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疑問
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【リティシア】
私がベッドで横になり、アルターニャの城で手に入れた白紙の本を令嬢らしからぬ体勢で眺めていると突然ドアがノックされる。
「…公女様、お聞きしたいことがあるのですが入ってもよろしいですか?」
呼び方からして既に分かるが、アーグレンが訪ねてきたようだ。
「えぇ。何?」
本を置いてからそう答えると、扉がゆっくりと開いた。
聞きたいこと、か…。もしかしたら先程言いかけたことかもしれない。
地味に気になっていたんだけどようやく言ってくれるのね。
私は一体どんなことを言いに来たのかと内心期待しながら彼を見つめる。彼は一瞬私の体勢に驚いたようだがそれについては特に触れてこなかった。
「……公女様がアレクを…アレクシスと呼ぶのはわざとですか?」
あら…気づかれてたのね。
私がわざと呼び方を変えていたってことを。アーグレンと仲良くなるために彼に合わせて呼び方を変えてたのは確かだわ。
「…そうね。もしそうだとしたら…どう思うの?」
呼び方を変えていたことに気づかれても仲良くなる為だったと言えば問題はない。
彼が疑問に思うことは何もないはずなのに…何故かアーグレンの表情は浮かないままだ。
「…初めは公女様が私に合わせてくださってそう呼んでいたのだと思っていました…。ですが、合わせていると考えるにはあまりにも自然に…違和感なく『アレク』という言葉を使っていました。意識して使う言葉ではなく、普段から使っているように感じたんです」
…思っていたよりずっと鋭いのね。
「それなのに公女様ははっきりと…アレクの事を『アレクシス』と愛称ではなく本名で呼んでいました。しかも…わざと冷たい態度もとられていましたよね。私はどちらの公女様が本当なのかと少し混乱しましたが…もうなんとなく分かってきました。彼を愛称で呼ぶほど親しみを感じているのに…内心では彼と距離を置きたいのではないかと」
そう…そこまで辿り着いたの。
流石ね。流石…王家の騎士団長を務めるだけあるわ。
でもその言葉に頷くつもりはない。アレクと距離の近い親友に本音を言えば確実に本人にも伝わってしまうから。
「…公女様はアレクのことを慕っているはずです。見ていれば…分かります。それなのに何故」
「…そんなのどうだっていいでしょ!?」
彼の言葉を遮らなければと直感で感じた私は冷静さを失い、思っていたよりもずっと大きい声が飛び出す。
こんな風に言うつもりではなかったのだが、仕方ない。
私の様子がおかしいことに気づいたアーグレンは怪訝そうにこちらを見つめてくる。私は体勢を変え、ベッドに腰掛けるようにすると彼を強く睨みつけた。
「…公女様?」
「私の気持ちなんて関係ないの。この物語は作られた世界なんだから。貴方には分からない。アレクの親友という立場を貰えた貴方には分からないでしょ!」
暫く私達の間を沈黙が流れ、アーグレンが唯一発した言葉は「…立場を…貰えた?」というものだった。
「アーグレンも、アレクも…皆酷いわ。私は…好きでこんなことをやっている訳じゃないのに!」
分かってるわよ。二人はただ私を心配しているだけ。ただ私に優しくしようとしてるだけなんでしょう。
でもその優しさが苦しい。私の決断をいつもいつも鈍らせる。本当にそれでいいのかって何度も何度も悩んで…こうするしかないんだって自分を説得してきたのに。
こんな風に言われたら私が…私が主人公なのかなって錯覚しちゃうじゃない。
私が私の気持ちだけを優先したらアレクや皆はどうなるの?
