悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
91 / 209

しおりを挟む
 彼女は私達には目もくれず扉に鍵を差し込むとカチャリと音を立てて解除する。


 アルターニャが手に持つ鍵には可愛らしいうさぎのキーホルダーがつけられていた。


 本当にうさぎが好きなのね…ってちょっとまって、ここは貴女の書斎なの?


「リティシア…私には分かるわよ。なんで私が鍵を持っているのか疑問に思ってるみたいね。」


 何故か得意気に胸を張るアルターニャに私は呆れた視線を送る。


「はい…ここはアルターニャ王女様の書斎なんですか?」


「えぇそうよ。使ったことないけど」


 いや使えよ。


 思わず心の中でツッコむだけでなく言葉にしそうになり、慌てて口を噤む。


 全く…典型的な宝の持ち腐れじゃないの…。鍵だけ可愛くして部屋自体は使わないってどういうことなのよ…。


「王女様はご自分の書斎をお持ちなんですね」


「えぇ、そうなんですよ!でも他国のお客様どころか私も一回しか入ったことがなくて中にどんな本があるかすらあんまり把握できていないんです。どれも使わない本ばかりなのでいくらでもお持ちして構いませんわ。」


 いくつあるか把握できていないのに使うか使わないか分かるってどういうことなの…?


 要するに本を読むのが嫌いってことね。


 それとほぼ同じ事を言ったのに私とアレクシスでここまで反応があからさまに変わるのはどうなのよ…。


 別に良いけどさ。アルターニャに目を輝かされても普通に困るんだけどさぁ…。


 まるで少女漫画のヒロインかのように瞳をキラキラと輝かせる彼女に私とアーグレンはただただ呆れるしかない。


 アレクシスはというとその視線の示す意味に全く気づいておらず、なんでほぼ同じ事を言ったのにリティシアと違う反応をするんだろう…という疑問を顔に浮かべていた。


 その疑問、私にも分かるわよ。でもその理由はどう見ても明白なのよアレク…。


 貴方は誰かに好意を与えるのは上手なのに誰かの好意には鈍感なのよね、ホント。主人公から向けられる好意にもなかなか気づかなかったし。


 まぁそこが可愛いところでもあるんだけど…。


 折角小説の世界に入ったからには早めに主人公の好意に気づかせてくっつけてあげようと思ったけど…気づかないできょとんとしてるのを見て楽しむのもアリよね…。


 はっ、ダメダメ、ここは私が楽しむための世界じゃないんだから。それに、そんなことしてたらいつまでたってもアレクが幸せになれないもんね。


「殿下は何冊でも構いませんわ。殿下にはいつもお世話になっておりますので私からのお礼です。好きな本をいくつでもお持ち下さい」


「殿下は」ってところを凄く強調したわね…私には一冊しかやらないぞってことよね。でも一冊で十分よ。今後に役立ちそうな…でなければ面白そうな本を貰っていきましょう。


 アルターニャはアレクシスの返事を待たずに強引に扉の前へと立たせると中に入るように急かし始める。


「さぁ殿下、お入り下さい。私は邪魔にならないように外でお待ちしていますね」


「大変有難いですが…本当に宜しいのですか?私ではなく彼らにお詫びをして下されば私は満足なのですが…」


「構いませんわ。殿下だけでなく彼らにもお詫びをしますのでご安心を」


 最終的に私とアーグレンの視線に押し切られアレクシスは中へと入っていく。


 アルターニャは私に早く入れと目で合図してきたので彼に続いて扉の向こうへ足を踏み入れる。


 そして最後に入ろうとしたアーグレンだけアルターニャの反応が大幅に違った。


「あら、平民あなたに渡す本はないわよ。」


 その言葉にアーグレンは足を止め振り返る。あくまでも平静を装っているが、アルターニャの発言に多少苛立っているようだ。


 …初めからアーグレンに渡す気なんてなかったのね。さっきアレクシスに「彼ら」にあげると言っていたけどそれはただの流れるようについた嘘…ホントとんでもないわこの王女。


「…分かっております。ですが二人の護衛につきたいのですが」


「それも結構。ここは王族の書斎なのよ?何か起こる方が珍しいわ」


 アーグレンの意見をいとも簡単に却下したが、確かにアルターニャの言い分はよく分かる。


 この世に城の中ほど安全な場所はない。


 だが(アルターニャのいる)城の中ほど危険な場所もないだろうとも同時に思う。


「アルターニャ王女様、私は結構ですので彼に…」


「いや私はいい。確かにアルターニャ王女様の言う通りですね。私はここでお待ちしています」


 言いかけたアレクシスを制し、アーグレンは素直に引き下がった。


 アーグレンが我慢する必要なんてどこにもないのに…。


 だが所有者であるアルターニャが言い切ってしまった以上彼に本が与えられることはないだろう。


 こうなれば私とアレクシスで彼が好きそうな本を見つけてあげるしかない。騎士の心得とかそういう本があったら貰ってあげよう。


 …そんな本読む必要すらない気がするけどね。


「聞き分けがいいじゃない。初めからそうしていればいいのよ」


 悪びれる様子もなく口元に笑みを浮かべてみせる彼女を見て私は思う。


 こいつ…もしかして悪役令嬢リティシアに次ぐ悪女なんじゃないの?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

処理中です...