慈愛と復讐の間

レクフル

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人でないモノ

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 賑やかさと活気が戻った王都は、現在人々が争う現状へと化していた。

 住人に容赦なく襲い掛かる近隣の街や村の人々。
 子供から老人まで、自分が持てる武器を手にし、否応なしに目についた人を斬りつけていく。

 子供を抱きしめて守る母親は、絶命しても何度も背中を斬りつけられていた。
 赤子であったとしても、構わずに手にした武器で襲い掛かる。

 叫び声と泣き声と嘆く声があちこちで響き渡り、それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 そんな中、フューリズと話すルーファスの二人だけが襲われることなくその場で佇んでいる状態だった。

 まるで結界でも張られたように、近づく者すらいなくなり、ルーファスは睨み付けるようにフューリズを見、フューリズは怪しく微笑んでルーファスを見ていた。

 動き出したのはルーファスだった。

 フューリズに駆け寄り、勢いよく剣を振るった。そこには躊躇い等は何もなく、本当に傷をつけてでも捕らえようと考えての行動だった。

 すると突然風が舞いだし、ルーファスの足元を掬い上げるように渦を巻く。
 その風にバランスを崩すも、受け身を取って横に回転し着地する。そこに炎の玉が勢いよく飛んでくる。
 ルーファスは目の前に氷の壁を作ってそれを防いだ。


「あら? 私の攻撃を防ぐなんて。お兄様は結構お強いんですのね」

「余裕ぶっているのも今のうちだ!」


 言うなり、ルーファスは雷魔法を放った。ウルスラの力を奪ってから、魔法はイメージを具現化するような感じで頭の中で構築すれば発動出来るようになった。

 通常、魔法は魔法陣を構築し、魔力を体内に巡らせ発現場所を特定し、魔力量を調整してから詠唱により魔法陣を形として発動させるのだが、それを全てすっ飛ばして発動できるのは通常では有り得ない。

 しかし、それをフューリズもしてのけたのだ。その事実にルーファスは驚くも、攻撃の手は緩める事はなかった。

 ルーファスの放った雷魔法で空が鋭く光りだした。それがフューリズ目掛けて一気に落下したのだ。
 雷が直撃する瞬間、フューリズから黒い霧のようなものが身体中を覆い纏わりつき、激しく光る雷を飲み込むように、アッサリと絡み取っていった。

 雷魔法が無効化されてから、黒の霧はルーファスに向かって矢のように飛んできた。その矢がルーファスの体に当たった途端に弾け飛ぶ。
 黒の霧は分散されて、空気に馴染んで消えていった。
 霧が晴れた感じになった時、そこに佇むルーファスの体は光輝いていた。


「ルーファスお兄様にも私の呪いが効かないなんて……ここは何なの? なぜここにいる者達には呪いは効かないの?!」

「呪いが効かない?」


 そう困惑しているフューリズは、少し苛ついているようにも見えた。

 その時、ルーファスの元まで駆けつけてきた人物がいた。


「ルーファス殿下! その者は復讐の女神の生まれ変わりです! お気をつけください!」

「復讐の女神だと?!」


 やって来たのはナギラスとリシャルトだった。
 それを見てフューリズはあからさまに憎しみの表情を出した。
 

「お前が……! お前達が私の前に現れたせいで! 私は全てを失った! 愛する人を失った! 私はお前達を絶対に許さないっ!!」

「それは貴女が持つ筈では無かったものです! 今まで与えられていた事に感謝もせずに恨むとは、言語道断です! それに……ヴァイス殿下もアメルハウザー様をも殺したのは貴女ではありませんか!」

「何っ?!」


 やはりそうだったのかと、ルーファスはナギラス達を見た。この者達に話を聞かなければならない。が、そんな間もなくフューリズは怒り狂ったように叫ぶ。


「うるさぁぁぁいっっ!! 愛を裏切った者が死するのは当然なのよーっっ!!」


 ナギラスの言葉にフューリズは苛立ち怒り、全身からどす黒い霧を放出させた。

 それはルーファス達を覆い尽くしていくけれど、一瞬にしてルーファスの体から発する光に弾かれて消えてなくなった。

 それを見て驚いたのはナギラスとリシャルトだった。光魔法を使える者は希少であり、複雑な術式も相まって発動するのには時間が掛かってしまう。
 リシャルトでさえ、詠唱は何とか短縮して発する事ができる程度で、それでさえも尋常ではない力なのだ。

