小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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友宮の守護者編

撃拳

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 アテナは右手を頭へ持っていき、ティアラ状の兜を掴んで取った。それを自身の真横にかざし、指を解いて放す。兜は重力に従って落ち、床を転がると思われたが、地に到達すると同時に轟音を立ててクレーターを穿った。
 その様子を見た原木本は目を疑った。兜はそれほど大きい物ではない。しかし、どう考えても大きさと重さの釣り合いが取れていない。
「何なの? ソレ」
「兵士百人分の重さを持つ兜です」
 超重の武具を外したアテナは、すっきりしたと言わんばかりに首を軽く鳴らしている。
「……戦いの女神様ってそんなバトル漫画の主人公みたいなことするもんなの?」
「古代ギリシャの時代より前ですから、むしろ私が最初と言っても過言ではありませんね」
 少し自慢げに語るアテナに、原木本は感心していいのか呆れていいのか複雑な気分になった。日本の神々にも割りとエキセントリックな存在が多いが、目の前にいる女神もその類なのかもしれない。
 さらにアテナは腰の雑嚢からキッチンペーパーに包まれた物体を取り出した。掌に収まるほどの大きさのそれを、アテナは丁寧に包みを解いていくが、
「……ソレ、何?」
 露になった中身を見て、原木本は先の兜の件と合わせて困惑気味な表情をした。
「不死屋のチーズケーキ(ショートサイズ)です。ここまでの闘いで少々形が崩れてしまいましたが、食べる分には問題ありません」
 女神の掌に乗るショートのチーズケーキは、確かに前半分が潰れてしまっている。しかし、アテナは特に気にする様子もなく、一口、また一口とケーキを齧り、咀嚼して喉の奥に通していった。
「それがあんたにとっての増強剤ドーピングざいってこと? ボクが使った『羅刹天の霊符』と同じように」
「いいえ、まったく」
「!?」
「ただの好物です」
 アテナのあっさりした解答に、原木本は余計に当惑した。この戦いの女神を名乗る者は一体なんなのか。冷静沈着のようでいて自由奔放。華奢に見えて剛力。大人びた美しさを持つ割になぜか子どもっぽさを感じる。それなりに長く生きて様々な敵と相見えてきたが、ここまで戦いにマイペースを貫く相手はいなかった。
「フゥ、クキからの供物というのが残念ですね。どうせならユウキからの供物であれば、もう少し力を出せるのですが……」
(クキって誰だよ)
 この上まるで関係のない人物の名を出され、原木本は心の中でツッコミを入れた。
「これで気合は入りました」
 チーズケーキを平らげたアテナが向けてきた眼を見て、原木本はわずかに足を退いた。背中に薄ら寒いものを感じ、一瞬その場から飛び退こうとしてしまった。それまでとは違うアテナの雰囲気に気圧されたのだ。
 原木本の抱いていたアテナの奇抜な行動への戸惑いは、その時には跡形も無く消し飛んでいた。
 チーズは古代ギリシャにおいて、神々への供物とされてきた食べ物である。それを摂ることで精神の高揚を図った戦いの女神は、胸の前に右拳をかざし、支えるように左手を添えた。
「ハアアアァ!」
 アテナが纏っていた気迫がさらに増し、周囲の空気が震え始める。単に雰囲気だけでのことではない。闘場となっている大食堂の空気が、パチパチと小さく音を立てて弾けていた。アテナの右拳から発せられる、電撃の瞬きによって。
「……雷の力?」
「そう、我が父より譲り受けた、あらゆる物を破壊せしめる力……」
 世界さえも滅することができるゼウス伝来の雷槍ケラウノス。全盛期よりも力が落ちてしまった今のアテナでは、結城との融合なしに雷槍として使うことはできない。だが、本来の用途でなくとも、その一端を雷撃の力として拳に纏わせることはできる。全身全霊をかけた右ストレートに、雷槍の力を織り交ぜたフィニッシュブロー。現時点でアテナが単体で引き出せる最大の力だ。
「これが私からの返礼です。あとはあなたの拳と私の拳、どちらが強いか競うのみ!」
「へぇ、心得てるね女神様。鬼ってさ、そーゆー分かりやすいのが大好きなんだよ!」
 準備を終えた両者の拳が腰だめに構えられる。互いに使うのは右拳のみ。かたや全ての妖気を純粋な力に換えて込めた鬼の拳。かたや全能の神より賜った万物破壊の力を込めた戦女神の拳。間違いなく、どんな強者の追随も許さない、最強の力のぶつかりあいだった。
 どちらが最後に立っているか、もはや天さえも結末は分からない。
(イザ―――)
(勝負―――)
 アテナと原木本、双方の右足が瓦礫を跳ね飛ばし、標的へ向かって一直線に突進する。狙いをつける必要はない。ただ相手に拳を突き出せばいい。行き着く先は互いに同じ。自身の持てる最大最強の二つの攻撃が、まるで示し合わせたかのように一点で交錯する。
 その時、友宮邸全体が文字通り『震えた』。
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