。自分が全て正しいと、そう信じている男の目だ。


 実際に全てを手にしているのだから…そう思ってしまうのも仕方ないが、唯一の息子の意見をこんな風に…否定するなんてな。


「…忘れるな、アレクシス。お前は『王』ではない。『王子』であるということを。王に逆らう事は許されない。今はまだ、お前に免じて見逃してやろう…。だがいずれは必ず婚約破棄をさせる。分かったな」


 いくらでも討論を続けたかったのだが、これ以上反論したら俺を惑わせた女としてリティシアが危なくなるかもしれない。適当に返事をしておこう。


「…分かったよ、父さん」


 今はまだ、説得するには力が足りない様だが…いずれその考えをひっくり返してみせる。


 父さん、間違っているのは貴方だ。それをいつか必ず分からせてみせる。


 玉座の間の外に出ると、一人の騎士がゆっくりと俺に近寄ってくる。


 そして彼は周囲に誰もいないのを確認すると、安心した様に話し始める。


「また王に喧嘩でも売ったのか?アレクと王は本当によくぶつかるよな。」


 彼はやれやれといった様子で手を動かしてみせる。俺はそんな彼に力なく言葉を返す。


「…なぁ、俺ってやっぱり…間違ってるのかな。優しさだけじゃ国を治める事なんて出来ないのかな…」


 彼の前で安心したのか、つい弱気な言葉を吐いてしまう。すぐに前言撤回しようとしたのだがそれより早く彼は俺の肩にポンと手を置いてくる。


「大丈夫。アレクは間違ってない。長年の親友の私が保証する。お前はただ、信じた道を突き進めばいい」


 彼の言葉に安心し、同時により決意が固まる。


 そうだよな、俺自身が俺を信じてやらずしてどうする。親友が背中を押してくれるなら、俺はそれに応えるだけだ。


 必ず、父さんの考えを変え…人に優しくできる王になってみせる。
 

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