悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
46 / 209

皇后

しおりを挟む
私が焦ったような声を上げると彼女は頷く代わりに口元に笑みを浮かべてみせる。


 私はドレスの裾を持ち上げ、「皇后陛下にお会いできて光栄でございます」と挨拶をする。


 アルターニャと既に険悪になりかけている中、皇后陛下まで敵に回すわけにはいかないわ。…処刑されたくないもの。ここは普通の令嬢を演じましょう。


「パーティでの事、聞いたわよ。アレクシスと仲良くやっているみたいね」


 彼女はこちらを観察するかのような鋭い眼差しを向けてくる。その真っ赤な瞳に今にも心臓を撃ち抜かれてしまいそうだ。


 …恋じゃないわよ。


「はい。私には大変勿体ない事でございますが、殿下とは仲良くさせて頂いております」


 お願いだから早く行って…!皇后陛下にまで目をつけられたら本当に処刑されちゃうわ。


 私は貴女の息子の幸せを誰よりも祈ってる自信がある。だから、お願いしますどうか見逃して…。


「評判が悪い悪女はアレクシスに相応しくない」なら良いけど「評判が悪い悪女は殺してしまおう」になったら本当に終わりなのよ…!


 不安が跡を絶たず、更に恐怖と緊張によって私の心臓は強く波打っている。


 …何度も言うが、恋じゃない。


「やっぱりそうなのね。アレクシスと仲良くやっているのなら、私としても嬉しい限りだわ。」


 …あれ?


 皇后陛下の意外な言葉に驚き、思わずじっと彼女の顔を見つめてしまう。


 今私を肯定的に言ったって事だよね?お前みたいな悪女と息子が仲良くするなみたいな皮肉じゃなければ普通に仲良くしてほしいって事だと…思うんだけど。


 でもそれはそれでおかしい。私のパーティの事も知っているみたいだし、リティシアの以前の悪行も知っているはずなんだけど…?


 アレクシスとよく似た優しい笑顔のはずなのに、不思議と不気味な感じを覚える。背筋に言い様の無い悪寒が走る。


 皇后は一体何を企んでいるの…?


「…リティシア嬢?顔色が悪いけれど…どうかしたの?」


「…ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません。皇后陛下を前にして少し緊張してしまいました。どうかお気になさらないでください」


 私は貴女の事をめちゃめちゃ気にするけど、貴女は私を気にしなくていいのよ。そっと婚約破棄を後押しするだけでいいからね。本当に余計な事はしないで欲しいわ…。


「ねぇ、提案なんだけど。良いかしら」


「…?はい。どの様なご提案でしょうか?」


「折角外に出たなら城に戻る前に庭園のお花を見に行ってみたらどうかなって思ったの。どの道アレクシスがいないと帰るのは辛いでしょう?そこで時間を潰してみたらどうかしら。庭園のお花は凄く素敵よ。特に赤い花なんかはリティシア嬢の髪色によく似ているの」


 そう笑顔で呟く彼女からは悪意が感じ取れない。感じ取れないのだが、相手が皇后である為に無条件で信用していいものか迷う。


 皇后はリティシアを良く思っていないと思ってたんだけど…もしかしてアレクシスと同じで誰に対しても優しい人なのかな…。でもその可能性はあるよね。小説では容姿くらいしか出てこなかったし…なによりアレクシスを育てた人だから、とっても優しい人なのかもしれない。


 というか適当に断ったら難癖つけられて処刑されるかな…?皇后がどう考えているか全く分からないけど…仕方ない、ここは素直に受け入れるべきね。


「わざわざご提案有難うございます。ではお言葉に甘えて庭園の方へ向かわせていただきます。」


「えぇ。綺麗な花が沢山よ。是非赤い花を探してみてね」


 私は皇后の言葉にふと疑問を感じる。何故そこまで赤い花を主張するのだろうか。なんとなく言外に必ず見ろという意味を含んでいる気がするのである。


 …そんなに私の髪に似てる色なのかしら?


 でも悩んでいても他に行く宛もないし行くしかないか…。さっきアレクと騎士に冗談で言った様に訓練場で暴れる訳にもいかないしね。行き先が出来ただけ幸運だわ。


 …それにしても皇后陛下はここまで自分の竜で来たのかな?ここからお城は結構離れてるし、何のために来たんだろう。騎士の様子をよく見に来る人なのかしら…?


 あっ、いけないまた考え込んでたわね。どんなに考えても答えなんて出ないのに私は考えてばかりだわ。


「分かりました。赤い花ですね。探してみます。改めまして、皇后陛下にお会い出来て光栄でございました。貴重なお時間を割いて頂き、有難うございます。」


 頭を下げる私を見て、「リティシア嬢、本当に礼儀正しくなったのね。以前とは見違えたようだわ」と口元に笑みを浮かべてみせる。…やはり以前の事はちゃんと知っていたらしい。


「勿体ないお言葉有難うございます。」


「折角来たんだもの。色々見て楽しんでいってね。」


 皇后は目元を細め、優しく微笑んでくれる。


 …本当にリティシアへの敵意がないのかしら?だとしたら疑ってて申し訳ないけど…でも疑わないより疑った方が良いわよね。何を隠そう私は嫌われ者の悪役令嬢なんだから。


「はい。有難うございます」


 赤い花、ねぇ…皇后陛下が何度も言うから私も気になってきたわ。そんなに綺麗な花なのかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...