慈愛と復讐の間

レクフル

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復讐の女神

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 王城の執務室で、国王のフェルディナン・ダルクヴァイラーは従者により報告を受けていた。

 最近のフューリズの行動には思うところがあり、常に監視させていたのだ。


「ではフューリズがそう指示したのだな……」

「はい。間違いありません。それによりローランは実行に移しました。周りでフューリズ様に野次を飛ばしていた者達も全て、粛清されました」

「それが粛清等と言えるのか!」

「……申し訳ございません……」

「すまぬ……お前に言ったのではない……それで被害報告は?」

「それが……今回の事で負傷した者は13名程いたのですが、誰もがこの事に関して意義を唱えなかったのです」

「なに? では皆が軽症だったのか?」

「いえ……目を潰され失明した者が子供を含め3名、首を切られ声を失った者5名、腕を切断された者2名、足を切断された者3名です」

「そんな事をっ?!」

「はい……報告によりますと、フューリズ様はそれを微笑んで見ておられたのだとか。実行したローランは涙を流しながら、フューリズ様に抗えずにそうせざるを得ないといった様子だったと……」

「なんと酷い事を……しかし、そこまでされて何故みな抗議せぬのだ? 相手が貴族とはいえ、理不尽であろう?」

「それが不可解なのです。怪我を負わされた者、そしてそれを周りで見ていた者全てが、何も反論せずに、ただフューリズ様の言葉に耳を傾けるようだったと聞いております」

「それが……慈愛の女神の力……なのか……?」

「分かりません……」

「だが……」

「えぇ……慈愛の女神の生まれ変わりであるならば、ここまでの事はされないのではないかと……」

「お前もそう思うか」

「恐れながら……」

「しかし、他にはない力を持っているのは確かなようだ。フューリズはもうすぐ9歳だったか。まだ能力の覚醒はしておらぬのだな。これで能力が覚醒すればどうなるのだ……?」

「予測不可能です。どうなっていくのか……」

「……前に調べるように言ったが、あれはどうなっている?」

「はい。現在も調べているところでございます。預言者ナギラスの消息は掴めず、捜索を続けております。フューリズ様が生まれた日に生まれた赤子ですが、現在一人のみ確認しております。しかし所在は不明で……」

「一人? それだけなのか?」

「はい。国内はほぼ確認できておりますが、現在一人のみとの報告を受けております。他国の諜報員からの報告も入ってきておりますが、それでも一人のみとの事でございます」

「そんな事があるのか……」

「因みに、国内のみで平均一日、約五千人程の出生率でございます」

「毎日五千人生まれているのに、その日だけは二人?!」

「はい。奇妙な事に……」

「ではフューリズ以外の赤子は何処の誰の子だというのだ?!」

「それは、アメルハウザー辺境伯の邸にいた魔女の娘だそうです」

「同じ邸に同じ日、二人が生まれたというのか?!」

「はい。しかし、その魔女の子は赤毛に赤い眼であったと……」

「では違うのか……いや、しかし……」

「私も気になり調べました。しかし、魔女は邸から赤子と共に逃げ出したようで、現在は行方が分かっておりません」

「そう、か……その者の捜索を続けるのだ。して、慈愛の女神の事について、何か分かった事はあるか」

「これも現在調べを進めているところでございます。分かっている事だけ述べさせて頂きます。その昔、慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に誕生してから、魔物に溢れたこの世界から一切の魔物が消滅したのだとか」

「魔物が消滅……しかし魔物は天変地異によって絶滅したのではなかったのか?」

「我が国ではそのように言い伝えられておりましたが、調べたのは他国での文献でして、そこにはそのように記載されておりました」

「そうか……で、他には?」

「はい。慈愛の女神の生まれ変わりが誕生する時、対になる存在も誕生するのだとの文献を見つけました」

「対になる存在?! それはどんな存在なのだ?!」

「はい。それは復讐の女神の生まれ変わりです」

「復讐の女神……! ではもう一人の赤子がもしや……」

「その可能性はあるかと思われます。が……慈愛の女神は慈悲深く、全てのものを許し愛し癒し、優しく包み込んでいく存在であるとの事ですが、復讐の女神は、執念深く、全てのものに嫉妬し怒り妬み許さず、恐怖を与えていく存在なのだと書かれておりました」

「それではまるで復讐の女神はフューリズを……っ!」

「連想させます、ね……」

「しかしもう一人の赤子は黒髪ではなく……」

「はい。赤髪でございます」

「とにかく、その魔女とその娘を探しだすのだ! 早急に!」

「は、畏まりました!」


 フューリズの愚行にはフェルディナンも頭を痛めていた。こんな事が続けば、王都の治安はどうなるのか。今回は誰も抗議する事はなかった。それにも疑問が生じるが、そんな事はそう続かないかも知れない。
 
 いや、それよりも何故王都へ赴く事になったのか。

 フューリズの周りにいる者達は、一流の者で固めている。技術等もそうだが、王に対しての忠誠心もそうだった。だからフューリズを容易く邸の外に出すなんて事はしない筈なのだ。

 この事態を重く受け止めねば……そう国王フェルディナンは思う。

 まだ何の確証もない。しかし、もし慈愛の女神の生まれ変わりが紛うことなくフューリズであったのなら、迂闊な事は出来ない。

 だが今のこの現状をこのままにしておくのは決して得策とも思えない。どうにかしなければ……

 フェルディナンはこの王城に住まう魔女を呼び出した。この王城では魔女は3人確保しており、どの国の魔女よりも能力は高いと言われている。
 
 呼び出した魔女達に、フェルディナンは魔道具の製作を命じた。魔女達からすれば王から直接声をかけて貰う等あり得ない事だったので、王命を告げられた事に大きな喜びを感じた。これより、何をおいてもその魔道具を早急に作り出す事となる。

 一方その頃、騒動があった露店の場所にいた者達に異変が起こっていた。

 フューリズが指示し、人々に危害を加えた現場を見た者はフューリズに恐怖し、皆が口を噤むようになったのだ。それは少しずつ少しずつ人々へ伝染していく。ジワジワと人から人へと病が感染していくように、フューリズを見たこともない者までもが、その存在に恐怖し従おうとする。

 そうやって少しずつ少しずつ、人々はフューリズに侵されていったのだった。

 


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