慈愛と復讐の間

レクフル

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夢じゃない

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 自分をフューリズと思っていたルーファスの時とは違って、全てが優しく慈しむようにウルスラは愛されていった。

 ウルスラはそうされた事を、初めて幸せだと感じる事ができたのだ。

 

 気づくと抱き合ったまま眠っていた。まだ外は薄暗く、もうすぐ朝陽が昇る頃なんだろうと思われる。

 ルーファスの腕の中は温かくて、重なった肌は心地よくて、こんなに幸せを感じたのは初めてだとウルスラは思った。

 ルーファスを起こさないようにそっとベッドから抜け出して、服を着てから寝室から出る。

 部屋へ戻ろうとした所でオリビアに見つかった。


「ウルスラ様、お体の調子はいかがですか? もう起き上がっても大丈夫なんですか?」

「うん、オリビア、もう大丈夫だよ。いつもありがとね」

「いえ、それなら良いのですが……そのままルーファス殿下と一緒に眠っておられたら良かったのでは……」

「花の効果は二人より一人の方が効くと思うの。だから私がいちゃダメかなって……」

「ウルスラ様の方が体調はお悪そうでしたよ?! もっとご自分の事を労ってあげてくださいませ!」

「私はもう大丈夫だよ。自分で浄化出来るもの。でも、ルーはそう出来ないの。だから花の効果で隅々まで呪いを無くさせてあげたいの」

「そうでしたか……しかし……ウルスラ様……その……またお力をルーファス殿下に与えられたのですか? 髪が……」

「え……あ、うん……私があげられる物であればって思って……髪、白くなっちゃったね? お婆さんみたいじゃない?」

「と、とても美しい白でございます! 青く澄んだような美しい白でございます! 瞳も空色で、ウルスラ様にお似合いです!」

「うん……ありがとう、オリビア。じゃあ、もう少し眠るね?」


 そう言うとウルスラは幸せそうに微笑んで部屋へと戻って行った。
 オリビアはそんなウルスラの笑顔を初めて見たように感じて嬉しくなった。
 ルーファスはウルスラの事をちゃんと分かったんだと思った。やっと二人は本来あるべき形に収まったのだと安堵したのだ。

 朝陽が目にしみて、ルーファスはゆっくりと目を開ける。

 まだ頭が何やらボーッとしていてハッキリしない。

 そういえばいつ部屋に帰ってきたのかと、昨日の事を辿るように思い出していく。
 瘴気が気になってその場所まで行って……それからアメルハウザー伯がそこにいて苦しそうにしていて……黒い霧のようなモノが胸元からに渦巻いていたからそれを取り除こうとしたら、それが手から自分へ移って……それから意識が無くなった……

 そうか、あれは呪いだったのか……

 しかし、ではあれから自分はどうなったのか……

 呪いをまともに受けて、それでここに連れてこられたのか? 解呪師にでも呪いを祓って貰ったか……

 ひとしきりルーファスは考える。幸せな夢を見ていたような気がする。

 そうだ、ウルスラの夢を見ていたのだ。ウルスラがここに来てくれた夢を見たのだ。この手で抱きしめて、ウルスラと愛し合った夢を見たのだ。

 それはやけにリアルで、まだこの手にウルスラの感触が残っているように感じた。
 もしかしたら、また夢でウルスラに会えるようになれたのかも知れない。そうであるなら、こんなに嬉しい事はない。
 
 そう思った瞬間、視界がハッキリしていることに気がついた。全てがボヤけずにちゃんと見えるのだ。

 体に移った黒い霧も無くなった。目もハッキリしたと言うことは、黒い霧と共に自分の体から全ての呪いが無くなったのだという事だと気がついた。

 それでもまだ体は怠く、そして夢の余韻に浸りたい思いもあって、なかなかベッドから出れずにいた。


「おはようございます。ルーファス殿下、体調はいかがでしょうか?」

「あぁ……オリビア、然程悪くはない。少し怠いくらいだ」

「それでも今日はゆっくり休まれてくださいね。昨日は大変だったんですから」

「そうなのか……あ、昨夜久し振りにウルスラの夢を見たのだ」

「ウルスラ様の、夢……ですか?」

「そうだ。成長したウルスラが私の傍にいてくれたのだ。また昔のように夢で会えるようになったのかも知れない」

「それは本当に……夢……なのでしょうか?」

「なに? オリビア、それはどういう事だ?」

「いえ、その……夢で会われたというのは……違うのではないでしょうか……?」

「オリビア? 何が言いたい? 私が夢で見ていた事は真実ではないと申したいのか……?」

「い、いえ! そうではありません! その、ウルスラ様は本当に……」

「本当に見たのだ! 美しく成長したウルスラをこの目でしっかりとな!」

「え、えぇ! ですから、それは本当にウルスラ様を……」

「もうよい! お前はずっと私が言っていた事を戯言だと思っていたのだな!」

「違います! そんな事等、思っていません!
ただ……その、それは夢ではなく事実でフューリズ様が……っ! うっ……!」

「今はフューリズは関係ない! なぜその名を出すのだ?!」

「は、ぁ……あ、あ、の……それ、は……」

「オリビア? どうした、オリビア!」


 突然苦しみだしたオリビアに、ルーファスは驚いてその場で倒れそうになるオリビアを支えようと、急いで起き上がって抱き止めた。

 息が苦しいのか荒く浅く何度も呼吸をし、体を震わせている。突然の事にルーファスはどうしようかと焦り、背中に手を当て宥めるように撫でると手から淡い緑の光が出て、それがオリビアを包みだした。