 それを何も言わずに突然光で弾いた事に、二人は驚きを隠せなかった。

 そんな二人をよそに、自分の攻撃を悉く躱わされたフューリズはまた怒りを露にした。


「なぜ思い通りにならないの?! お前達こそ償って苦しまなくてはならないのにっ!」

「これだけの人を意のままに操り、残虐の限りを尽くしているのは貴女でしょう! 償うのは貴女の方です!」

「黙れ黙れ黙れーっ!」


 そう怒鳴ってフューリズは、空から火の雨を降らせた。
 勢いよく降り注ぐ火の塊は逃げ惑う人々と襲う人々、そして建物をも焼いていく。

 それを見てルーファスは即座に広範囲に水魔法で豪雨を降らせた。そうしてフューリズの放った炎を全て消していったのだ。

 そうされて、またフューリズはギリギリと歯を鳴らし、悔しそうに顔を歪めた。

 しかしそんな事を余所に、王都の状況は変わっていった。

 フューリズとルーファス達が攻防を繰り広げているその近くでは、火傷を負ってボロボロの状態となっていても、まだ襲うことを止めない者達がいた。

 それが突然、唸り声をあげるようにして苦しみだしたのだ。

 痛みで苦痛を訴えているのかと思われたのだが、そうではなかった。
 体がボコボコと中から形を変えるように動き出し、人であった姿は別のモノへと姿を変えていったのだ。

 その現象は、人々を襲っていた者達全てに影響し、至る所で次々に人から異形のモノと化していった。

 その事に気づいたルーファスは、これもフューリズの仕業なのかと思った。こんな事が出来るほどの力を持っていたのかと驚愕したのだ。

 しかし、フューリズはそれを見て恐ろしいモノでも見るような表情をした。


「な、なに?! あれはなんなの?!」

「お前がした事ではないのか?!」

「知らないわ! こんな事、できる筈がないでしょうっ!」

「これは……っ! 魔物です! 人が魔物へと変わっていってます!」

「魔物だと?! 絶滅したのではないのか?!」

「その筈ですが、とにかく排除しなければなりません!」


 気づけば辺りは魔物だらけになっていて、その魔物同士で戦いが始まっていた。
 当然のように人も襲うが、さっきと違ったのは人を食料とした事だった。

 倒した者は全て食料とでも言うのか、魔物はそれを喰らいだしたのだ。

 それにはフューリズでさえ、及び腰になってしまった程だった。

 そして、フューリズを襲わなかった操られた人々も、魔物となってからは呪いが効かないのかどうなのか、フューリズに対しても攻撃してきたのだ。

 初めて目にする異形の存在に、フューリズは恐れ慄いた。
 
 容赦なく襲ってくる魔物に、フューリズも容赦なく攻撃を放つ。
 魔物は焼かれ、串刺しにされ、脳天をぶち抜かれ、フューリズの前に次々と倒れていった。
 
 次々とやってくる魔物を倒しながら、肩で息をするように荒く呼吸を繰り返す。
 そしてフューリズは辺りを見渡し思い知る。自分には今、誰も味方がいないのだという事に。

 ルーファスとナギラス達は、襲ってくる魔物の対応に追われだした。さっきまではフューリズのみ対峙していればよかったのだが、理性も何もなく、あちらこちらから魔物は襲ってくる。
 
 この現象が何故起こったのかは分からないが、今は目の前の敵を排除しなければならない。
 そうやって対応に追われている時に、視界からフューリズがいなくなった事に気がついた。

 辺りを見渡しその姿を探す。
 フューリズはこの場から逃げ出していて、赤い髪をなびかせて走り去っていたのだ。
 ルーファスには、小さくなっていく後ろ姿だけが確認できる状態となってしまった。


「待て、フューリズっ! 逃げるなっ! フューリズっ!!」


 声は虚しく掻き消されてゆく。

 追いかける事は出来なかった。魔物が自分を、そして住人を襲い続けている。
 人であった時は応戦できていた騎士や兵士達も、魔物となってからは一気に戦力が落ちていった。

 叫び声、泣き声、嘆く声、そして雄叫びのように喚き散らす声が、王都に響き渡っていったのだった。

 

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