慈愛と復讐の間

レクフル

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好きの証

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 フューリズに心臓を握り締められたような感じで黒い霧に侵されたブルクハルトは、通常であればヴァイスのようにその場で生き絶えていてもおかしくはなかった。

 だが、事前にリシャルトが張った結界が功を奏して、なんとか即死は免れた。
 それでも胸に黒い霧はジワジワと体を乗っ取ろうとし、それがブルクハルトを苦しめていた。

 リシャルトはフューリズにその場から動けなくされ、すぐに動く事が出来なくなっていた。
 
 騎士達が駆けつけて来てこの状況を把握するも時すでに遅しであり、フューリズは入り口付近にいた騎士を倒して逃げ出した後だった。

 ひとまずブルクハルトを運び出すべく、騎士達が触れようとしたのをリシャルトは止め、すぐに騎士達にも結界を張った。そうしないとブルクハルトを苦しめている黒い霧に侵されるからだ。

 普通では見えないその黒い霧は呪いの霧であり、知らずに触れてしまうと同じように呪いに侵されてしまう。
 それを知ってリシャルトは、騎士にも結界を張ったのだ。

 ブルクハルトをウルスラに見せる為に運び出そうとした所で、ルーファスに出くわした。
 ナギラスは昔見ただけであったルーファスの事を覚えていた。自分が預言した赤子であったルーファスのオーラはそのままであって、一目でその存在を思い出せたのだ。

 しかしルーファスはブルクハルトに触れ、黒い霧に侵されてしまったのだ。

 ブルクハルトからその黒い霧を奪うようにしてルーファスは体に取り込んでしまったようで、その場で倒れてしまった。

 通常であれば黒い霧は広がるのみで、ブルクハルトに呪いは残ったままになるのだが、ルーファスはウルスラから力を得たお陰で、その呪いを広げることなく自身に取り込むのみとなったのだ。

 しかしそれを浄化する事は出来なかった。その力は現在、ウルスラのみが使える力だったからだ。
 そしてそれをナギラスも知っていたからこそ、ブルクハルトをウルスラの元へ連れて行こうとしたのだ。

 ブルクハルトは正常に戻り、ルーファスがその呪いを取り入れて倒れてしまったが為に、急遽ルーファスをウルスラの元へ連れていく事になった。

 バタバタと廊下を駆けている何人もの足音が近づいてきたかと思ったと同時に、言い様のない程の瘴気が近づいてくるのが、自室にいるウルスラにも分かった。

 何事かと思って、すぐに自室から飛び出す。
 
 部屋が勢いよく開けられ、ルーファスがグッタリした状態で運び込まれて来たのを見て、ウルスラは黒い霧で身体中覆われている事に驚いた。

 せっかく少しずつ取り除いていけたのにこんな事になって、なぜルーファスがまたそうなってしまうのかと憤ったのだ。


「慈愛の女神様、お願いします! ルーファス殿下を助けてください! 貴女にしか解呪できません!」

「分かりました! ルーの寝室へ運んでください!」


 すぐに寝室へ運ばれてベッドに横たわらせる。ウルスラが寝室へと言ったのは、そこには薬草の花があって、それが手助けしてくれると考えたからだった。

 どうしてこうなったのか。何があったのか。そんな事を考える間もなく、ウルスラはルーファスの胸に手を当てた。
 
 ウルスラの手から真っ白な光が輝いてルーファスに入り込む。少ししてから入り込んだ光が体から出てきたが、その時は光がどす黒く濁った状態となっていた。
 それがウルスラへと戻ってくる。

 戻った瞬間、身体中に激痛が走る。ウルスラの体を呪いが乗っ取ろうとしているようにうごめいていて、それを自分の力で浄化させなくてはならない。
 淡く光る薬草の花がウルスラを照らすようにして包み込む。それでもなかなか呪いは無くなってはくれなかった。

