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遅かった
しおりを挟むルーファス、そしてナギラスとリシャルトの三人で国王フェルディナンの元へ、王都で起こった暴動の詳細を報告しに行く。
今回の事は不可解な事が多かった。
しかし、ルーファスは早急に確認したいことがあった。
「ルーファス、此度の騒動の終息に尽力してくれた事、礼を言う。して、被害の程は……」
「父上、それよりもお聞きしたい事がございます。私と共に暮らしている者は、一体誰なのですか?」
「な、何を言うておるのだ! それはフューリズではないか!」
「もう誤魔化すのは止めてください。王都の暴動を引き起こしたのはフューリズです」
「なに?! それはまことか?!」
「陛下、ルーファス殿下には復讐の女神の生まれ変わりの事は何も言っていなかったのですか?」
「ナギラス……それは……」
「もう隠し立ては止めてください。真実を述べてください……!」
ルーファスに強く言われて、フェルディナンは仕方なくあの日あった事を話した。
ヴァイスとフューリズの婚礼の儀が始まろうとしていたその時、リシャルトによってフューリズが慈愛の女神の生まれ変わりでは無かったと判明した事。
赤子の時に取り替えられ、その能力を奪っていたから髪も瞳も黒かったが、その能力を奪っていた腕輪を壊した途端に本来の赤い髪と赤い瞳に戻ったという事。
フューリズは慈愛の女神ではなく、対になる存在の復讐の女神の生まれ変わりであった事。
それを知った時、困惑したヴァイスを見て受け入れられていないと思ったフューリズは、怒りでヴァイスを殺害したという事。
その後捕らえられ地下に幽閉されていたが、面会に来ていたブルクハルトに危害を加え、その隙に逃げ出した事を話して聞かせた。
「では……慈愛の女神の生まれ変わりと言うのは……」
「それはすぐに見つかったのだ。この王城で下働きとして働いていた者でな。それは美しい少女だったぞ」
「ではなぜその少女をフューリズとしたのですか?!」
「それは……お前が言わずとも余には分かっていたのだ。お前はフューリズを想っていたのだろう? だが慈愛の女神の生まれ変わりと婚姻を結ぶ事は絶対だったのだ。そして慈愛の女神の生まれ変わりは幸せを感じなければならぬのだ。だからその少女をフューリズと名乗らせれば、ルーファスはその者を愛するだろうと……」
「私はフューリズを愛した事等、一度もございませんっ!」
「何?! いや、しかし、ヴァイスとフューリズの婚姻が決まってから、ヴァイスに会おうとしなかったではないか! それは自分と結婚する筈だったフューリズをヴァイスに奪われたと思ったからなのだろう?!」
「違います! フューリズを憎む事はあれど、想うこと等ありはしません!」
「憎む? フューリズを? なぜだ?」
「私から光を奪い声を奪ったのはフューリズだからです!」
「そうだったのか?!」
「フューリズが住む邸の使用人達に何をしていたのかも知ってます。王都の住人を操っていた事もです。そんな残虐で醜悪なフューリズを愛する等、考えられません……っ!」
「なんと……お前は知っておったのか……」
「ヴァイスは知らなかったんでしょう。だから純粋にフューリズを想っていたのかも知れません。ですが、私はその頃からフューリズが慈愛の女神の生まれ変わりだとは、どうしても思えなかったのです。ヴァイスの事も病死だとは思えませんでした。だからそれを暴こうと婚姻を結ぶ事も承諾しましたし、一緒に住むことを承諾して……ではあれは誰だったのです?!」
「本当の慈愛の女神の生まれ変わりは、確かウルスラという名の少女だったな」
「ウルスラ?! それはどんな少女ですか?!」
「どんな状態とは……アメルハウザーに目元が似ておって……髪は黒く……いや、それはフューリズに奪われておった力が戻ってからだ。その前は赤い髪に瞳であったか。それは本来、フューリズの持つものだったのだが……」
「赤い髪と瞳の少女だったウルスラ……慈愛の女神の生まれ変わり……」
「そうだ。ウルスラはお前の力になりたいと言ってくれてな……だからフューリズと名乗る事も承諾してくれたのだ」
「な、なぜ……そんな事を……っ! あぁ……ウルスラ……っ!」
「ウルスラの事を知っておったのか?」
「私がただ一人愛する人です……」
「なんと、そうであったのか?! ならば何も問題はなかったではないか!」
「大有りです! 私はウルスラをフューリズと思い、復讐をしようと……っ! 誰よりも大切にしたい存在であるウルスラに暴言を吐き、辛くあたってしまったのです!」
「し、しかしお前はウルスラより力を与えて貰っているではないか。それはウルスラがお前を愛さなければなし得なかった事なのだぞ?」
「ですが……っ!」
「まぁ、これ以上力を奪わないように気を付ければ、然程問題はなかろう。先程のウルスラはかなり弱々しく見えたぞ? あまり力を奪ってやってはならぬ。その力は命の元となっておるのでな」
「命の元……? それはどういう事です……?」
「力を与えるという事は、お前に命を与えているという事なのだ。お前が欲しいと望み、ウルスラが与えたいと思わなければ、その力は譲渡されぬ。これからはなるべく奪ってやらぬ事だな」
「命、を……」
自分のしてしまった事に、ルーファスはやっと気づいたのだ。
考えれば考える程、思い出せば思い出す程、自分がウルスラにしてきた事はあまりにも酷い事ばかりだった。
誰よりも、何よりも大切に想うはずの人に、喋るなと言い、部屋から出る事を禁止し、そして無理矢理……
ウルスラは何も言わずに耐えていた。ただされるがままに身を任せていた。それは自分を想っての事だったのか……?!
