309 / 464
竜の恩讐編
媛寿の後悔
しおりを挟む
「は~~~~~……」
自室のベッドでうつ伏せになり、枕に顔を埋めた媛寿は、腹の底から空気を搾り出さんばかりの溜め息を吐いた。
今はコレクションを愛でることも、マンガの新刊を読むことも、贔屓にしている番組を鑑賞する気にもなれない。結城を変に疑ってしまったことを、媛寿はひたすら後悔していた。
つまるところ、たまたま知り合った相手の依頼を受けることになり、その相手があまり人が多いと話しづらいか何かの事情があったために、結城一人で会っていたということなのだろうと、媛寿は推察していた。そういう事例は以前にも何度かあったからだ。
その場合、結城は少し気を回しすぎることもあり、隠すわけではないが媛寿たちにも秘密にする時があった。あくまで極端に少数の事例ではあるが。
それならそれで前もって言ってほしいとも媛寿は思うが、結城の性格からすると、依頼人や媛寿たちも気遣った上でそうしたと考えられるので、強く言うこともできない。
結城の良くも悪くも優しすぎるところが、媛寿が結城の元に居続けている理由でもある。
「ふっぐ~~~~~……」
そういった結城の美点であり、欠点でもある部分を失念していたことが、媛寿に殊更重く圧かかり、ベッドに転がったまま起き上がれなくしていた。
結城の向かった先を確認した後、クロランを『喫茶・砂の魔女』まで送り届け、古屋敷に戻ってからの媛寿はずっとこんな感じだった。一応、シロガネが用意していた昼食は食べたわけだが。
(ゆうきとかお、あわせづらいな~……)
「―――じゅ」
(しょうじきにいったら、ゆうき、おこるかな~……)
「―――んじゅ」
(どうしよ~……)
「媛寿?」
「ふぁっ!?」
耳元で名前を呼ばれたことと、その名前を呼んでいたのが結城だと気付いた二重の驚きで、媛寿は枕と一緒にベッドから転げ落ちた。
「ゆ、ゆ、ゆうき!?」
「どうかしたの、媛寿? 寝てたわけじゃなかったみたいだけど」
「ど、どうかしたのって……へ、へやにはいるときはのっくぐらいしてよ!」
「ノックならしたよ。返事がなくて様子を見たら、媛寿がベッドにいたから声をかけたんだ。もしかして調子悪いとか?」
「そ、そんなこと……ないけど……」
媛寿は枕を頭に被るようにして、なるべく結城から目を逸らそうとした。クロランの助けまで借りて結城を尾行けたことは、やはり後ろめたくて仕方ない。
「そう。じゃあリビングに来てくれる? アテナ様がいないけど、ちょっと依頼が入ったから、みんなにそのこと説明したいんだ」
媛寿の態度を特に不審に思わず、結城は依頼のことを口にした。
それが聖フランケンシュタイン大学病院で会っていた相手のことだとすぐに気付き、媛寿はさらに目を伏せるようにした。
「? どうしたの? やっぱり調子悪い?」
「な、なんでもな~いも~ん。さっ、おしごとおしごと」
「……変な媛寿」
落ち込んでいたかと思えば、不自然に明るくリビングへと向かっていく媛寿を見ながら、結城は首を傾げていた。
「……」
薄暗い部屋の中で、その人物はテーブルに置かれた小さな薬瓶を見つめていた。
最小サイズのアンプルよりも小さい薬瓶の中には、鮮血のように赤い液体が封入されている。
その人物は感情のない目で瓶を見つめた後、それを作った者に、ヴィクトリア・フランケンシュタインに目を移した。
「致死量は?」
「針の、先、ほどでも、死に、至る」
薬瓶の中身について、ヴィクトリアは淡々と答える。
回答を聞き、一瞬だけ、その人物の瞳が揺らいだ。胸元に仕舞っていたペンダントを取り出し、カバーを開いて収められていた写真と向き合う。
「ようやく……ようやく仇が討てるよ……」
写真の中にいるその人に、天に召されたであろうその霊に、囁くように語りかける。
そうした様子を、ヴィクトリアは珍しく感情的に、哀しさを湛えた目で見つめていた。
その人物が抱いているのは、憤怒や憎悪すら超えた、狂気に近い復讐心と判ったからだ。
自室のベッドでうつ伏せになり、枕に顔を埋めた媛寿は、腹の底から空気を搾り出さんばかりの溜め息を吐いた。
今はコレクションを愛でることも、マンガの新刊を読むことも、贔屓にしている番組を鑑賞する気にもなれない。結城を変に疑ってしまったことを、媛寿はひたすら後悔していた。
