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婚約式
しおりを挟む王命により作り出された魔道具。それは能力を制御する物だった。
あまりにも増長するフューリズの愚行に、フェルディナンはそれを抑制しようと考えての事だった。
出来上がったのは首飾り。銀色に輝くそれは美しい装飾がされてあって、宝石が埋め込まれているように見えた。だが宝石と見える石は魔石であり、それが能力を抑えつけるのだ。
そういえばフューリズは赤子の頃から腕輪をしていた事を、ふとフェルディナンは思い出した。
生まれてすぐに自分の元から連れて行かれる娘にブルクハルトが与えた物だと思っていて、そんな父親の想いが詰まった物なんだと、フェルディナンはその時微笑ましく感じたのを思い出す。
そんな愛情の込もった贈り物と全く意味あいの違う物を装着させることに躊躇したが、これは仕方のない事なんだと自分に言い聞かした。
フューリズの愚行に頭を痛めていたフェルディナンだったが、赤子の頃からその存在を知っているのだ。自分に何かされた訳でもないし、会っている時のフューリズはまだあどけない少女にしか見えない。
そんな少女に能力を制御させる物を与えようとする事に心が痛むが、それ以上にフューリズは人々を傷付けている。迷うこと等以ての外なのだと思い直し、意を決した。
魔道具は一度着ければそう簡単には外せない。これはある意味呪いに似た性質を持つ。着けた本人、もしくは高名な術者であれば外す事は可能だろうが。
そして、装着すれば体に馴染み、成長課程で体が大きくなろうとも、それに合わせて魔道具も大きさを変えていく。そうして体に密着していくのだ。
数日後にはフューリズの誕生日だ。その日は毎年、王城にて盛大に祝いを行う。そしてその日にヴァイスと婚約式を行うように日取りを決めていた。
婚約式にはブルクハルトも来る。フューリズはいつも父親が来てくれるのを心待ちにしている。そんな日にとは思ったが、贈り物として魔道具を渡すのに適した日だと思われた。
ーそして婚約式当日ー
真新しい真っ赤なドレスを身に纏い、フューリズは王座の間にいた。
赤の色はこの国の国旗にもなっていて、アッサルム王国を象徴する色として認識されている。
故に、赤のドレスを身に纏うと言うことは、この国に染まる意思があるとみなされる。ここでは赤は王族の色であり、一般人や王族でない者が赤の衣装を着ることさえ許されていない。こうやって王族と婚約する時になって初めて赤の衣装に触れられるのだ。
因みに結婚式では真っ白なドレスを身に纏う習わしとなっている。純真無垢な体と心で嫁ぐ意を表しているのだとか。
フューリズが赤のドレスに対し、ヴァイスは黒の衣装を身に付けていた。婚約者が他国の者であるならば、その国を象徴する色を身に付けるのだがフューリズは自国の出身なので、その場合はその者の髪と瞳の色の衣装と決まっている。そうする事が、こちらも受け入れるという態度で示すとされている。
自分の髪と瞳に自信を持っているフューリズは、ヴァイスが美しい漆黒の衣装に身を包んでいるのを見て嬉しく思った。
ヴァイスもまた、アッサルム王国の象徴である赤の衣装を身に纏ったフューリズを見て胸が高鳴った。
兄であるルーファスの事は気にかかったが、あれから会うことも出来ない状態だった。そんな中、父であるフェルディナンに決定だと告げられ仕方なく受け入れたのだが。
それでも、可愛い妹的な存在と思っていたフューリズがこうやって美しく着飾り、いつもと違う様子を見れば、意識も変わってくるものだ。
まだ幼い二人が微笑みながら見詰め合う様子は、立ち合っている王族やアルメハウザー家の者達は微笑ましく眺めていた。
皆が見守る中、二人は婚約証書にサインをする。そこには既に両家の承諾サインが書かれてあり、これで二人は晴れて婚約者同士となった。
その後、大広間で盛大にフューリズの生誕パーティーが行われた。婚約の御披露目パーティーも兼ねているので、高位の貴族達も集まっていた。
国王フェルディナンはフューリズに不審感を抱えていたが、事前に決まっていた事を確証もなく取り止める事はできなかった。
しかし幼い二人の微笑ましい姿を見れば、自分のただの勘違いなのではないかと錯覚しそうになってくる。
だがそれではダメなのだ。この国を守る者として、しっかりと現実を見なければならないのだ。
今フューリズは父親のブルクハルトのそばで嬉しそうに話をしている。傍から見ると仲の良い普通の親子だ。
「フューリズ、今日はとても美しい。私はお前を誇りに思うよ」
「あらお父様、今日だけですか? いつもはそうじゃないみたいな言い方ですのね」
「あ、いや、そうではない! いつもフューリズは可愛いし美しいよ!」
「ふふふ……冗談です。ありがとうございます! 嬉しいです!」
父親が近くにいるとフューリズの機嫌は頗る良くなる。赤のドレスはこの国の女性達の憧れでもあって、王族と婚約という事よりもそれを着られた事も嬉しかったのだ。
そして、国王からの贈り物を賜った事も嬉しかった。それは銀に光輝く首飾りで、赤の宝石が埋め込まれてあった。赤のドレスに良く似合う首飾りだと思った。それを国王自らが自分に着けてくれたのだ。こんな事は他の人にはない事で、より一層自分が特別だと感じたのだ。
フェルディナンはこの婚約を各国にも知らせる事にした。それはフューリズを守る為だ。
フューリズが王都で行った事に対してフェルディナンは注意をした。そして、王都へは行かないように釘をさしたのだが、それからもフューリズは王都へコッソリ行っている。
あの時のような事は起こっていないが、皆がフューリズに従い、敬うそうだ。
フューリズはバレていないと思っているようだが、常に監視はさせていて、フューリズの行動はフェルディナンに筒抜けだった。
自分の思うように歩ける事が嬉しくて、誰にも制限されず、文句も言われない事が幸せで、フューリズの行動範囲は広がっていった。
それをフェルディナンは危惧した。
その為の厳正だった。
この辺りでは強国のアッサルム王国の王太子の婚約者に手を出したらどうなるか。バカでも分かる事だ。
そして、慈愛の女神の生まれ変わりを手に入れた事を大々的に知らせる事で、この国が更なる強国となることを公言したも同然なのだ。
そんな事とは露知らず、今日のフューリズはご機嫌であった。大好きな父親が傍にいてくれた事と、自分を煩わしく感じていたであろうルーファスと違い、ヴァイスと結婚できる事を嬉しく思った。
その首に輝く首飾りに力を抑え込まれている事など考えもせず。
ただ幸せな状況に酔いしれていたのだった。
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