小林結城は奇妙な縁を持っている

木林 裕四郎

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竜の恩讐編

伯爵の血を継ぐ者 その4

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「……そう。退く気はないってわけね?」
 マスクマンの失われるどころか、逆に強くなった戦意を感じ、ルーシーはそれを確かめるつもりで聞いた。
「YΞ。Tπ4↑NΛ1↓(ああ。オレも、他の奴らも、退くつもりはない)」
 それに対して、マスクマンもはっきりと肯定こうていする。
「じゃ、しょうがないか。降参ギブアップしてくれるなら見逃してあげようと思ったけど――――――まともに動けない身体カラダにしてあげる」
 前髪をき上げたルーシーの眼は、これまでとは比較にならないほどの殺気を放っていた。
 常人なら魅了の力も相まって、ルーシーに触れることなく敗北をさとり、平伏していたことだろう。
 だが、あくまで人が負の方向へ進化した形態カタチである吸血鬼では、原初の精霊の一柱であるマスクマンを魅了することはかなわない。
 マスクマンは平然と相対しているが、純粋な戦闘においては相性バランスが良くないのも知っている。
 吸血鬼の不死性を高める能力を獲得しているルーシーを倒すには、マスクマンの通常戦法では決め手に欠ける。
 ましてや、マスクマンはルーシーの能力を知らない。
 能力を知られないことで、ルーシーは吸血鬼の中でもより不死身と認知され、畏怖いふされる存在となりたのだ。
(大抵は心臓、でなければ脳を急所と断じて狙ってくる。けどわたしは基本脊髄せきずいに最大の致死率を割り振っている。心臓と脳を破壊しても死なないと分かれば、ほとんどが降参するところだけど……随分な気骨ね)
 擬似的な不死性ではあれど、ルーシーの生命力を目の当たりにしても、マスクマンは退くどころか揺らぎもしない。
 そういったマスクマンの珍しさを、ルーシーは戦いの最中さなかであれ、高く評価していた。
(まぁでも、こっちも依頼しごとなんでね)
 ルーシーが投げ針を右手に備えるのと、マスクマンが突撃を開始するのはほぼ同時だった。
 マスクマンは駆けながらブーメランを放つが、それは真横へと飛んで行き、まるでルーシーを狙っているようには見えない。
 ルーシーもブーメランの軌道を目で追ったが、自身に定められて放たれたものではないとすぐに判断できた。
 当のマスクマンは丸腰のまま、ルーシーに対して一直線に向かってくる。
 武器もなく、左手も喪失そうしつしたまま、ただ突撃してくるだけのマスクマンに、ルーシーは大いに失望した。
 気骨を見せた割には単なる玉砕だったと。
 これ以上はつまらない戦いになると考えたルーシーは、早々に終結させるべく、針をマスクマンの脚部へ重点的に投げた。
 だが、マスクマンはももに、ひざに、すねに針を打ち込まれても、構うことなく前進してくる。
 脚部だけでは足りないと判断したルーシーは、今度はどうに、肩にと針を投擲とうてきするが、それでもマスクマンは止まらない。
(このっ! こうなったら!)
 ごうやしたルーシーは、鋭い爪による刺突しとつで、マスクマンの胴を貫こうと構える。
 もはや間合いは数歩のところまで詰まり、投げ針は意味を成さない。
 あと一歩でルーシーが爪を突き出せるという時―――――――――空気を切り裂いてかし製のブーメランが飛来した。
 それも、マスクマンが投げた方向とは、完全に真逆の方向から。
 ルーシーは一瞬だけ困惑したが、すぐにブーメランが大きく迂回うかいしてきたのだとわかった。
 それも、やはりルーシーに当たる軌道ではないと見抜き、危険度はないと考えた。
 しかし、マスクマンの狙いはここからだった。
 ブーメランの軌道は下がり、地面をうように飛んでいた。
 そしてその先で、刃先が地面にめり込んでいた手斧のつかに命中した。
「!?」
 ルーシーが驚いた瞬間、手斧は回転しながらマスクマンの右手におさまり、渾身こんしんの一撃が振り下ろされた。
 黒曜石のやいばは再びルーシーの心臓を斬り裂いたが、脊髄が弱点いまのルーシーにとってはそれほどのダメージがあるわけでもない。
上手うまくやったと思うけど、わたしがこの程度で死なないってまだ解ってない?」
「YΩ。DΦ4↓――――――BΘ!(ああ。死なないだろうな――――――だが!)」
 マスクマンは手斧をルーシーから引き抜くと、すかさず傷口に右手を突きこんだ。
「Tξ?(これならどうだ?)」
「あぁ! んぅ……」
 ルーシーはこれまでにない感覚に、体をびくりとねさせた。
 再生する寸前だった心臓を、マスクマンの右手が鷲掴わしづかみにしてきたのだ。
「し、心臓を……つかまえたところで……わ、わたしを殺せるわけじゃ……!?」
 再び手刀を構えようとしたルーシーだったが、その時になってようやく上空そらの異変に気付いた。
「KΞ2→。KΛ1↑(このままじゃお前を殺せねぇさ。このままじゃな)」
 ルーシーをにらむマスクマンの単眼が、より強い輝きを放ち始めていた。
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