つまるところ、たまたま知り合った相手の依頼を受けることになり、その相手があまり人が多いと話しづらいか何かの事情があったために、結城一人で会っていたということなのだろうと、媛寿は推察していた。そういう事例は以前にも何度かあったからだ。
その場合、結城は少し気を回しすぎることもあり、隠すわけではないが媛寿たちにも秘密にする時があった。あくまで極端に少数の事例ではあるが。
それならそれで前もって言ってほしいとも媛寿は思うが、結城の性格からすると、依頼人や媛寿たちも気遣った上でそうしたと考えられるので、強く言うこともできない。
結城の良くも悪くも優しすぎるところが、媛寿が結城の元に居続けている理由でもある。
「ふっぐ~~~~~……」
そういった結城の美点であり、欠点でもある部分を失念していたことが、媛寿に殊更重く圧かかり、ベッドに転がったまま起き上がれなくしていた。
結城の向かった先を確認した後、クロランを『喫茶・砂の魔女』まで送り届け、古屋敷に戻ってからの媛寿はずっとこんな感じだった。一応、シロガネが用意していた昼食は食べたわけだが。
(ゆうきとかお、あわせづらいな~……)
「―――じゅ」
(しょうじきにいったら、ゆうき、おこるかな~……)
「―――んじゅ」
(どうしよ~……)
「媛寿?」
「ふぁっ!?」
耳元で名前を呼ばれたことと、その名前を呼んでいたのが結城だと気付いた二重の驚きで、媛寿は枕と一緒にベッドから転げ落ちた。
「ゆ、ゆ、ゆうき!?」
「どうかしたの、媛寿? 寝てたわけじゃなかったみたいだけど」
「ど、どうかしたのって……へ、へやにはいるときはのっくぐらいしてよ!」
「ノックならしたよ。返事がなくて様子を見たら、媛寿がベッドにいたから声をかけたんだ。もしかして調子悪いとか?」
「そ、そんなこと……ないけど……」
媛寿は枕を頭に被るようにして、なるべく結城から目を逸らそうとした。クロランの助けまで借りて結城を尾行けたことは、やはり後ろめたくて仕方ない。
「そう。じゃあリビングに来てくれる? アテナ様がいないけど、ちょっと依頼が入ったから、みんなにそのこと説明したいんだ」
媛寿の態度を特に不審に思わず、結城は依頼のことを口にした。
それが聖フランケンシュタイン大学病院で会っていた相手のことだとすぐに気付き、媛寿はさらに目を伏せるようにした。
「? どうしたの? やっぱり調子悪い?」
「な、なんでもな~いも~ん。さっ、おしごとおしごと」
「……変な媛寿」
落ち込んでいたかと思えば、不自然に明るくリビングへと向かっていく媛寿を見ながら、結城は首を傾げていた。
「……」
薄暗い部屋の中で、その人物はテーブルに置かれた小さな薬瓶を見つめていた。
最小サイズのアンプルよりも小さい薬瓶の中には、鮮血のように赤い液体が封入されている。
その人物は感情のない目で瓶を見つめた後、それを作った者に、ヴィクトリア・フランケンシュタインに目を移した。
「致死量は?」
「針の、先、ほどでも、死に、至る」
薬瓶の中身について、ヴィクトリアは淡々と答える。
回答を聞き、一瞬だけ、その人物の瞳が揺らいだ。胸元に仕舞っていたペンダントを取り出し、カバーを開いて収められていた写真と向き合う。
「ようやく……ようやく仇が討てるよ……」
写真の中にいるその人に、天に召されたであろうその霊に、囁くように語りかける。
そうした様子を、ヴィクトリアは珍しく感情的に、哀しさを湛えた目で見つめていた。
その人物が抱いているのは、憤怒や憎悪すら超えた、狂気に近い復讐心と判ったからだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
ダンジョン学園サブカル同好会の日常
くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。
まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。
しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。
一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる