悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
53 / 209

確認

しおりを挟む
急いで門へと向かうと、御者に頼んで馬車を用意させる。俺の思い詰めたような表情に気づいたのか、彼女は終始こちらの様子を窺っていた。


「…悪い、リティシア。帰りは送れそうにない。急ぎで確かめたい事ができたんだ。…一人で大丈夫か?」


 道中に言うと心配させてしまうと思い、直前で彼女にそう告げると、不思議そうな顔をこちらに向けてくる。…すぐに顔を背けたが。


 リティシアを送れないのは不安だが、どうしても今すぐ確かめたい事がある。これ以上彼女を引き止めてはおけないし、彼女自身を不安にさせたくはない。


「あらそう。貴方がいなくてせいせいするわ。」


 彼女のピンク色の瞳が街灯を受けて怪しく光る。今ではこの発言も彼女の性格上のもので、別に敵意がないのだろうと思えた。


「それは良…くはないか。とにかく、ごめん。…リティシアを無事に家まで届けるように。」


「分かりました」


 そう告げると、御者は深く頭を下げてくる。続いてリティシアに目を向けると、ふと彼女の髪飾りが目に入った。


 そこで閃いた俺はこちらに目もくれず馬車に乗り込もうとした彼女を、直前で止める。


「あ、ちょっと待って」と呼び止めた俺を心底不服そうに見つめてくる。


「そのバレッタ、貸してくれるか?」


 彼女が身に着けているバレッタは間違いなく俺が以前渡したものだ。それならば、この方法も使えるはず。


 リティシアは俺の発言に驚いた様子を見せたが、素直にバレッタを外してこちらに手渡してくれる。


「壊したら承知しないわよ」


「分かってる。絶対に壊さない」


 一瞬見せたから返せとでも言うのかと思ったが、彼女は意外にも俺が今から何をするのか興味津々のように思えた。


 …そういえば、魔法を見た時もそうだった。まるで初めて魔法を見たかのような…そんな純粋な瞳をしていた。


 …まぁ、それはあり得ないけどな。


 俺は静かに「守護ルーアクト」と呪文を唱えると俺の手から放たれた水の渦は激しく回りながらバレッタへと綺麗に収納されていく。


 リティシアはまたしても魔法を驚いたように見つめた後、こちらの説明を今か今かと待っているようであった。

 …なんだか親に新しい知識を教わる子供みたいだな。


 その様子を指摘したりしたらまた平手打ちをされそうなので、ここは黙っておく事にする。


「一度だけ…危険を察知した時に俺の水の魔法が発動する。だからなるべく外出する時はそれをつけておいてほしい」


 彼女自身の魔力が凄いので、大抵の事では傷つかないとは思うが、咄嗟のことで判断が遅れるなどという事も考えられる。


 この魔法をかけておけば、俺のいない時でも、水の魔法が独自に危険を察知し、彼女を危険から護ってくれるのである。


 …一回きりというのが難点ではあるのだが、魔法を込める道具のバレッタが小さい為仕方ない。もう少し大きければもう少し多い数の魔法を込められたのだが。


 それでも、ないよりはずっとマシなはずだ。


 強気な態度から周囲に誤解されやすい彼女を、きっと護ってくれる。


 いつか皆が彼女を理解してくれれば良いのだが…彼女はそう望んでいないようにも思えて、そんな日は遠いんだろうなとも思う。


 …だからせめて俺だけでも、彼女をちゃんと理解しようと思う。見かけだけじゃなく、その中身を見ていきたい。


「…余計な事をするのね。私は最強の魔法使いなのよ?危険なんか起こる訳ないじゃないの」


 今日倒れた人間が言う台詞とはとても思えないが、いつもの調子に戻って正直とてもホッとしている。元気で、強いリティシアが一番彼女らしい。


「いくら最強でも油断する事だってあるだろ?そういう時に勝手に発動するから、なるべくつけておいてくれ」


「はいはい。王子様って随分と過保護なのね。分かったわ、適当に着けておくわね」


 ひらひらと手を揺らし面倒くさそうに彼女は告げているが、俺から受け取ったバレッタを即座に髪に着けていた。


 …相当お気に入りらしい。良かった。これなら頻繁に身につけてくれるかもな。


「じゃぁ、リティシア気をつけて。ご両親に遅くまで引き止めて申し訳ないと伝えておいてくれ」


「分かったわ。じゃぁね」


 彼女がバタンと強く扉を閉めるとそれが合図となり馬車はゆっくりと加速し、走り始める。


 馬車の姿が完全に見えなくなった後、俺は素早く呪文を唱え、水の渦を先程の庭園へと飛ばす。水の渦の視界を共有し、こちらへと画像を鮮明に伝える事が出来る。


 …正確には水に視界などないのだが、その付近にあるものを映像として送ってくれるような感覚だ。竜ドラゴンを使って自分が行くよりも、こっちの方が恐らくずっと早いだろう。


 集中し、視界を水の渦へと集中させる。俺とリティシアが見たマギーラックは確かに青い花だった。だが俺の記憶が正しければ、マギーラックは…。


 渦は庭園の奥へと辿り着くと、ある花の前でぐるぐると円を描いて映像を伝えてくれる。


 …やはり、そうか。そういう事だったんだ。先程からずっと考えてた。母さんの言葉の意味を。ようやく…ようやく理解出来た。


 …気づきたくは、なかったけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...