悪役令嬢リティシア

如月フウカ

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ティーパーティ編 その9

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「…婚約についてか…やっぱりお前は…」


「貴方のお察しの通り、私は貴方との婚約をこのままにしておくつもりはないの。」


「…リティシア、俺のことが嫌いなら…なんで俺を庇ってくれるんだ?あんなに怒ってまで…一体どうして」


「…私の意思は関係ないの。どうせ貴方は私のことなんて綺麗サッパリ忘れるんだから」


 そうよね、貴方には理解できないはず。


 私が貴方を庇っておきながらわざと冷たい態度を取る理由が…。


 でも分からなくていいわ。


 その方がミステリアスな悪役令嬢っぽいもの。


 …理由に気づかれたらきっと余計に私から離れなくなってしまうわ。


 彼は優しい人だから、私が突き放してあげなければずっと側にいてしまう。


 それではダメ。私には使命がある。


 あの日あの時転生したと気づいた時からずっと、私は貴方の幸せだけを祈ってる。


 この世界で何度も何度も助けてもらった恩を、私は絶対に返すのよ。


 例え貴方に嫌われても、私は…。


「…俺がお前を…忘れるわけないだろ?」


「さぁね。その時になってみないと分からないわ。どうせ貴方は私に別れてほしいと泣きつく羽目になるのよ。…そういう運命なんだから」


「さっきからなんでそんなことを言うんだ?運命なんて誰にも分からないだろ…?」


「そうね。じゃぁそう思っていればいいわ」


 私の冷たい発言に流石のアレクシスも表情が曇る。


 しかし彼は悲しむだけで決して怒ろうとはしない。


 普通の人ならとっくに怒っているだろうに。


 怒りをこらえているという様子も見えないし、ただただ私の行動が理解できないようだ。


「リティシア…。お前は本当はそんな人間じゃないんだよな?本当のお前は優しい人なはずなのに…どうしてそんな態度を取るんだ?」


「あら今更ね。貴方と初めて参加したあのパーティの時からずっと…いえ、もっとずっと昔から私はこんな人間なのよ。優しいなんてただの勘違い。いい加減夢から覚めたら?」


 我ながらなんて冷たい発言なのかしらね…。


 自分を心配してくれる人に対してこの仕打ち。最悪だわ。嫌われて当然ね。


 …いっそ嫌ってくれれば楽なのにな。


 …でもやっぱり嫌われたくないな。


 そんなのは私の我儘ね。


 彼は何も言わずにただ悲しそうにこちらを見つめてくるので思わず視線を逸らす。


 早く出ていってくれないかな。
 

 また本音を漏らしたりしたら大変なのよ。


「…時が来れば私と貴方は他人になる。それだけは覚えておきなさい」


「お前は…一体何を隠しているんだ?」


 予想外の質問に私は一瞬動揺したが、それを隠すようにキツく腕を組む。


「…隠してる?笑わせないで。貴方の読みが外れたからって適当なこと言わないでよ」


「適当なんかじゃない。お前はずっと何かを隠してる。…そうだろ?」


「隠してなんかない。早く出てってよ。貴方と話すことはもうないわ!」


 私が話す度に長い髪が揺れ、頬に触れる。感情が高ぶっている証拠だ。落ち着かなければ。


 アレクシスは気づけば目前にまで迫っていて、私を落ち着かせようとこちらの肩を掴もうとする。


 その手を振り払おうと私は自分の手に力を込める。そして勢いよく払い、睨みつける。


 彼の瞳が不安そうに揺らいでいた。


「リティシア、落ち着…」


「出てってって言ってるでしょ!あんたなんかだいっきらいよ!」


 感情に任せて叫んだその言葉が私達のいる部屋に響き渡る。


 彼は振り払われた手をそのままに、俯いていた。


 表情はこちらからはよく見えない。


 見えないが、彼の感情は痛いほどこちらへと伝わってきた。


 私は自分の言ったことが正直信じられなかったが、こうするしかなかったとも思える。


 初めからこう言えばよかったのだ。


 私は貴方が嫌いだから婚約破棄をしようって。


 正しいのよ。これで彼は私のことを忘れて主人公と幸せになれる。


 …なれるはずなのに、どうしてそんな顔をするの?私はそんな顔をさせる為に生きてるわけじゃない。


 別に気にしないって、嫌われてもどうだっていいって…そう言ってよ。


 私のことなんてなんとも思ってないでしょ。


 貴方は優しいから私にも優しくしているだけ。


 分かってよ。


 貴方が好きなのは私じゃない。主人公なのよ。だってそう決まってるんだから。


「……ごめん」


 長い沈黙の末、彼は私の顔を見ることなくそうか細い声で呟いた。


 彼はそれ以上言葉を発することなく、私に背を向けて歩き出す。


 身長が高いにも関わらず、何故だか去っていく彼の背中はとても小さく見えた。


 取り残された私は、デイジー嬢が声をかけるまでただ呆然と立ち尽くしていた。


「リティシア様?」


 彼女に声をかけられ、振り返ると彼女は私の姿を見て怪訝そうな表情を浮かべる。


 その表情の意味が分からずに私が首を傾げると、彼女は手を私の頬に差し伸べてくる。


「…リティシア様…どうして泣いてるんですか?」


「え…」


 デイジー嬢は困ったようにハンカチを取り出すと私の頬を伝う涙を優しく拭き取る。


 何故泣いているのか…そもそも泣いていることにすら気づかなかった私は衝撃で何も言葉を発することができなかった。
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