悪役令嬢リティシア

如月フウカ

文字の大きさ
121 / 209

ティーパーティ編 その7

しおりを挟む
「そう…じゃぁ貴方のお望み通りにしてあげるわ…」


 やめてよ、主人公が悪役に殺されても良いだなんて言わないで。


 主人公は悪役を退治する為に存在するのよ。だから全力で反抗しなさいよ。


 どうしてそんな顔をするの?


 私は振り上げた手を力なく下ろし、魔力を吸収し、身に纏っていた炎を消し去った。


 その光景にヴィオラ嬢がほっとして胸を撫で下ろした様子が見えた。


 彼女は無礼にも王族の袖を掴んでいることにどうやら気づいていないらしい。


 それはアレクシスも同様のようであったが…もしかしたら気づいていながら気にするつもりがないのかもしれない。


 彼は令嬢の方を見向きもせず、ただ黙って私を見つめていた。


「…私が本当に魔法を使ったらどうするの。いくら貴方でもただじゃ済まないわよ」


 いくら彼が男主人公とは言えど、悪役令嬢の魔力に耐えて無傷でいられる保証などない。


 彼は私がある程度の力を持っていることをよく理解しているはずなのに、焦るどころかこちらを止めようともしてこなかった。


 一体…何故?


「分かってたから。お前は…絶対に俺を攻撃しないって」


「…大した自信ね」


 私が嘲笑ってみせても彼は気分を害す様子を見せない。ホントに何者なのよ貴方。


 王子を攻撃しようとした婚約者を少しくらい怒りなさいよね…。


 そして私は彼から視線を背け、事態を把握できずにぽかんと口を開けているデイジー嬢へと向き直る。


「デイジー嬢…」


「はい…?」


「貴女の大切なティーパーティを台無しにしてごめんなさい。今後は私を呼ばない方がいいわ」


「そんなこと…!」


「こんな私を招待してくれてありがとう。楽しかったわ。邪魔者は大人しく消えるわね」


「リティシア様、待って…!」


 デイジー嬢は私の意図にようやく気づき手を前に差し出し私を引き留めようとしてくる。


 彼女に軽く微笑んだ後にアレクシスの横を通り過ぎようとしたのだが、彼は私の腕を掴んだ。


「リティシア、どこへ行く気だ?」


「…そうね。誰も知らないどこか遠くへ…なんてね。…離しなさい」


「嫌だと言ったら?」


「貴方の身体が消し炭になるだけよ」


「…リティシア、お前は本当はそんなこと…」


「貴方何か勘違いしていない?私が貴方を殺さない保証なんて一体どこにあるっていうの?あるとしたら誰が保証してくれるわけ?いいから自分が危険な立場に置かれてることにさっさと気づきなさいよ」


 アレクシスを強く睨みつけるが、彼は動揺するどころか心配そうにこちらを見つめるのみだ。


 彼は私を逃さないように捕まえてはいるが、こちらが痛くならないように強くは力を入れていない。


「…リティシア…」


「…殿下、お取り込み中申し訳ございませんが…リティシア嬢は私と殿下を殺そうとしたんですよ?何故何もお咎めにならないのです…?」


 悪役令嬢に殺されそうになった哀れな自分を庇う様子すら見せず、ただこちらを心配するアレクシスの姿を疑問に思ったのか、不思議そうにヴィオラ嬢が呟く。


 アレクシスはそこでようやく彼女が自分の袖を掴んでいることに気づいたようであった。


「何故リティシアが貴女を怒ったのですか?」


「…え?」


「理由も知らないのに彼女を罰することはできません。今この状況では…私の袖を無造作に引っ張る貴女を罰するしかないように思えますけど?」


 まさかアレクシスから冷たい言葉を浴びせられるとは思っていなかったらしい令嬢は慌てて袖を離し、ドレスの裾を持ち上げ謝罪する。


 どういうこと?