 そうなると苦しそうにしていたオリビアの呼吸は元に戻り、体の震えも止まったのだ。

 オリビアが苦しそうなのを何とかしたいとは思ったが、なぜ自分から光が発したのかも分からなかった。その光に包まれたオリビアは、正常に戻ったのにも驚いた。

 
「オリビア……大丈夫か?」

「は、い……もう、大丈夫、です……ありがとうございます……」

「いや……しかし……」

「ルーファス殿下が治してくださったんですよね……?」

「そう、なるのか……しかしこの力……」

「フューリズ様のお力でしょうか……?」

「そうだったのか? だがこの力はいつの間に……」

「それは……」


「昨夜かも知れません」
と言おうとして、また息苦しくなるかも知れない事に恐怖し、オリビアはそれ以上は口にする事が出来なかった。
 
 ウルスラとの事を夢だと思ってしまったルーファスに、それは夢ではなく本当にあった事で、貴方がフューリズと思っている方こそがウルスラなんだと言いたくて言いたくて仕方がないけれど、それを伝える事ができないもどかしさと、それをなぜ気づかないのかと、ルーファスの鈍感さも相まって、オリビアは一人ウズウズした状態となっていた。

 しかし自分でも何も出来なくて、オリビアは不甲斐ない自分に苛立ちながら話を切り上げるしかなかった。

 
「そう言えば……アメルハウザー伯はどうなったのか……」

「アメルハウザー様の事は分かりかねます。昨日何があったのかは私の知るところではありませんでしたので……ただ、ルーファス殿下が運び込まれまして、それをフューリズ様が助けられたのです」

「フューリズが?!」

「は、はい、そうです……!」

「なぜフューリズが私を……」

「フューリズ様は慈愛の女神の生まれ変わりだからではないのでしょうか……?」

「しかし……」


 オリビアの言う事に納得がいかなかった。だが、オリビアが嘘を言う事はない。さっきは自分を否定されたようでついカッとなってしまったが、嘘をつかれた事はないと思っている。

 そう言えば、あの場所には他にも誰かいなかったか。自分が知らない所で何があったのか、それを知りたいと思ったルーファスは、ブルクハルトが何処にいるのかオリビアに確認させた。

 ブルクハルトは現在、昏睡状態にあった。医務室で治療を受けており、面会謝絶となっていた。 

 結界により呪いに侵食はされなかったが、それでもかなりの負担が体にかかっていて、意識を失ったままの状態であった。

 その事はウルスラにも伝えられたのだが、あれからウルスラは体力が戻らず、ベッドから出られない状態が続いていた。

 力の殆どをルーファスに渡してしまい、呪いを浄化させて体力も大きく奪われてしまってからは、思うように力が出なくなってしまったのだ。

 ウルスラと一夜を共にしてから……ルーファスが夢でウルスラと会ったと思ってから、フューリズに会うのにより罪悪感が募るようになったルーファスは、夜に部屋に訪れることを止めてしまった。

 そして目がハッキリ見えてから、自分の髪と瞳がフューリズの様に黒くなっているのを見て、もう力を奪う必要も無くなったから、あんな事をする必要も無くなったと自分に言い聞かせた。

 それでも、ルーファスは複雑な心境のままだった。

 自分を助けてくれたであろうフューリズ。だが長年自分はフューリズに苦しめられていた。そのフューリズから力の大半を奪ってやった。もう復讐は終わったのではないか。
 それでもまだヴァイスの事は解明されていない。
 それよりもフューリズを憎む気持ちが無くなっている自分が許せない。会いたいとも思ってしまう。
 だけど自分にはウルスラがいる。誰よりも、何よりも大切な存在のウルスラがいるのに、フューリズの事を気にかける等あってはならない事だ。
 
 自分の事なのに、自分の気持ちの整理が上手く出来ずに、ルーファスはフューリズに会うことが出来ずにいたのだ。

 オリビアは、フューリズは部屋に籠りきりになり、部屋から出ようとしないと言っていた。
 本当はベッドから出られない程体力が無くなっているのだが、それを言う事をウルスラは拒んだ為、オリビアはルーファスにそれ以上言う事が出来なかった。

 そんな状態であったある日、ブルクハルトは目覚める事なく永い眠りについた。

 それはブルクハルトが昏睡状態になってから、一ヶ月程経った日の事だった。
    


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