 その様子を見て、ナギラスは驚いた。ウルスラの髪が淡い青銀色となっていたのもそうだが、生命力も乏しく見え、ルーファスよりもウルスラの方が危うく見えたのだ。


「慈愛の女神様、大丈夫ですか?!」

「ルーは……大丈夫……絶対、たす、ける……」

「貴女がです! 以前より弱々しくなっておられます! なぜそのような姿に?!」

「私は大丈夫……呪い、もうルーにない、から……安心、して……」

「慈愛の女神様!」


 そのまま倒れるようにベッドに突っ伏したウルスラを見てオリビアが駆け付け、涙を流しながら何度も体を擦った。
 オリビアはこの状態のウルスラを何度も見ていて、どう対処すれば良いのか分かっていたのだ。


「侍女殿、慈愛の女神様は大丈夫なのですか?!」

「私は何度もフューリズ様がこうなった状態を見ています。ここからはお任せください。ルーファス殿下も今は休まれた方が良いと思いますので、このままこちらでお二人を休ませます」

「分かりました。では貴女にお任せします。何かあればすぐに連絡してください」


 そう言ってナギラスは地下にいるリシャルトの元へと戻っていった。
 ブルクハルトは呪いが無くなったとは言え、体力が著しく低下していた為、医務室に送られた。

 オリビアはグッタリと横たわるルーファスの横にウルスラを寝かせ、二人に花の光が届くようにする。

 少しでもウルスラから痛みを無くすようにと花に話しかけて、二人の看病をする。

 花のお陰かいつもより痛みがひくのが早かったようで、ウルスラの苦痛に耐える表情が徐々に和らいできたのを見て、オリビアは安心して寝室を出た。

 暫くして目を覚ましたウルスラは、自分がなぜこんな所でいるのか一瞬考えてしまった。
 横にはルーファスが眠っていて、それに戸惑ってしまったからだ。

 それから置かれた状況を思い出し、すぐに自分の部屋へ帰ろうとベッドから出ようとした所でルーファスに腕を掴まれ、またベッドに戻された。


「ウルスラ……か……?」

「ルー……」

「これは……夢か……なぜウルスラがここにいる……」

「ルー、その……大丈夫?」

「ウルスラ……夢もでいい……会いたかった……」

「うん……私も……ずっと……会いたかった……」


 月が雲に隠れて暗い闇の中、花の光だけが優しく二人を照す。ベッドで一緒に寝ていたのは間違いなくウルスラだった。会いたくて会いたくて、探し求めたウルスラが目の前にいる。
 
 そっと手で頬を撫でると、手に温かさが伝わってくる。ウルスラも自分の頬を触ってくれて、ルーファスはそれがとても愛しく感じた。
 
 幼い頃の面影はそのままに、ウルスラは美しい女性となっていた。薄明かりで髪や瞳の色がどうとかは分からなかったが、目の前には焦がれた存在があった。

 ルーファスはウルスラに覆い被さるようにして抱きしめる。ウルスラもルーファスをしっかりと抱きしめた。
 優しくて力強いルーファスの腕はあの頃よりも大きくて、嬉しくて涙が出そうになってしまう。

 
「ウルスラ……もう離れたくない……ずっと傍にいて欲しい……」

「いるよ……ずっとルーの傍にいる……」

「あぁ……ウルスラ……頼む……何処にも行かないでくれ……」

「うん……行かないよ……」

「ウルスラ……愛してる……」

「ルー……私も……」


 優しく微笑むルーファスは、幼い頃のままの笑顔だった。ウルスラも微笑むと、ルーファスはゆっくり唇を重ねてきた。

 初めての口づけにウルスラは驚いて顔を背けてしまう。


「どうした? ウルスラ?」

「な、なんで、唇にこんなこと……!」

「好きだからだ。初めて、か?」

「こんなの、したことない……」

「嫌か?」

「そうじゃない、けど……ビックリして……」

「なら良かった。これは好きの証なんだ」


 そう言ってルーファスはまたウルスラに優しく口づけた。
 唇って柔らかいんだなぁって、ウルスラは思った。

 ルーファスは優しくて温かくて、ウルスラを愛おしむように触れていく。
 それがウルスラは嬉しくて嬉しくて、ルーファスに身を任せた。

 初めて向き合った状態で、お互いをしっかり見つめ合いながら、ルーファスとウルスラは一つに結ばれたのだった……


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