ではあれは夢では無かったのか?
瘴気にあてられ、意識を失ってしまったあの日、夢でウルスラを抱きしめ求めたのは現実であって夢では無かった……
あの時オリビアは何か言おうとしていなかったか? もしかしてオリビアは全てを知っていたのではないか……
そう思ったルーファスはフェルディナンに詰め寄った。
「父上、本当のフューリズを知る者には口封じをしましたか?」
「それは……仕方のなかった事だったのだ。契約の魔法を施した」
「ではすぐにその魔法を解除してください! 私は真実を知らなければいけません! もうこれ以上愚かであってはならないのです!」
「う、うむ、分かった!」
ルーファスの剣幕に押され、フェルディナンはすぐに宮廷魔術師を呼び寄せ、契約解除の魔法を唱えさせた。これで契約はなかったものとなると聞いてすぐに、ルーファスは報告もまだ終わらないうちにその場から走り出した。
ウルスラはあんなに痩せて弱々しくなって、それでも妊娠したと言っていた。あれは自分の子だ。自分とウルスラの子だった。それを、別の誰かと不義をしてできた子だと思ってしまった。
そして故意ではないが突き飛ばす形になってしまった。
なんて事をしてしまったのか……
見えなかったからとは言え、フューリズだと思い込んでいたとは言え、なぜ気づく事が出来なかった?
あの暖かく優しい空気はフューリズとは別のものであったと、なぜ気づけなかった?
これまで自分がしてしまった事を思い起こし、ルーファスは自責の念に駆られながらも急いで自室へと戻る。
早くウルスラに会わなければ……自分の勝手で傷つけたウルスラに謝らなければ……!
魔物討伐で疲れた体など関係ないとばかりに、ルーファスは走り続けた。
一方、ウルスラの部屋で目覚めたオリビアは、そこにいる筈のウルスラの姿が見えない事に狼狽えていた。
部屋の隅々まで探したが、ウルスラの姿はなかった。何処に行ったのか、どうしてこうなったのか、考えれば考える程ルーファスが腹立たしく思えてきた。
ウルスラはいつもルーファスを想っていたのに、ルーファスはそれも分からずに酷いことばかりを……!
そんなふうに考えていると、ルーファスが扉を勢いよく開けて帰ってきた。
「オリビア! ウルスラはっ?!」
「ルーファス殿下っ! あんまりでございます! あんまりでございますっ!」
「オ、オリビア……!」
「何故分かってくださろうとしないのです?! どれだけウルスラ様がルーファス殿下の事を想っていたのか、何故分からないのですか!」
「オリビア、悪かった。私が全て悪かった。だからウルスラに会わせて貰えないだろうか」
「ルーファス殿下……ウルスラ様の事をお分かりになられたのですか……?」
「先程本物のフューリズに会ったのだ。それで父上に全て聞いた。すぐにウルスラに謝りたい。会いたいのだ。頼む、オリビア。ウルスラに会わせて欲しい」
「ウルスラ様が何処にもおりませんっ!」
「なに?! 何故だ?! 何処に行った?!」
「分かりませんっ! ですが……ウルスラ様はあれから倒れられて……お子様は流れてしまったのです……」
「それは本当か?! あれは私とウルスラの子だった! それを分かろうとせずに私は……っ!」
「それでなくともウルスラ様はもう歩く事すら難しい程に体力を無くされていたのです……それなのに何処へ行かれたのか……私は心配で心配で……っ!」
「そんなに、だったのか?!」
「はい……髪は真っ白になり、瞳は空色になり……それからはベッドから出るのも難しい程になりました」
「私が力を奪ったから……っ!」
「子がいなくなったと知ったウルスラ様は涙を流されて……!」
「どうした? オリビア?」
「あの……魔物が王都を襲った事を知って、その……それは自分のせいだと……自分が泣いてしまったからだとウルスラ様は仰って……」
「それはどういう事だ?」 ?
「分かりません! 分かりませんが、ウルスラ様はいつも、自分は泣いてはいけないと仰っておりました! とんでもない事になると……!」
「ウルスラが泣いたから……人が魔物に変わった……の、か……?」
「そんな事ある筈ありませんよね?! そんな恐ろしい事……」
「だがもしそうであったなら……自分がそうしてしまったと気に病んで……」
ウルスラを想うと胸が痛くなる。あの時、王都で歌を聴いた時、やっぱりウルスラはそこにいたのだ。
なぜあの時見つけられなかったのかと、ルーファスはその事にも後悔した。
すぐに捜索隊を引き連れてウルスラを探しに行く。
けれどウルスラを見つける事は出来なかったのだ。
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