きっと物語は徐々に壊れてしまう。怖い。私のせいで何もかもが崩れ去る様さまを見たくなんかない。
今の発言の意図も何故私がここまで感情を高ぶらせたのかもアーグレンには理解ができないだろう。
理解が出来ないはずなのに彼は何故か悲しそうに…ただ黙ってこちらを見つめていた。
「…ごめんなさい。今のは忘れて。」
「……本当はこんなことをお聞きするつもりではなかったんです。こんなに公女様を傷つけてしまうのなら初めからこの質問はするべきではございませんでした。申し訳ございません」
訳も分からず「酷い」と罵倒された立場であるはずなのに彼はただ謝罪した。
何も分からぬ自分にはそれしか方法がないと察したのだろう。理由は不明だが私を傷つけたことは事実だから謝罪しようと…そう思ったのよね。
自分を心配してくれる人を冷たく突き放すなんて…これじゃ本当に…ただの悪役令嬢じゃない。
ダメね、最近は人と関わりすぎて…私の行動に不審感を抱く人がいるみたい。もう少し距離を置かないとね…。
「…これだけは分かって。私はどんな時もアレクのために動いている。呼び方も行動も全部アレクのためにしたこと。これは紛れもない事実よ。…でもこれは本人には絶対に言わないと誓って。いいわね」
これ以上深くは言えない。言っても理解されないだろう。
ただこの言葉でアーグレンは身を引くはずだ。彼は少なからず私に罪悪感を抱いているはずだから。
…ごめんね。今はまだ何も言えないの。
私がベッドで横になり、アルターニャの城で手に入れた白紙の本を令嬢らしからぬ体勢で眺めていると突然ドアがノックされる。
「…公女様、お聞きしたいことがあるのですが入ってもよろしいですか?」
呼び方からして既に分かるが、アーグレンが訪ねてきたようだ。
「えぇ。何?」
本を置いてからそう答えると、扉がゆっくりと開いた。
聞きたいこと、か…。もしかしたら先程言いかけたことかもしれない。
地味に気になっていたんだけどようやく言ってくれるのね。
私は一体どんなことを言いに来たのかと内心期待しながら彼を見つめる。彼は一瞬私の体勢に驚いたようだがそれについては特に触れてこなかった。
「……公女様がアレクを…アレクシスと呼ぶのはわざとですか?」
あら…気づかれてたのね。
私がわざと呼び方を変えていたってことを。アーグレンと仲良くなるために彼に合わせて呼び方を変えてたのは確かだわ。
「…そうね。もしそうだとしたら…どう思うの?」
呼び方を変えていたことに気づかれても仲良くなる為だったと言えば問題はない。
彼が疑問に思うことは何もないはずなのに…何故かアーグレンの表情は浮かないままだ。
「…初めは公女様が私に合わせてくださってそう呼んでいたのだと思っていました…。ですが、合わせていると考えるにはあまりにも自然に…違和感なく『アレク』という言葉を使っていました。意識して使う言葉ではなく、普段から使っているように感じたんです」
…思っていたよりずっと鋭いのね。
「それなのに公女様ははっきりと…アレクの事を『アレクシス』と愛称ではなく本名で呼んでいました。しかも…わざと冷たい態度もとられていましたよね。私はどちらの公女様が本当なのかと少し混乱しましたが…もうなんとなく分かってきました。彼を愛称で呼ぶほど親しみを感じているのに…内心では彼と距離を置きたいのではないかと」
そう…そこまで辿り着いたの。
流石ね。流石…王家の騎士団長を務めるだけあるわ。
でもその言葉に頷くつもりはない。アレクと距離の近い親友に本音を言えば確実に本人にも伝わってしまうから。
「…公女様はアレクのことを慕っているはずです。見ていれば…分かります。それなのに何故」
「…そんなのどうだっていいでしょ!?」
彼の言葉を遮らなければと直感で感じた私は冷静さを失い、思っていたよりもずっと大きい声が飛び出す。
こんな風に言うつもりではなかったのだが、仕方ない。
私の様子がおかしいことに気づいたアーグレンは怪訝そうにこちらを見つめてくる。私は体勢を変え、ベッドに腰掛けるようにすると彼を強く睨みつけた。
「…公女様?」
「私の気持ちなんて関係ないの。この物語は作られた世界なんだから。貴方には分からない。アレクの親友という立場を貰えた貴方には分からないでしょ!」
暫く私達の間を沈黙が流れ、アーグレンが唯一発した言葉は「…立場を…貰えた?」というものだった。
「アーグレンも、アレクも…皆酷いわ。私は…好きでこんなことをやっている訳じゃないのに!」
分かってるわよ。二人はただ私を心配しているだけ。ただ私に優しくしようとしてるだけなんでしょう。
でもその優しさが苦しい。私の決断をいつもいつも鈍らせる。本当にそれでいいのかって何度も何度も悩んで…こうするしかないんだって自分を説得してきたのに。
こんな風に言われたら私が…私が主人公なのかなって錯覚しちゃうじゃない。
私が私の気持ちだけを優先したらアレクや皆はどうなるの?
きっと物語は徐々に壊れてしまう。怖い。私のせいで何もかもが崩れ去る様さまを見たくなんかない。
今の発言の意図も何故私がここまで感情を高ぶらせたのかもアーグレンには理解ができないだろう。
理解が出来ないはずなのに彼は何故か悲しそうに…ただ黙ってこちらを見つめていた。
「…ごめんなさい。今のは忘れて。」
「……本当はこんなことをお聞きするつもりではなかったんです。こんなに公女様を傷つけてしまうのなら初めからこの質問はするべきではございませんでした。申し訳ございません」
訳も分からず「酷い」と罵倒された立場であるはずなのに彼はただ謝罪した。
何も分からぬ自分にはそれしか方法がないと察したのだろう。理由は不明だが私を傷つけたことは事実だから謝罪しようと…そう思ったのよね。
自分を心配してくれる人を冷たく突き放すなんて…これじゃ本当に…ただの悪役令嬢じゃない。
ダメね、最近は人と関わりすぎて…私の行動に不審感を抱く人がいるみたい。もう少し距離を置かないとね…。
「…これだけは分かって。私はどんな時もアレクのために動いている。呼び方も行動も全部アレクのためにしたこと。これは紛れもない事実よ。…でもこれは本人には絶対に言わないと誓って。いいわね」
これ以上深くは言えない。言っても理解されないだろう。
ただこの言葉でアーグレンは身を引くはずだ。彼は少なからず私に罪悪感を抱いているはずだから。
…ごめんね。今はまだ何も言えないの。
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