小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

媛寿の後悔

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「は~~~~~……」
 自室のベッドでうつ伏せになり、枕に顔をうずめた媛寿えんじゅは、腹の底から空気をしぼり出さんばかりの溜め息を吐いた。
 今はコレクションをでることも、マンガの新刊を読むことも、贔屓ひいきにしている番組を鑑賞する気にもなれない。結城ゆうきを変に疑ってしまったことを、媛寿はひたすら後悔していた。
 つまるところ、たまたま知り合った相手の依頼を受けることになり、その相手があまり人が多いと話しづらいか何かの事情があったために、結城一人で会っていたということなのだろうと、媛寿は推察していた。そういう事例は以前にも何度かあったからだ。
 その場合、結城は少し気を回しすぎることもあり、隠すわけではないが媛寿たちにも秘密にする時があった。あくまで極端に少数の事例ではあるが。
 それならそれで前もって言ってほしいとも媛寿は思うが、結城の性格からすると、依頼人や媛寿たちも気遣きづかった上でそうしたと考えられるので、強く言うこともできない。
 結城の良くも悪くも優しすぎるところが、媛寿が結城の元に居続けている理由でもある。
「ふっぐ~~~~~……」
 そういった結城の美点であり、欠点でもある部分を失念していたことが、媛寿に殊更ことさら重くかかり、ベッドに転がったまま起き上がれなくしていた。
 結城の向かった先を確認した後、クロランを『喫茶・砂の魔女』まで送り届け、古屋敷ふるやしきに戻ってからの媛寿はずっとこんな感じだった。一応、シロガネが用意していた昼食は食べたわけだが。
(ゆうきとかお、あわせづらいな~……)
「―――じゅ」
(しょうじきにいったら、ゆうき、おこるかな~……)
「―――んじゅ」
(どうしよ~……)
「媛寿?」
「ふぁっ!?」
 耳元で名前を呼ばれたことと、その名前を呼んでいたのが結城だと気付いた二重の驚きで、媛寿は枕と一緒にベッドから転げ落ちた。
「ゆ、ゆ、ゆうき!?」
「どうかしたの、媛寿? 寝てたわけじゃなかったみたいだけど」
「ど、どうかしたのって……へ、へやにはいるときはのっくぐらいしてよ!」
「ノックならしたよ。返事がなくて様子を見たら、媛寿がベッドにいたから声をかけたんだ。もしかして調子悪いとか?」
「そ、そんなこと……ないけど……」
 媛寿は枕を頭にかぶるようにして、なるべく結城から目をらそうとした。クロランの助けまで借りて結城を尾行けたことは、やはり後ろめたくて仕方ない。
「そう。じゃあリビングに来てくれる? アテナ様がいないけど、ちょっと依頼が入ったから、みんなにそのこと説明したいんだ」
 媛寿の態度を特に不審に思わず、結城は依頼のことを口にした。
 それが聖フランケンシュタイン大学病院で会っていた相手のことだとすぐに気付き、媛寿はさらに目を伏せるようにした。
「? どうしたの? やっぱり調子悪い?」
「な、なんでもな~いも~ん。さっ、おしごとおしごと」
「……変な媛寿」
 落ち込んでいたかと思えば、不自然に明るくリビングへと向かっていく媛寿を見ながら、結城は首をかしげていた。


「……」
 薄暗い部屋の中で、その人物はテーブルに置かれた小さな薬瓶を見つめていた。
 最小サイズのアンプルよりも小さい薬瓶の中には、鮮血のように赤い液体が封入されている。
 その人物は感情のない目で瓶を見つめた後、それを作った者に、ヴィクトリア・フランケンシュタインに目を移した。
「致死量は?」
「針の、先、ほどでも、死に、至る」
 薬瓶の中身について、ヴィクトリアは淡々と答える。
 回答を聞き、一瞬だけ、その人物の瞳が揺らいだ。胸元に仕舞っていたペンダントを取り出し、カバーを開いて収められていた写真と向き合う。
「ようやく……ようやくかたきが討てるよ……」
 写真の中にいるその人に、天に召されたであろうその霊に、ささやくように語りかける。
 そうした様子を、ヴィクトリアは珍しく感情的に、哀しさをたたえた目で見つめていた。
 その人物が抱いているのは、憤怒や憎悪すら超えた、狂気に近い復讐心とわかったからだ。
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