 アレクは誰にでも優しいって設定だったはずなのに。そんな冷たい目を令嬢に向けるなんておかしいわ…。


「も、申し訳ございません、殿下。ですが…」


「リティシア、何があったのかお前の口から聞かせてくれないか」


 彼は再び視線を私に戻し、そう問いかけてくる。それに対する答えは…ただ一つだ。


「…貴方に話す事は何もないわ」


 彼は一瞬傷ついたような表情をすると、何も言わずに私の腕をそっと離した。


 ようやく開放された私は振り返らずに部屋を出ていく。


 そう、ただの一度も振り返らずに。


【アレクシス】


 彼女が出ていくのを止められなかった。


 それにしても彼女は…何故あんなに怒っていたのだろうか。


 あんな風に我を忘れて怒りを顕にするなんて…まるで過去の彼女に戻ってしまったようだ。


 このパーティの主催者らしい、どこかで見たことのある令嬢が扉の向こう側にいた執事らしき人物を呼びつける。


「執事、リティシア様を別室へご案内して。一番良いお部屋に連れて行くのよ!」


「しかしリティシア様はたった今出ていかれ…」


「分かってるわよ!だから早く追いかけてって言ってるの!私のリティシア様をこんな形で帰らせたら承知しないわよ!クビにしちゃうからね!」


 令嬢が執事に凄い剣幕で命令をすると、彼は面食らったように表情を歪ませる。


「わ、分かりましたから落ち着いて下さいお嬢様…」


「早く行きなさい!」


 リティシアと一体どういう関係なのかと問いたくなる程の発言に俺は驚かされる。


 私のリティシア様…?


 いつからリティシアは令嬢の所有物になったのだろうか。


 いやそんなことはどうでもいい。リティシアを追わなければ。あの…かつてのパーティの時と同じように。


 駆け出していく執事と同様に部屋を飛び出そうとしたのだが、誰かが腕を掴んでくる。


 腕を掴んできたのは先程俺の背後に隠れ、被害者であることを主張してきた令嬢だ。


 そして…よく見ればこの顔には見覚えがある。俺と無理矢理婚約しようとしたあの令嬢だ。


「殿下、そんなにリティシア様が大事ですか」


 彼女は俺を見上げる。


「あぁ」


 短く答えると令嬢の手を振り払い、俺は部屋を飛び出した。


 何故だかとても…清々しい気分だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

どうやら悪役令嬢のようですが、興味が無いので錬金術師を目指します(旧:公爵令嬢ですが錬金術師を兼業します)

水神瑠架
ファンタジー
――悪役令嬢だったようですが私は今、自由に楽しく生きています! ――  乙女ゲームに酷似した世界に転生? けど私、このゲームの本筋よりも寄り道のミニゲームにはまっていたんですけど? 基本的に攻略者達の顔もうろ覚えなんですけど?! けど転生してしまったら仕方無いですよね。攻略者を助けるなんて面倒い事するような性格でも無いし好きに生きてもいいですよね? 運が良いのか悪いのか好きな事出来そうな環境に産まれたようですしヒロイン役でも無いようですので。という事で私、顔もうろ覚えのキャラの救済よりも好きな事をして生きて行きます! ……極めろ【錬金術師】! 目指せ【錬金術マスター】! ★★  乙女ゲームの本筋の恋愛じゃない所にはまっていた女性の前世が蘇った公爵令嬢が自分がゲームの中での悪役令嬢だという事も知らず大好きな【錬金術】を極めるため邁進します。流石に途中で気づきますし、相手役も出てきますが、しばらく出てこないと思います。好きに生きた結果攻略者達の悲惨なフラグを折ったりするかも? 基本的に主人公は「攻略者の救済<自分が自由に生きる事」ですので薄情に見える事もあるかもしれません。そんな主人公が生きる世界をとくと御覧あれ! ★★  この話の中での【錬金術】は学問というよりも何かを「創作」する事の出来る手段の意味合いが大きいです。ですので本来の錬金術の学術的な論理は出てきません。この世界での独自の力が【錬金術】となります。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

処理中です...